第九話 『傭兵ブーム到来!?』 その44/不運なる一撃


 けっきょくは、こうなるか。


 正義を保障するのは、力ってのも事実なのかもしれない。


 素早く分散してくれたミケとニケは、騎士の群れへと飛び込んでいく。ミドルソードを振り回しながら、斬撃を容赦なく叩き込んでくれた。


「ぎゃあ!?」


「こ、こいつ、何て速さなんだ!!」


 猫かぶっていない冒険者レベルだったら、30は軽く超えていると思うんだよね。「レオと似たようなものだわ。容赦がないだけに、スペック以上に強さはあるかもしれない。レオだと、やさしすぎて人を斬りつけるのに戸惑いを覚えてしまうんだもの」。


 反論不可能だった。


 こうして、目の前の敵に挑んでいる最中にも、どこか迷いがある。「レオらしい。それがなくなれば、二倍は強くなるけれど。私が好きなレオじゃなくなるのよね」。


 愛されたいと願う。


 愛されるほどの価値があるような人物でいたいと、願うんだ。


 それが、きっと。


 人を強くしてくれるし、正しくもしてくれると信じている。


 ミケとニケは、目立ってくれた。敵を倒しながら、一見無意味なまでにアクロバティックな動きをしたから。跳躍しながら身をひねり、敵の一団を飛び越えてしまう。


 目立ってくれるから。


 オレがバカ息子野郎に突撃するための隙が、ちょっとだけマシになったんだ。


「来たまえ!!」


「一対一で、オレに勝てるなどと思うなよ!!」


「自信過剰だという事実を、教えてやる!!」


「お前なんかに、言われてたまるか!!」


 怒りを込めて、斬撃を放った!


 ヤツの長剣は華麗だったし、ヤツの父親の剣が描く軌道に、恐ろしく似通っている。同門であるし、親子だ。おそらく、主要な練習相手同士でもあったのだろうさ。


 まったく同じ。


 鏡映しとまではいかないが、それに近しいものがある。


 だから。「レオのほうが、少しだけ有利よね」。そうなる。鋼をぶつけ合った瞬間に、感じ取れた。似ている衝撃。似ている構え。多少は雑味があるのは、経験の差というものであり、まあ、それを含めたとしても。


 同じ連携の動きしか、しないときた。


 それは、オレ相手にはあまりにも不利だ。


 打ち合いながらも、大きく身をひねる。ヤツは予想通りに突きを放っていたから、それを空振りさせながら―――「横になぎ払う強烈な一撃ね。あいつは、完全には受け止めきれない」。


 ガギキイイイイイイイインンンッッッ!!!


「バカ力め……ッ!!」


 悪口を吐ける余裕があるなんて、恐れ入ったよ。こんな強打を受け止めたら、普通は黙るしかないんだ。


 ヤツは必死に、力をさばいた。『渡り鳥の大剣』を受け流しにかかるものの。オレは身をねじ込むように至近距離へと近づいた。


「……っ!!」


 交差する刃の向こう側に、冷や汗をながしている貴族の美形面がいやがったよ。


「副団長殿を、お、お守りしろ!!」


「助けるんだ!! か、彼を殺させてはならない!!」


 ああ。


 ちくしょうめ。もう少し、時間があったら。力の差をわからせてやれたのに。実力だけでも、オレのほうが、はるかに強いって。「そうはならなかったから。私も協力してあげるよ。レオ、三日分の幸運を、寄越しなさいな」。いいとも。


 ルメにキスされた。


 額にだよ。当然だろ。「さあ。混沌神の力を、使役する権利をあたえてあげましょう」。


 魔法ではない。


 魔神の権能って力だ。左腕で、空間を引き裂きにかかる。猫ちゃんみたいに、力を込めた指先で、ギギギギギイって引っ掻いた。


「なんだ、これは!?」


「気をつけろ、魔神の力だぞ!!」


 物知りの男爵閣下が叫んでいた。おかげで、ヤツは素早く逃げちまったよ。「惜しかったわね。もっと、あいつを真っ二つにするつもりで踏み込んでおけば、手っ取り早かったのに」。そういう殺意マシマシなオレは、きっと君のタイプのオレじゃないでしょうね。


 切り裂かれた空間は、周囲を吸い込むようにして歪めてしまう。


 どういう理屈なのかなんて、オレみたいなアホにわかるハズもないな。「気圧みたいなものよ」。そうらしい。意味は、まったく、わかっちゃいない。それでも使えるのが、テクニックというものさ。


「なんだ、これは!?」


「引きずり込まれちゃうううう!?」


「う、動けない!! く、空間に噛みつかれているかのようだ!!」


 すばらしい表現だ。「そうよ。噛みついているの。混沌の地獄に、飲み込みかけているのよね」。それを教えてやれば、彼らはもっと恐れおののいたかもしれない。


 教えてやれるほど、超絶早口トークのスキルはなかった。


 動けなくなってしまった騎士たちのあいだを駆け抜けて、後方に逃げたヤツに追いつく。追いつけたのは、ヤツがそれほど逃げる気が無かったからだ。あくまでも、騎士道精神だか貴族のプライドに則り、オレとの勝負を望むらしい。


「やめろ!! 逃げるんだ、その赤毛は、本当に強いぞ!!」


「だからこそです!! こいつを、打ち倒せなければ、革命など、起こせない!!」


 そうだよ。


 起こさせない。


 革命? キレイな言葉だけど、それってさ。けっきょく、クーデターだし。内戦だし。そういうのは、力尽くで黙らせておく。それが、オレの成し遂げたい正義だって、わかっているんだからな!!


「戦いたくない者を、戦いに巻き込もうとする意志は!! オレが、この剣で打ち砕く!!」


 剣が交差して……。


 ぶつかった。ちょっと、ずるい気もしたけれど。「私の力が、重さをあたえていたわね」。そうだ。だから、ヤツの剣が真っ二つに折れて、その衝撃が伝わっちまった結果、手首が見事に折れ曲がっていた。


「ぐ、は……ああ――――」


 剣を操れなくなり、無防備になった顔面。そこに、左のフックを思い切り叩き込んでいた!


 顔面の骨を軋ませながら、殴り倒す。ラッキーな結果だ。「ちがうわね。生かしてしまったから。こいつに絡まれる。剣で、仕留めていたほうが。まちがいなく幸運だったのよ。貴族に恨まれるなんて、ああ、怖いのにね」。



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