異世界からお供を連れてやって来た俺の婚約者が13歳のお嬢様でアニマジャな件

黒巻雷鳴

婚約者の襲来

 俺の名前は篠原ささはらゆう

 性別は男、都内のマンション在住の21歳フリーター。

 利き手は両方、もちろん独身。

 好きな女性のタイプは──


「……ちょっと、アナタ! 聞いてますの!?」

「え? あっ、はい」


 ──おっと、そうだった。

 現在いまの俺はメチャクチャ困惑するあまり、現実逃避をしていたんだっけ。

 休日のお昼ごろ、のんびりと目覚めてくつろいでいた俺の至福の時間ときが、ありえないくらい連打されて鳴った玄関のインターフォンでぶち壊された。知り合いの悪戯かと思って出てみると……。


「そう、よかった。先ほどからワタクシが何度も言っているように、長旅でお嬢様は疲れきっておいでです。さあ、早く中へ入れてちょうだい!」


 これだ。

 いや、つまり、見ず知らずのこのミニスカートのメイドさんが言うには、彼女は俺の婚約者の専属使用人で……いや、そもそも俺には婚約者なんていないのだが……その婚約者というのが、彼女の真後ろで頬を赤らめて立っているフリフリ系の甘ロリなドレスを着た中学生くらいの少女。

 婚約者にしては若過ぎて、フツーに捕まるだろ俺って話で……いや、少女の隣で旅行鞄を両手にそれぞれ持ったまま、俺に殺意剥き出しでにらみつけてくる若い男の執事も、マジでやめてくださいって話で……。


「ちょっと、アナタ! やっぱり聞いていませんわね!?」

「いや、聞いてはいますけどね、その……フゥゥ……俺には婚約者なんていませんし、まだまだ独身でいたいから帰ってください!」

「あっ………………逆ギレでしょ、これ? ねえロベール、こいつ逆ギレしてた? まだ婚約者の分際で、ワタクシに逆ギレかましてきてた?」


 俺の顔を見つめて指を差したまま、メイドさんが使用人仲間に話しかける。ロベールと呼ばれた執事は殺意剥き出しの姿勢を崩さずに、「ああ」とだけ短く答えた。


「ヤスミン、悠真様をこれ以上困らせないで。ここは一度、出直しましょう」

「リュシエンヌ様!? やっとここまで来れましたのに、そんな! それに、お身体の具合も……」

「わたしは大丈夫だから……うっ、コホッ、コホッ!」

「リュシエンヌ様!?」

「リュシエンヌ様ッ!?……貴様ァァァァァァ!」


 突然苦しそうに咳き込み、その場でしゃがんだ少女──リュシエンヌを気遣う使用人たち。ロベールがさらに殺意を増幅させて睨みつけてくる。いや、あの、俺はなんもしてねぇーッス。


「あの……大丈夫ですか? その、救急車呼びます?」

「キューキューシャってなによ!? そんな物でお嬢様が救えるの!?」

「いや……あの、多分はい」

「ふん! 冗談は顔だけにしなさいよ! お嬢様はね、お嬢様は……」

「コホッ、コホッ……ヤスミン、お願いだから……どうか言わないで……」

「お嬢様は……〝アニマジャ〟なのよ……」

「……クッ!」


 どこか悲しげなヤスミンがつぶやくようにそう言うと、ロベールが悔しそうに唇を噛みしめる。


 アニマジャ。


 それは──


 アニマジャ。


 それって──


 アニマジャ。


 つまり──────なんだよ、それ?


「えーっと……ここで大声出されるとご近所さんに迷惑がかかっちゃうんで、とりあえずおまえら、中に入っちゃってください」


 結局俺は、このおかしな3人組をお望みどおり我が家へ通した。


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