第九話 『傭兵ブーム到来!?』 その4/永遠のレッテル!?


 冒険者と傭兵のどっちが強いか。


 基本的には、冒険者だとは思う。なにせ分母が大きいからだ。


「でーも。対人戦闘訓練に特化しているのは、魅力!」


「魅力だろうか。騎士団も、そうではあったが……私は、モンスターと戦っている方が気持ちいい!」


 我らが拠点、『木漏れ日亭』の中庭では、クレアとエルミーが訓練中……いや、仕事中だった。『トライアウト』でやる模擬戦のルール作りをしている。


「このように、相手がしゃがんだときは?」


 クレアが『誘った』。エルミーの鍛練された武闘家としての本能は、膝蹴りを求めた。本当の戦闘であれば、オレでもそれを選んでいたかもしれないが、模擬戦なんだ。


「うーっ。ガマンだ、あーしよ!」


 反射的に膝蹴りを出しそうになっているものの、どうにかエルミーはガマンしていた。


「そうだ。それでいい。首の骨にダメージが入るような真似は、よくない!」


「実戦だと、大チャンスなーのに。演舞でも、めちゃ迫力あるトコなのにっ」


「ケネスにした行いを思い出すのだ」


「……はーい」


 武器を持っての決闘だったから。ケネスの頸椎骨折と、一生全身マヒという結末はケネスの責任でもある。


 しかし、その種の悲劇を減らすためには努力を惜しむ気はない。


「制限あってこそ、競技性も向上するってもんだろ」


「んー。一子相伝の必殺拳法なのに?」


「そんな物騒な一派が、王都の街中で道場開いているわけないと思うんだが」


「そうだ。お前のお師匠は、弟子がたくさんいたような気がするぞ」


「ばーれた!」


「はあ。エルミーよ。お前自身が提案して決めた『反則』なのだ。第二、第三のケネスを出さないように、しっかりと模範的な戦い方を覚えるように」


「わかってーる。あーしも、ちょーっとは、学んでいるんだ」


「では。もう一度だ。『反則』について抜け道がないか、より危険性を低くしつつも、冒険者のパフォーマンスを推し量れるルールに、洗練していくぞ!」


「はーい!」


 何とも涙ぐましい努力であった。『競技』のルールを開発するっていうのは、なかなか難しい行いだったな。


 でも。安全性を確保する意義は大きい。エルミーは、どうせ一生、けんかっ早いし。荒くれ者に絡まれ続けるだろうし、売られたけんかを買わないエルミーなど、この世には存在しないのだ。


 手加減を早めに覚えていれば、死傷者数を減らせるからな。冒険者=乱暴者というレッテルを貼られるリスクだって減らせる。


 ……冒険者についてのイメージは、いまだに悪い。


「世間様って、けっこう冷たいよな」


「商売人の息子なら、十二才になる前には気づいておくべきだよ」


 我が弟ドミニクとも、ミーティングを繰り返している。鎧職人ギルド以外にも、多くのスポンサーをつけるために努力をしてくれていた。


「ガキのころに、世間の冷たさを知るとか。辛すぎないか?」


「お客さまって、とても怖いだろ」


「そうかい?」


「ちょっとした対応の悪さで、『二度と来るか』と言うんだ。周りの家族、友人、知人、他人にさえも『あんな店には絶対行くんじゃない!』とさえ言い始める。店がつぶれちゃうかもしれないのにね。何十年もかけた店の努力や、何十人の従業員たちの人生に、致命的な悪影響があるのに。ちょっとした『些細な悪印象』だけで、一生、そんな悪意をぶつけてくるんだから。強盗よりもたちが悪いよ」


「ドミニク……そんな胃が痛くなるような考え方でいたら、人生が楽しくないんじゃないか?」


「商売人は、大なり小なり、この種の苦痛には対面するものさ。兄さんだって、わかり始めているだろ。世間って、とっても冷たいし、悪口を言い続けるのが好きなものだってね。みんな、他人の破滅を娯楽として消費しているんだよ」


「もっと明るくなろうぜ。競馬場でも行くか?」


「そんなコトよりも、クロウ・ガート氏に任せるだけじゃなくて、兄さんも傭兵会社に足を運んでみれば?」


「オレを就職させようと?」


「冒険者よりは、将来性があると思う。兄さんは強いしね」


「冒険者でいたいんだよ!」


「ワガママだ。冒険者の需要が、いつまであるのか……」


「そもそも。傭兵会社にあまりいいイメージもなくてな」


「そうだね。ノエルさんが聞けば、間違いなく言うだろう」


「『可愛くない』」


「そうだ。だから、ものは言いようだと思ってね」


「ふむ?」


「『警備会社』っていう名称はどうだろう」


「……天才か、お前!! 可愛くはないが、だいぶ毒々しさがマシになった!!」


「傭兵よりも、ソフトなイメージだ。内容は、あまり変わらないだろうけれど」


「国境警備の補助的な役割とか……防犯要員として」


「国家間の戦争は、表立ったトコロでは、あまりないからね」


「まあな。週一でテロリストと命がけの戦いをしているような気もするけれど」


「兄さんは混沌神のせいで、運がないからだろう」


「そうかな。そうかも?」


「とにかく。警備会社なら、王立のギルドが関わっていてもマシだ。泥棒対策に、警備員を雇ってくれるかもしれない」


「さすがは商人だな。いいアイデアだ。オレたちギルドが、警備会社を作って、そっちに仕事がない冒険者を再就職させればいい」


「マージンを取れば、儲かるよ、兄さんが」


「王立ギルドだぞ? オレの儲けよりも、仲間の儲けが優先だ!」


「……はあ。商売人には、向いていないや」


「そのために、商売人の弟を、運命があたえてくれた気がする! 力を貸してくれ!」


「……わかったよ。経営者が儲からなくてもいいなら、条件は楽になる。ビジネスを回して、現場の労働だけを維持するのは難しくはない。とにかく、冒険者に再就職を作る。それが最優先かな」


「そうだ。まあ、『フィーガロ大森林』のようにモンスターの住処を襲撃して、人類の安全とクエストを生み出したいが……」


「焦っても仕方がない。ひとつずつ、有効な努力を積み立てていくのが重要だよ」


「わかった。じゃあ、社会勉強がてら、傭兵会社に見学へ行ってくるぜ! 警備会社を企画するアイデアも得たいからな!」


「その行動力はビジネス向きだよ。じゃあ、行ってらっしゃい」


「お前も来ないのか? 面白いかもしれないぞ?」


「ノエルさんと食事に行くから、パスだ。土産話に期待してるよ」



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