第九話 『傭兵ブーム到来!?』 その57/大剣の継承者


 傭兵野郎の胴体に、『渡り鳥の大剣』の一撃が当たっていた。深く。右肩のつけ根から、腹の近くまでを。裂くように。


 血が噴きあがって。


 あいつの動きは壊れた。


「当たったのは……オレのほうが早く―――」


「―――そいつは、気のせいだったな」


 返す刀というものがあって、剣術は連続攻撃するようにできている。サーベルを打ち据えて、傭兵野郎から何もかもを奪った。


 若い頃なら。


 オレにだって、勝てたかも。


 戦いすぎていて、すり減っちまった体は、そんなに強くなかった。老い。老いる。冒険者みたいな生き方をしていると、体力の衰えも早く来るらしい。「ケガばかりしていると、そうなるの。にごっていく、カンジなの」。


「オレも、きっと、お前と同じように……自分よりも弱い若いはずの若いヤツに、負けちまうんだろうけど。今日は、そっちの番だ」


「……ちくしょうめ」


 血があふれすぎている。下手すれば、死ぬかもしれない。


 だから、周りの傭兵たちに伝えておこう。


「オレの勝ちだ!! こいつを死なせたくないだろう? お前たちのリーダーなんだからな!! これ以上、争えば……治療をしてやるコトもできないんだぞ!!」


 傭兵たちは、やっぱり戦いのプロフェッショナルらしい。争おうとはしなかった。「いちばん強い傭兵が負けた。この状況で、『本当の戦い』をすれば、全滅させられるのは傭兵たちのほうよね」。


 本当の戦いか。殺し合いを、そういう言い方はしないでくれ。もっと、戦いってのは、尊いように思っているんだから。「甘いんだから。さすがは、私のレオ」。ルメは、空中で逆さまになっていた。絵本に出てくる幽霊みたいに、ルメは空中をいくらでもフワフワ飛べるから。「混沌神なんだから、それくらいやれるのよね」。


 そのまま、オレの額にキスしてくれる。


 どういうつもりなのか。「はげましてあげているの。手練れの傭兵にまで、勝てたから。冷静だった点も、評価している。不安に駆られたら、貴方の動きは鈍っていたわ」。そうかもしれない。


「武器を、捨てろ!! 全員、拘束する!! 治療に参加できる傭兵がいれば、言え!! そいつらだけは拘束しない!! 助けられるだけ、全力で、助けるぞ!!」


 協力的だったよ。


 傭兵たちも、もちろん『国境警備騎士団』の方々もね。「……仲間だけじゃなく、敵まで治療。人道的よね」。敵っていうほど、敵じゃない。「殺されかけたのにね」。勝ったから、問題ない。「ええ。勝者には傲慢さが許される」。


「……傷口を、焼いておくか?」


 オレが斬った傭兵野郎に質問をする。激痛であぶら汗を垂らしている顔は、憎しみでゆがんでいた。まあ、当然だな。


「もっと、マシな治療をしやがれ……ッ」


「そういう魔法は、使えない」


「……ちくしょう。焼け……焼いて、血止めを……死にたく、ねえ」


「いい言葉だ。心の底から、同意できるものだ」


 敵ではない。


 そう思わないコトにしよう。理想主義者みたいで、カッコいいだろ。「ノーコメント」。カッコいいんだ。正しいコトをしているときは、みんなそうなるって知っている。


「ぐ、あ、あがああ……ッ」


「スゲーな。さすがは、傭兵。傷を焼いて止めるのは、なかなかキツさがあるはずなんだけど」


「こ、これぐらいで、わめくかよ……戦いは、なれてる……っ」


「気合い、入れておけよ。出血量は、かなりえぐい。意識を失えば、死ぬかもしれん。オレを、恨んでいい。いつか、元気になったら、復讐をしてもいいぞ」


「騎士ぶるのか……ッ。旧い時代の、騎士の、真似事なんぞ……ッ。『渡り鳥の大剣』の、使い手に……相応しい男の、つもりかよ……ッ。そいつは、お前ごときの、ものじゃねえんだ」


「伝説を持っている剣らしいな」


「その、通りだ……本当の、傭兵。本当の、冒険者。本当の、戦士。本当の、騎士は……ただひとりだけ……オレのあこがれを、奪うんじゃない」


「もっと相応しい男を目指す。戦いを、もっと上手に止められるような男になる」


「彼女は、男じゃない。女だった」


「女になるのは、ちょっと、ムズカシイな」


「……腹が立つ……お前は、ちくしょう。負けたくなかった……団長に、申し訳が、立たねえ……」


「お前が団長じゃなかったか。どこの、傭兵団だ」


「……『ヘカトンケイル』だ」


「ミケとニケは、オレが雇ったぞ」


「……あっちが、分家だ。『ヘカトンケイル』は……分裂しちまったからな……騎士どもの、せいだ。クソ……クソめ……ッ」


「にらんでやるなよ。ずいぶん、痛めつけただろ。彼らは、オレたちギルドにも、ついさっき負けたんだ。追い詰めてやるな」


「……負け犬同士、傷をなめ合えとでも……」


「それがやれるのなら、やってみたらいいんじゃないか。お前の、血の気の荒さもちょっとはマシになるだろう。お前、お前な」


「なんだよ……」


「オレに、あんまり人を斬らせるなよ。死ぬんじゃねえぞ。もっとな。戦いって、誰かを幸せにするためにやるようなもののハズで。オレは、今な……この国境線で、誰よりも勝者のハズなのに。嬉しくもなんともねえんだぜ」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る