第十話 『治安維持のための冒険者雇用!?』 その39


 貴族というのは、駆け引き上手ではあった。オレたちが、この悪霊貴族の言葉に対して、どんな風な反応を強いられてしまったのかといえば、もちろん、ミッフィーを操られる可能性だ。「人質であり、戦闘員なら。かなり使いやすいわよね。拷問官として、身体能力も十分にある。武術の鍛錬もしているでしょうし。ほんと、妥当よね」。


 そうだ。


 ベテランというものに対して、戦術が有効な理由なひとつでもある。「反応速度が良すぎるのよね。戦術を予想してしまっているから。だからこそ、その早さが災いを招いてしまうコトだって起きてしまうもの。レオたちはダサくないわ」。ダサいだろ。


 これだけのメンバーがいて、思いっきり。


 悪霊貴族野郎に騙されていた。ミッフィーに対して注目し、ミッフィーを傷つけずに無力化して助け出す。そのためだけに隊列まで無意識的に組んでしまったわけだ。「悪くない。反省すべき点は、ちょっとはあるわね。魔王戦争時代の貴族は、しかも、裏切り者になれるような男は、狡猾さが一段階ほど上なときだってある」。


 操られたのは。


 小説を書いているような内気な看守くんのほうだったよ。


「うああ、あああああああああああああ!!」


「くっ!?」


「そっちを、あ、操るなんて……っ」


 判断ミスだった。彼も看守である。気弱ではあるが、十分に戦闘訓練を行ってきた人物。身体能力はそれなりにあるし、武術の腕だって別に悪くはない。警棒を振り回すその動きは、切れがあった……これがいけない。「中途半端なカウンターでは、レオが殺されるリスクもあるわね。かといって、全力のカウンターでは、殺しちゃう」。


 厄介なレベルの差があったんだ。それも、「あの悪霊は計算済みだわ」。


『楽しませてくれたまえ』


「楽しむつもりなんて、ねえよ」


 十秒ほど対策に困ったが、繰り出された七振りの警棒を回避しながら対処を汲んでいった。武術の腕前では、あきらかにこちらが上だったから。『渡り鳥の大剣』で警棒を受け止める。「折っちゃったわね!」。


 そうだ!


 ついでに、ちょっと、乱暴な真似をするんだが。「ごめんなさいね」。ほんとうに、そう。


「ぎゃふう!?」


 左の拳を顔面に叩き込んだ。悪霊に操られて、興奮状態。「強化もされているわ」。そうだ、だからこそ、少々、強力な拳を打ち込んでも死んだりはしない。「彼も鍛えている。囚人たちに、ぶん殴られた経験ぐらいあるんでしょう」。


 だと思う。


 一気に、崩れ落ちてくれたが、首を折るような倒れ方はしちゃいなかったからね。「武術は身を守ってくれるわ」。


 だから。


 彼を無力化したときには、ラキアが動いている。悪霊を仕留めて、この世から消し去るために。「貌神の力を引き出している。レオたちの記憶も、今この場で消そうとしているのよ。密偵としては、とても正しいのだけれど」。


 代償がいるだろ!


 それが、大大大問題なんだよ!!


「ラキア、貌神の力を使うな!! 情報ごと、お前の記憶まで消える!!」


「知ったコトかでござる」


 本当に。


 マジメなんだ。「あの子には、もうルクレート王国しかないのよね。だから、自分の記憶も、自分の存在だって、道具として使えるの。世界を消しながら、自分さえも消えていく。消しゴムみたいに思っているんじゃないのかしら」。


『私を消すために、必死だな。そのまま、私と一緒に消えてしまえばいい。気高い血の者の葬列には、はるかな昔から追従する供物の死者がいたものだ!!』


 貌神の力が込められた刃が、どんどん悪霊を切り裂いていく。刻んで、消して。「覚えておきなさい、レオ。覚えておこうとすれば、ちょっとはラキアの『消耗』もマシになる」。がんばるよ。でも、オレだけじゃ足りないだろう。


「アイーダ!!」


 オレが叫ぶより前だったかも。同時だったかも。わからない。それぐらいの速さと早さで、アイーダはラキアを羽交い絞めにしていたんだ。


「何を、するでござる……っ」


「やめておけ。そんな悪霊ごときのために、自分を犠牲にするな」


「安全のためでござる。レオンハルト・ブレイディに、魔王戦争時代を再来させるための選択肢をあたえるわけにはいかない」


「オレは、そんな真似はしない!!」


「そうだ、しないでござるよ。拙者が、さっきの記憶ごと、消してやるから」


『いい覚悟だよ。想定以上の、覚悟だ。しかし、君の仲間は、覚悟が足りないねえ!!』


 ミッフィーが動いた。


 この悪霊野郎にとって、本命の駒がね。


 混乱した状況での、新戦力の投入。「戦い慣れしているのよ。魔王戦争時代よりも前の貴族社会においては、決闘が盛んに行われていたもの。戦いの技術を学ぶためと、プライドのため。実に戦術的な発展をしていたわ」。


 にらみつけられる。


 ミッフィーに。


 初対面で、話したコトもないのにな。彼女から親の仇でもあるかのような勢いでにらみつけられた。でも、無視する。


「オレの幸運を、くれてやる!!」


 ラキアを止めて欲しい。記憶を忘れてしまわないように。ラキアとアイーダの間にある思い出が、記憶が、つながりが、これ以上……「いいわよ。私のレオ。誰かのための祈りは、いつだって心地いい」。


『よそ見している場合か、赤毛---』


「―――大丈夫だよ。お、お前は、消し飛んじゃうから」


 ローズは頼りになる。天才ネクロマンサーなんだからな。「断末魔も残させずに、消し飛ばしてしまったわね。さすがは、レオの妹だわ」。首筋に噛みつかれ、幸運を吸われた。


 ルメ。


 どうにか、してくれ。さっきから、ラキアといつ出会ったのか、わからなくなりつつある。「大丈夫。縛神も動いてるから。愛されてるわね、密偵さん」。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る