第十話 『治安維持のための冒険者雇用!?』 その36


 物事には、どうにもつながりがあるらしい。「伝統の悪いトコロが出ているわね。経緯と縁で、いろんなトコロまで、がんじがらめになっている」。


『私たちの行動を、端的に表現するのはいかがなものか』


「行動の最終的な理由なんて、端的なものだろ。感情や本能的な衝動を、貴族だって制御し切るなんて不可能だ」


『貴族の精神力を理解してもらえていないようだね。私たちは知的な選択をしたよ。だが、それでも……一部分、認めてやろう』


「ナイフをわざわざ見せてやった甲斐があるよ。白状してくれた」


『忠犬のようだ。ストラウス三世に、それほど愛情があるのか』


「お前とは違ってね。ルクレート王国や、世界……人類全体のために、オレたちは戦った。お前は、それを裏切った」


『政治的な関係性というものは、複雑でね。君のような者が貴族の一員になるなど、ストラウス三世はますます理想を捨てたようだ』


「理想を捨てられる度量もあるってコトだろ。世の中を変えられる力がある」


『変えられては、損なうのだ。数ある美徳が、この王国から失われていく。それがどれだけの痛苦か、わからないだろう。お前のような成り上がりごときには』


「わからんね。ちょっと前までは、わからんままにして、お前を腕力任せに除霊していたかもしれん。だが、少しは成長がある」


『爵位を得て、貴族文化に媚びたいのかな? 貴族の先輩として、君が引き継ぐべき態度や礼節、歴史や世界すべてとの関わり合いを教えてやりたくもあるが……これらの教養は、一長一短では身につかないものだ』


「だろうな。オレもそこまで期待しちゃいない。だが、ちょっとはわかる。お前は、変わってまう世界が嫌だっただけだ」


『屈辱だよ。虫唾が走る。おぞましく腐敗し、うじ虫どもに身を体内から食い破られるような痛みだった。わかるかい。愛しているんだよ、私たちの王国を』


 貴族というのは、プライドのカタマリみたいなヤツだな。「国境沿いの領主も言ったでしょう。土地を継承する。それは、ときに、家族の命よりも大きい。伝統を継承するって、ちょっと理不尽なまでに大きな負担ではあるわよね」。


「貴族の仕事も大変そうだ」


『君も、遠からず、その身で理解するようになる』


「なるとは思えない」


『貴族の伝統を否定したがるのは、貴族の伝統に片足を突っ込んでいるのと同義だよ』


「なんだよ、それ」


『自分とは関係ないとまでは、思えないのさ。爵位をあたえられれば、そうなる。土地や、土地が引き継ぐ物語こそが、私たちの守るべき価値。それを、ストラウス三世は解体し始めていた』


 親の仇よりも憎んでいるらしい。「その感覚は、おそらく正しいわ。貴族ってね、領地を奪われたほうが、親を処刑されるよりも傷つくものよ。長く、自分の領地を所有していくという行いは、人をそんな風に変えていく。伝統に囚われていくの」。


 悪いコトじゃない。「そうね」。


 でも。


「アンチ王さまだったから、魔族に共鳴したと?」


『そんなところだ』


「魔族がどれだけの破壊をもたらすのか、考えもしなかったのかよ」


『破壊こそが、目的だったとわからないのかな』


「……お前の領地や、下手すれば、ルクレート王国そのものさえ、破壊されるんだぞ。あいつらの徹底的な破壊を、お前だって、知っていたんじゃないか?」


『すべてを破壊したとしても、かまわない。再生すればいいんだ。我々が主導するかたちで、きちんとしたルクレート王国を再生する』


「……レオンハルト・ブレイディ。こいつに、あまり期待するなでござる。悪霊に過ぎん。残骸のようなものだ」


「本音は遺っているように思うぜ。無学なアホじゃない。ちゃんとした教育を受けられる貴族の生まれだ。それなら、たしかに……知性をしっかりと使ったあげく、魔族に寝返った。そういう感覚を、ちょっと、理解しておきたくなってな」


「内戦回避のための、方法を見つけたいのか」


 アイーダの言葉に、うなずいた。


『やはり社会は、破壊を求めているようだね。移民どもは増えたか? 冒険者どもが我が物顔で爵位まで奪い始めたか? どれだけ、かつてのルクレート王国は損なわれているのだろうかね。失望に値する未来だ。暗殺されて、感度に優れた生きた肉体で、そんな時代を味合わずにすんだ』


「そいつは良かったな」


『分断に引き裂かれ、苦しむ我が祖国を見ずにすんだのは幸いだよ。移民どもの、汚らしい足に、どれだけルクレート王国の土地を踏ませるつもりか。正当な怒りに、我が同胞の魂は―――』


「―――ベクトラ伯爵は、お前の仲間か?」


 アイーダが、オレをにらむのを感じた。一瞬だけね。「あいつ、まだベクトラの犬なのよね」。どうかな。どうであれ、聞いておくべき質問は、しないといけない。



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