第一部 革命
第一章 謀略
第1話
オレの名は。オレの名前なんてどうでもいい。どうせすぐに死ぬんだから。オレは今樹海というところにいる。
ま、どうでもいい。
フフ、笑えてくる。
死のうとは決心したんだよ。
だけど、痛いのも苦しいのもダメなんだよ。
どうしようもねえな。
それでここに来たってわけだ。
ここなら痛くもなければ苦しくもないって思ったんだが、そうでもなかった。
こんなことなら、一瞬で終わるやつにすればよかった。
それでも、その時はやってくる。
もう、なにも見えない。
なにも聞こえない。
ん?
なんか目の前が真っ白に光っている。
誰だろう。
オレに話しかけてくる。
ダメだ。
大陸の言葉だ。
何言ってんのかわかんねえよ。
しばらくすると、その光は強くなっていく。
あれ、何言ってんのか分かる。
そうだね。
宋清!!
目を開けると、女の人がいた。
これが李月麗との出逢いだった。
オレは自分の住まいに戻ってきた。李月麗という女とともに。それから彼女との不思議な共同生活が始まった。彼女は大陸の大国生まれで最近までその国に住んでいたらしい。歳は十九と言っていたが、少し大人びて見える。まあ、オレに女の歳が分かるほど女性経験があるわけではないから、これが最近の十九歳なのかもしれないが。もちろん、彼女はこの国の言葉など話せない。オレが大陸の言葉を会話できるのだ。たぶんあの宋清のせいだ。そんなことはともかく共同生活するなら就職活動しなきゃね。オレは五十手前なので仕事なんて選べないけど。
今日も面接を受けてきたがダメだな。歳のせいもあるけどオレの性格もかなり影響しているのは分かっている。とにかく飽きっぽく自分勝手。そのくせ、自分に甘く他人に厳しい。こんなんじゃダメ。
部屋のドアを開ける。彼女が出迎えてくれる。夕飯の準備はできている。風呂の仕度もできている。そんなのはいつものこと。彼女はいいお嫁さんになるんだろうな。こんなダメ男には引っかからないでほしい。
しかし、オレが金を入れていないのにどこからお金を手に入れてんだろう。そう言えば光熱費なんかの請求もない。彼女に聞いてもなんでしょうねととぼけるばかりだ。そんなこと気にする余裕なんてオレにはないんだが。本当嫌になる。
そんなささやかで小さな幸せも長くは続かなかった。その日は突然やってきた。 その日は雪が降っているとても寒い日だった。就職活動を終えて帰宅したオレは違和感を感じた。
あれ、今日はいないのかな。
明かりがついていない。
こんなに寒い雪の日に外出しなくてもいいのにね。
部屋に入った瞬間、オレは慌てて外に出て彼女を探した。部屋じゅうが荒らされていたのだ。しかも血痕が散らばっていた。彼女が誰かと争ったのだということはオレでもわかった。
そして、運命の瞬間を迎える。
降り続く雪の中血だらけになった彼女を見つけた。
オレの中で何かが弾けていくのを感じた。すると、誰かの記憶がオレの頭に入ってくる。誰の記憶なんだろう。その記憶の視線の先に李月麗がいる。この記憶の持主は宋清。記憶の中でみんながそう呼んでいる。
ふと、背後に人の気配を感じ振り向いた。そこには寂しそうな顔をした老人が立っていた。
老人はなにも言わず、オレに手紙と小さな石を渡してきた。受け取らなければいけないというのを本能的に感じ、オレはそれを受け取った。
「ワシの名は李月秋。その女の伯父だ。警察なんかに行ってはいけない。おそらく政府の手が回っとる。この遺体はワシがやっておく。お前は絶対に大陸に渡れ。おそらくその手紙の中にそのことも書いてあるだろう。このまま港街に行くことだ。頼んだぞ。宋清!!」
それが李老師との出逢いであった。
オレは急ぎ足でその場を離れた。オレの頭だってこの状況がかなりヤバいってことぐらい分かるよ。オレは李老師の言う通りに港へ向かった。
なんだろう。
凄い違和感がある。
まあ、いいや。
気にしている暇なんて今はねえ。
しばらく、歩いていくと、やはり物凄く違和感がある。そう、さっきから歩いているオレの姿がガラスに映っていないのだ。不思議に思ってガラスに近づいていく。
ちょっと待て。
落ち着こう。
一度、目を閉じて深呼吸。
ふたたび目を開ける。
やっぱりだ。
ガラスに映るオレは黒髪が白髪へとなっている。こんなことがあったんだから白髪にもなるよね〜〜。
そうそう、肌艶もスベスベになってシワもなくなるよね〜〜。
そんなわけねえだろ。
ガラスに映るオレはまるで二十歳くらいの容貌をしていた。
周恩君様
この手紙をあなたが読んでいるということは私はこの世にいないということですね。でも、悲しまないでください。私は愛する人のもとに旅立てたのですから。心残りがあるとすれば流星の涙で覚醒したあなたを見ることができないことぐらい。でも、それは無理な話。流星の涙は私の死が引き金になるって伯父様が話していたから。流星の涙は時をかける能力よ。覚醒してからあなたが死ぬまであなたは何度でも時を遡れるのよ。凄いでしょ。まあ、私がそれを見ることはないけど。だって、覚醒する前に私は死ななければならないもの。
すべてを変えて。
何があっても宋麗だけは救ってあげてね。それからその石は流星の涙の成れの果てだけど大切にしてね。
大陸には港から私の仲間が連れていってくれるはずだから。港に急いで。
周恩君って誰?
手紙に同封した地図を見ながらその場所を探す。
あった。
あ、ダメだ。
凄えのが門番してる。
まあ、オレは周恩君という男じゃないからオレには関係がねえところだな。
通り過ぎようとすると門番がオレに話しかけてきた。
「おい、ここだぞ」
「はい〜〜? 何がですか?」
オレはすっとぼける。
「お嬢の連れだろ」
「う〜〜ん。そうかもしれないし、そうでないかもしれないですね」
「どっちなんだ。まあいい」
そう言って門番はオレの首根っこを掴んで建物の中に連れていく。
首根っこを掴まれている奴、初めて見たよ。
中に入るとボスらしい男がいた。
オレの顔を見るなり大爆笑。
本当に失礼な奴だ。
「ほ、ほ、本当にそっくりだ ゲホゲホ。殺す気か」
「俺はトーマス。よろしくな。お前さんの名は? ここから先は本名なんてやめておけよ」
「オレの名はシューティングスター!!」
「ヒャハッハ。流星の涙だけにね。ゲホゲホ。殺す気か」
ああ、これが時を遡れる能力か?
「じゃ、段取りを説明するぜ。まあ、大陸の大国に密航する。以上」
段取りはどこにいったのだろう。
まあ、いい。
シンプルイズベストってことだ。
「あ、それから。着替えを用意したから着替えてこい」
着替えってこれのことかい。とりあえず、着てみる。あいつ絶対爆笑するなと思いながらトーマスのところに行く。
「ぴったりだな。これから行くところでは絶対に素顔を晒すな」
えっ、それだけ?
バイク乗りみたいな格好でサングラスに赤いバンダナ。爆笑ポイント高いはずでは。
オレたちは日が暮れるのを待って出港した。
オレたちは夜陰に紛れて大陸を目指している。すると、トーマスが退屈そうにしているオレに気というものを教えてきた。こいつ教えるの意外とうまいなと思いながら、気の練習を続けていると、トーマスは急に慌てだした。
「お前、それ以上やるな。沈没しちまう」
「何を?」
「お前の手のひらにあるものを向こうに捨てろ!!」
オレの手のひら?
あれか。
やっちまうか。
「かあめえ○あめえ、はあ!!」
えっ?
なんか大きな船が燃えてる。
「おい、やばいぞ。周囲を政府の船に囲まれているぞ。お前、さっきの撃ちまくれ!!」
さっきのって。
これ以上言ったら、怒られちゃう。
オレは無言でそれを撃ちまくった。
周囲に敵船がいなくなったのを確認してトーマスが話しかけてきた。
「李老師が言ってた気の化け物ってこいつのことか」
大陸に上陸した。トーマスとはそこで別れた。バイクを渡され海秋基地というところまで行けと言われた。立ちふさがる敵はあれを撃っていいと言われた。バイクって、だからこの恰好なんだね。
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