第八話 『呪われた鎧と消えた王子』 その50/破滅の真実と、正義のついたやさしい嘘


 けっきょくのところ……。


 朝が来ても、アルベルト・ヨハンソンは発見されなかった。


 オレたちも血の跡を追いかけてみたが、途中で血の痕跡は途切れてしまっている。足跡さえない。ゾーギの『地獄の番犬』の力も、効果がなかったんだ。


 このまま、見つからないかと思っていたものの……。


『……れ、れおさん!』


「ああ。森の奥で、何かが燃えているな」


「レオンハルト・ブレイディ。向かうでござる」


「ああ」


 ラキアと『組まされて』、アオに乗っての探索中に、森の奥から立ち上る煙を見つけた。


「何とも、罠臭いが」


「アルベルト・ヨハンソンは、罠を仕掛けられない。失われた血液が、ヤツの死……あるいは、瀕死を物語っている」


「まあ、そうだな」


「だが、何かがいいるのは確かでござるな」


 オレとラキアが組まされたのは、密偵たちの指示によるものだ。見つけた情報を、管理されそうな気配だな。「彼らの仕事なのよ」。そうだろうな。文句はない。


「あそこでござる」


『なにか、もえています……』


「人の死体だな」


 死体が燃えていた。中年男の死体。燃えすぎてしまっていて、誰かはわからなかった。


 追い詰められたアルベルト・ヨハンソンが、自分で火をつけたのだろうか。「ひ・み・ちゅ」。だろうな。契約者の情報は、教えてくれない。


「……燃え残った靴からは、軍用ゴムのそれが見つかったでござる。ヤツが使用していたものと、一致。服装も、おそらく……こまごまとした装備品からも、ヤツの特徴と一致はしている。完全とは、言えないものの……」


「状況証拠的には、アルベルト・ヨハンソンの死体で間違いないだろう」


 そんな主張をしたのは、オレじゃなくてマクシミリアン王子さまだ。


「兄上。このまま王国に戻りましょう。ヨハンソンの死体は、別チームにい回収させる。エリアス兄上を連れて、ルクレートの王都まで。ファーガルでは、ありませんよ」


 そこにも、どこか政治的な駆け引きが感じられた。ファーガル領の都市部のほうが、近くではあるものの。そこに、エリアス王子さまの死体を運べば、ややこしい事態が起きそうだ。枢機卿ハーマン・ローに対しての印象はサイアクなんだ。王子さまの死体だって、政治利用するリスクがあった。「返してくれないかもね」。


「……わかっている。父上に……陛下のもとに、エリアス兄上は戻るのだ。準備をさせろ。撤収だ!」


「御意にでござる」


 正直、あの死体がアルベルト・ヨハンソンだと、オレは思えなかった。ただし、それは直感でしかない。ヤツではないという事実を、証明する手立てはどこにもなかった。枯れ木と油に自らダイブして、火を放つ。猛火に焼かれれば、見た目で判断はつかない。


「護衛を頼むぞ。レオンハルト・ブレイディよ」


「もちろんです。ヴィルヘルム王子さま」


 ルクレート王国の騎士団と、密偵たち。そして、ファーガルの兵隊たちも、この撤収には参加している。オレたちのキャンペーン・カーゴは、最後尾の護衛についた。ひとつ前の馬車には、あの焼けた死体が、安っぽい輸送用馬車で運ばれている。


「……『分離派』と呼ばれているでござるよ」


『なるほど。レフトン連邦が滅びても、諸州の市民たちには不満があるか』


「独立して、自分たちだけの小国家を運営したいだけでござる。富める地域は、それで豊かになる。貧しい地域は、何も残らない。豊かな地域の、奴隷にされるだけでござる」


「密偵ラキアよ。お前は、私たちの馬車に乗るんだな?」


「悪いでござるか、『盗賊王』の娘殿?」


「いいや。仲間としては、頼れる。背後から、この馬車隊を襲われたときに、いい戦力となるだろう」


「……拙者とて、事の真相はわかってはいないでござる。誰かが、何かに介入したかのようにも見える」


「も、もしかしてですけど。密偵が、あの死体を偽装したりしてますか?」


「ノー・コメントでござる」


「こ、怖いっ」


「拙者にも、わからん。密偵のトップでも、ないからだ。それに、王族の意志が働いているときもある。そうなれば、組織よりの、そちらの命令に優先して行動するでござる」


「行方不明のままだと、解決しにくい問題があるもんな」


『レオンハルト。なかなか密偵らしくなってきたな』


「うるせえ。オレは冒険者だ」


『だが、少しばかりは成長が見られる。続きを、聞かせてくれ』


「……ヤツが行方不明のままでは、捜査が長引く。そうなれば、ヤツが公開したがっていた真実が、広まりかねない。それは、せっかくの同盟関係に亀裂を入れる。ファーガルとは、もう争っちゃいないんだ」


『しかも、王子のひとりをハーマン・ローの婿に出している。ハーマン・ローを失脚させたところで、ルクレート王国の国益にもならんし、ファーガルの連中も困るだろう。『分離派』とやらが情熱的に、独立運動という名のテロを起こすかもしれない。内戦の時代が再来だ』


「だから、死体を作った」


『アドルフ・イェーガーなら、それをやるとだけ、言っておこう。現代っ子たちの行動までは、老いぼれた仔犬は知らないんだがな。わんわんわん!』


 正直。密偵もやりそうだし、マクシミリアン王子さまもやりそうだし、ヴィルヘルム王子さまだってやりそうだった。


 それだけじゃなく、ファーガル側から派遣された兵士たちだって、やるんじゃないかな。「愛国心でいっぱいね」。自己保身でいっぱいかも。「少なくとも、真実を知らない人が多い方が、平和って保たれる。これは、その典型例だわ」。


 こうややこしいと。


 さすがに、謎を追いかけたくはなる。だが……。


『政治的なリスクがある土地に、長居は無用。それも生きるコツだ』


「だろうね」


『それに、お前は政治力を手に入れたぞ。真実の歴史を知った。国家的な有力者を失脚させるような情報も。お前の執行猶予は、消えるかもしれん。出世だって望めるかも。王にねだってみれば、多くの願いが叶えられるのは、確実だ』


「いらねえ」


『ハハハハ! ああ、本当に。面白い』


「もっと、気分のいい報酬が必要なんだよ。クエストの達成にはな」


『上手く立ち回れ。良きギルド長であれば、多くの仲間を幸せに導くのだから』


「おう」


 みんな、さすがに疲れ切って……寝息を立てている。クレアも、ローズも、エルミーもだ。幸せにしなくちゃならない冒険者が、いっぱいだな。


「……なあ、ラキア」


「何でござる?」


「今後とも、王立冒険者【再就職】支援ギルドをよろしく」


「……こちらこそ。お前たちに、これからもクエストをくれてやるでござる。いい働きだった、からな」


「ああ」


「……気分がいい、報酬とはどのようなものでござる?」


「肉だな。美味い酒と……ああ。女子たちのために、甘いスイーツもだ」


「王都に戻り次第。今回の報酬を、用意させてもらうでござる」



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