第九話 『傭兵ブーム到来!?』 その86


「……兵站についての『基本的な考え方』ってのは、どういうものがあるんだろう?」


「いい質問ですねっ」


「さすがは、レオンハルトご主人様ですっ」


「私たちが『ヘカトンケイル』の名にかけてっ」


「しっかりと、お教えいたしますのでっ」


「ああ。勉強しておくよ。平和維持のためにな」


「粉屋の御子息であられるレオンハルトご主人様には、わかりやすいと思いますがっ」


「最初の優先事項は、情報の管理でございますっ」


「……『お客さんのニーズ』かな」


「おおおっ!」


「そうですっ!」


「つまり、兵士のニーズというわけですね」


 ニコレッタが言い直してくれたから、オレも想像力を使いやすくなった。商売のときは『お客さんのニーズ』が絶対だ。小麦粉を運び込むべきタイミングというものがある。小麦粉が有り余っているような土地に、運んだってしょうがない。


 安くなっちまうからね。せっかく苦労して運んだ小麦粉が、安くしか売れないなんて地獄じゃないか。命がけの労働なんだぜ。街道にはモンスターも出ていたし、今でも盗賊や山賊や泥棒たちが、街道で襲撃を行っている。


 ……兵站の場合は、価格は気にしなくてもいいが。


「足りない場所を、把握すべきなのだろうか」


「一概には言いにくいのですが、バランスですねっ」


「足りない場所も、足り過ぎている場所もっ」


「つまり、すべての状態を把握しておくべきと」


「まさに、『情報管理』の技能が重要なわけですか。役人仕事と、似てはいます」


 情報管理か。「レオは上手そうじゃないわね。管理という概念そのものに、窮屈さを感じてしまうんじゃないかしら」。それは、ある。だが、学ぶんだよ。いいギルド長になるために。「よろしい。考えてごらんなさい」。


「伝書鳩とか、のろし……早馬、伝令」


「情報を伝える速度も、もちろん大切なのですがっ」


「正確さと、情報漏洩対策も必要ですねっ」


「事務員としては、備蓄の効率さも重視してほしいです……って、もしかして、授業の邪魔になるでしょうか!?」


「いえいえ、ニコレッタお嬢さまの発想はっ」


「私たちの授業をさらに補強してもらえていますっ」


「そ、そうかしら。それならば、良かった」


 きっと。我が弟、ドミニク・ブレイディと同じように。ニコレッタ・クインシーも、優等生だったんだろうな。「教室で先生に質問しまくるタイプだったのでしょう。ウザがられるときもあるけれど、学びを得るためには役立つ優等生ちゃんね」。


「これからも、どんどん教えてくれ」


「はい。ギルド長のお勉強を、手助けいたしますね!」


 うむ。ドミニクの気配を感じるぜ。勉強の手伝いをやれたら、宇宙一しあわせそうな顔をするんだ。「知識の大切さを認識するのが、レオよりもはるかに早かったのね。アタマのデキのちがいを、感じさせるエピソードだわ」。ほんと、そう。ガキのころから、ドミニクは知っていたのに。オレときたら、最近までわからなかったんだからね。


「『情報管理』が第一ならば、兵站における第二の優先事項はっ」


「『物流システムの構築』になりますっ」


「手段か」


「これは、ベクトラ伯爵が具体的に実践していますよね」


「ああ。三つの巨大なルートを用意している。内・外・自前のな」


「利用可能なルートは、最大限に活用しようというのが基礎になりますっ」


「現状は馬車による輸送を主眼にして評価していますが、水路、海路も大切ですっ」


「水路か……ファーガルあたりじゃ、けっこう発展しているんだよな」


「ルクレート王国にも一部はありますが、馬車陸運ギルドと陛下が懇意だったので」


「なるほど。内戦時代の前後で、水路よりも馬車陸運が強さを発揮したというわけか」


「内戦発生がもたらす衰退のリスクですねっ」


「主幹クラスの産業でさえ、政治的判断から衰退を招いてしまうっ」


「仲が悪いと、そうなっちまうわけだな。じゃあ、オレたちが水運のほうとも連携しようか」


「野心的ですね、ギルド長」


「落ち目になって久しいなら、手を貸してやりたい。王さまだって、別に嫌がらんだろう。むしろ、自分を狙ってくるかもしれない『不仲な相手』がいないほうが、安心するさ」


「いい課題だと思います。しっかりと、メモをしておきますね。対象となる水運系ギルドについても、明日の朝までには調べておきます」


「あ、ああ。まあ、そんなに急いでもらわんでも大丈夫だが」


「で、ですよね。今は、兵站についての学びのとき……」


「内戦という『人災』も含めて、兵站はより耐久性を高めておくべきですっ」


「災害にも揺らがない、頑強な兵站があれば、恥ずべき大敗をするリスクは消えますっ」


「プランBを用意しておくのが重要なんだな」


「単純な代替手段というよりも、組み合わせが有効かと」


「その通りですっ」


「馬車だろうが、人力だろうが、川に流そうが、海を使おうが……自由自在の組み合わせこそが、真にタフな兵站なのですっ」


「軍隊は、ひとつの大きな生き物みたいなものだからっ」


「『恒常性』を重視するデザインが、とっても有効なのですっ」


「常に生き延びるのに適した状態を、目指すように動け、か。状況に応じて、複数の輸送手段を組み合わせられるように、備えておくべきと」


「従事する人員たちの訓練や、連絡網がものを言いそうですね」


 学びが多くて、助かる授業だ。


 軍事顧問さん姉妹のおかげで、戦争上手に化けられそうな気がする。




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