第十話 『治安維持のための冒険者雇用!?』 その32


 我が妹である天才ネクロマンサー、ローズマリー・ガトウの本領発揮の時間となる。「あの杖を使うのね。『死霊送りの杖』を」。本気の全力でコトにおよぼうというのなら、それは当然の選択だった。アルベルト・ヨハンセンが……大勢の仲間の命を生贄にして、その対価として魔神たちから授けられたもの。


「……それも、魔神にまつわる産物だな」


「そうだよ。あ、悪人が、自分たちの仲間を殺してまで、て、手に入れた力なんだ。私なら、そ、そういうのだって使えちゃうんだ。ネクロマンサーに、て、適した装備なら、何だってね。いひひ!」


「す、すごい……っ。ね、ネクロマンサーなら……しかも、ま、魔神憑きが、魔神に生贄をして得たマジックアイテムを使うのなら……な、何だって、やれてしまいそうだ」


「危険ではあるがな」


「大丈夫でござるよ。その子は、本物の天才でござるから」


 才能というものは。


 ときどき傲慢ではある。「世の中をどれだけ自分の才能に振り回せるのか。それが天才の基準のひとつだもの。この子には、権利がある。圧倒的な才能で、周りに迷惑をかけたとしても、許されるほどの力があるの」。さすがは、我が妹。


 最高にカッコいいぜ。


「おいで、お、おいで。貴族の悪霊。め、冥府から這い出てこい。お前に、こ、声をあたえてやろう」


 紫色にかがやく五芒星が生まれた。ローズの靴底を中心にして。「禍々しいいかがやきね。魔族が大喜びしそうだわ」。オレだって喜んでいるぞ。禍々しいとは思わない。妹のかがやきなんだからね。「だいぶアタマがやられてきているわ」。


「ひ、ひいい。だ、大丈夫ですかっ。な、なんだか、邪悪なモノが這い出たり……ま、街で、そう言えば、おぞましい怪物がネクロマンサーの力で召喚されたとかいうウワサがあったようなっ」


「そんな失敗については、わ、忘れるんだ」


「あ、あなたが、あなたが、や、やったんですねえええ!!? だ、大丈夫なんですか、ほ、ほんとうに……う、うあああ。し、白い腕が、た、たくさん……にょ、ニョキニョキたくさん、は、生えてきていますうううっ」


 密偵と相談役さんが、ゆっくりとそれから後ずさりする。「お兄ちゃんは逃げないのかしらね?」。逃げる必要がないときに、冒険者というものは後ずさりなどしない。「生存本能、ちゃんと息してるのかしら」。愛は何かに勝利する。「いい言葉ね。ステキな哲学だわ。私は、ちょっとだけはなれておこう」。マジで?


「う、うあああ。し、白い腕が、み、ミッフィーをつつんでいくっ。す、スケベな小説だったら、た、大変なコトになっているところだ……っ」


「お前、ロンドリみたいなコト言うんじゃねえよ! うちの妹が召喚した、無数の、何だかわからん白い腕に謝罪しやがれ!! あの、なんだか、わからん……白いのに!!」


 見れば見るほど。


 考えれば考えるほど。


 あれらが何なのか、よくわからなくなってくるぜ。「わからない。正しいわ。あれは、魔神にだってわからないの」。いいや、知ってる。ルメは何でも知っているから、知っているけど、知らないフリをしているだけだ。「ばれたか」。


「悪霊に、よ、依り代をあたえてやるぞ。ほら、ほ、ほら。しゃべれよ。ず、ずっと、ずっと、何か文句があるから、こんなトコロで悪霊なんてやっていたんだろう」


 ネクロマンサーは……。


 理解の力なのかもしれない。そんな風に思える瞬間だった。生者としか、オレたちは話せない。でも、ネクロマンサーはちょっと常識が異なるんだよね。


 死者とだって、語り合う力を持っている。


 それを、正しいと信じていられるからこそ。これはこれで、とてつもなく、やさしい力であるようにも思えるんだよ。


「し、白い腕たちが……っ。あ、編まれていく……っ。ひ、ひとつにっ」


「いひひ。そ、そうだよ。これは、編む力。あ、編む腕だよ。さあ、さあ。あ、悪霊よ。そのすがたを、お兄ちゃんたちに見せるんだ!」


 白い腕が集まるそれは、強い光を一瞬だけ放ったあとで。立ち尽くすミッフィーのとなりにフワフワと浮遊するカタマリに化けた。「顕現するわね。自殺した、裏切り者が」。ほんと、腹立たしいヤツだ。死んだあとでも、ちゃんと、怒りをぶつけられる。


 あまり。


 好ましい相手ではないのだが、ミッフィーのためにもハナシをつけるべきだろう。


 フワフワとしたかがやきは、だんだんと形と輪郭を獲得していった。空飛ぶバケモノ。空飛ぶ幽霊。いや、悪霊か。


 そいつは貴族らしく、豪奢な服を着こんでいやがる。死んで地獄に堕ちても、フリル付きだってよ。

「地獄がどんな場所なのか知らないが、そんないかにも「金持ちですけど?」みたいな態度の服着てたら、カツアゲされるんじゃないか?」

『……無粋な発言だね。貴族から服など奪うものじゃない。これは高いし、ただひたすら私のためにだけ作られたものだ。奪ったところで、私以外の誰にも着こなせたりしないものだよ』

「そうかい。だが、金になるなら奪ってやりたくなる。とくに、裏切り者の服なんぞ」

『フフフ。短慮な男だ』


「うるさいぞ。お、お兄ちゃんは、めちゃカッコいいんだ」


 ありがとう。


 心に刺さった。「ちょろいシスコンね。でも、こいつの前で、大切な存在を教えるなんて、さすがに不用心だと思うわ」。そうかも。得体の知れない、裏切り者悪霊か。


「ローズ、ありがとう。よくやったぞ。オレの背中に、隠れててくれ」


「うん。あ、あっかんべー。このクソ裏切り者の悪霊め」


『無礼な兄妹どもめ』


「うるせえよ。ステキな兄妹だろ。こんな夜遅くまで、祖国の平和のために働いているんだぜ」




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