第十話 『平和維持のための冒険者雇用』 その4


 アイーダにとって、ルクレート王国というものへの愛情はやたらと大きい。それは、ベクトラ伯爵に対しての感謝や尊敬以上に、大きなものだった。


 自分たち姉妹を助け出してくれた国だから、かもしれない。死体の積もった井戸の底から助けられ。サイテーの地獄から、生かして連れ出してもらって、保護されたわけだ。


 王さまは見返りを求めなかっただろう。


 そこまでケチ臭い男じゃない。


 もちろん。ベクトラ伯爵だって、そうだろうよ。救助した悲劇の犠牲者に、恩を着せようとは思わなかったんだ。


 ラキアとアイーダは、自分の意志で。


 ルクレート王国を守るための戦士になった。魔神と契約までして、戦うコトに。


「……乗ってやろう」


「そう来なくちゃな!」


「地下牢で、腐るまで待つのも悪くないと考えつつあったのだが……それは、私らしくない。トルーバの貴族の娘は、いついかなるときも、死を嫌うべきだから。自分よりも、大切なものを守るための戦いでだけ、死ぬのが許される」


「素晴らしい覚悟だよ」


「……私は、いつ地下から出られる?」


「数日後には、必ずだ」


「自由の身か?」


「……完璧な自由ってわけには、いかないだろう。オレの予想では、首に鈴がつけられる。オレにとって、その鈴は好ましいんだ。おそらく、君にとっても」


「密偵ラキアがつくと」


「お節介野郎だろ。オレもだけど、王さまも。兄弟姉妹で争うなんて、王さまからすれば、世界で一番見たくない悲劇だから」


「仲良く出来るとでも?」


「オトナだろ? やれるって。まずは、演技でもいい。社交辞令でもかまわんよ。ちょっとずつ、ちょっとずつ、なれていってほしいね」


「『妹』で、私を懐柔するつもりか。レオンハルト・ブレイディよ」


「そうなったら、みんなハッピーなんじゃないか?」


「……雑な」


「しょうがない。男で、冒険者なんだから。でも、そんなオレだからこそ、利用しやすいと思うぜ。裏表もない。そんな知性はない。ただシンプルに、ルクレート王国の平和を願っているだけの男だ」


「……知りたい情報は?」


「あるよ。ベクトラ伯爵の真意とか、兵站網とか……彼の私設軍の大きさとかも。君が創り上げたんだから。くわしいだろ?」


「関わっていたのは、一部に過ぎん。私は現場監督のようなものだ」


「現場を把握しているなら、十分だよ。少なくとも、オレはそこまで詳しくない。ロッドから聞きかじった程度だ」


「ロッド・バーンか」


「元気だぞ。ロッドは、君をほめていた」


「いい戦士職だった。お前よりも、軍隊向きかもしれないと評価した」


「さすがの目利き。さすがはロッド。我がギルドで最高の壁だな」


「悔しがるかと思ったのだが」


「嫉妬するような事実じゃない。ロッドは優秀だ。仲間を守るコトに関しちゃ、オレよりも格上。あんな粘り強い戦いをする男になら、喜んで負けてやれる」


 最新のロッド・バーン情報を教えてやったよ。「エルミー・ブラネットについても、この女は知っているのね。雇わなかったみたいだけど」。当然だろ。「当然ね。軍隊に向くハズないもの、あの乱暴者の女が。他人との連携なんて、無理よね。ガマンも」。


「兵隊の適性というものは、冒険者のそれとはまた別なんだって、把握しつつある。ロッドは、オレよりもずっと……」


「兵隊向きの人材だった。戦術理解も高く、慎重で。傷つく危険を恐れず、仲間を守ってくれる」


「オレよりは、兵隊に向く」


「お前は、向かないと思った。それに、陛下を襲撃するような人物だから。ロクデナシだと認識した」


「じゃあ、シデン・ボニャスキーにも声をかけなかったと」


「あんなテロリストについて、情報を探りたいのか?」


「いいや。シデンとは、仲良しだよ」


「逃亡犯を雇っているのか。冒険者として。ギルド長としては、大問題なんじゃないか」


「まあね。だから、秘密にしておいてくれ」


「どうかな」


「イジワルするなよ。オレたちは、仲良しになったんだから」


「仲良しではない。そうは、ならない」


「可能性を信じろ。君は、リクルートしなかった人材のおかげで、自由と、平和を作るための戦いに参加できる。捨てた選択肢でさえ、これほどの可能性を持つんだ」


「……私は、お前のギルドで、どのような立場になる?」


「軍事顧問はいるから、警備責任者かな」


「お前の護衛をやれと?」


「いいや。『ルクレート王国の護衛』をするんだよ。警察という組織が、かつてあったらしいんだが。知っているか?」


「まさか。警察をルクレート王国に作る気か?」


「そのまさかだよ。冒険者は、余っている。クエストをこれからも作りたいとは思っているが、別口の雇用も用意したい。犯罪対策専用の、治安維持に貢献する戦力を。軍隊を強化しなくても、こっちを強化すればいい」


 女性の心のすべてを見通せる眼力を得た。などとは、言わないよ。「そうでしょうね。看板娘にしたコトさえ覚えていない愚鈍ですもの」。ぐどんって、どういう意味だろう。悪口って意味なのは、わかるけれど。「それなら十分よ」。


 とにかく。


「興味あるんだな」


「……顔がゆるんだか?」


「そうさ。ヴィジョン/目標を、君は得たんだろう」


「乙女は己の心を、うかつな軽薄さではこぼさんよ」


「わかった。だが、オレはそう思っておく。だってさ。警察と、治安維持。侵略戦争用の軍隊よりも、ずっとデリケートで、繊細な連携が必要そうだから。君に向くと思うんだよね、アイーダ。君の正義は、守るためにあって、悪について怒りを持っている」


「そんなに潔癖では、いられないさ」


「当然だ。生身の人間は、純粋無垢じゃない。それでも、そうありたい自分のために、努力を惜しまないだけだ」



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