第八話 『呪われた鎧と消えた王子』 その44/魂の番犬


 あとから、聞いたんですが。


 悪霊というものは、やはり、本人たちとは大きく異なってはいるもので。ローズちゃんに説得されてしまったのは、ガチガチのテロリストたちであった、本来の人々とはちょっと違うみたいです。


 だとしても。


 人の残滓みたいな、欠片みたいな部分に。善意めいた感情が多く宿っていてくれたのは、とても大きな意味を持つものだなあと思ったんです。


 血の柱に泡立つように浮かんでいた人々の顔が、次々と消え去っていき……。


 ネクロマンサー、ローズマリー・ガトウに『統率』されていきました。


 血の柱の奥にあったのは……杖です。ローズちゃんの手が、それを奪い取る。血は彼女の手にも、その杖にも付着していたのかったのは、不思議なコトだったはずなのに……それが、ネクロマンサーとしての能力の高さゆえだと、信じられたんです。


 わからせられちゃったと言いますか。


 彼女は、本当に、超天才なんだと思います。


『……嬢ちゃん、それは何だい?』


「『死霊送りの杖』。ま、魔神たちに、アルベルト・ヨハンソンが仲間をたくさん生贄にして、もらった力だよ」


「ど、どんな力が、その杖に?」


「相手のアタマに、あ、悪霊を憑りつかせるの。好き放題に、あやつるために」


「と、とんでもないアイテムじゃないですか」


『それで、王子の死体をあそこまで強化していると?』


「そうだと思う。い、行こう。エリアス王子さまを、この杖を使えば、か、解放してあげられるよ」


『さすがだ! 期待していた以上に、大天才だ! ついてこい!』


「うん! い、いくよ。ロンドリ!」


「は、はい!」


 血の柱は……放置……っ。ま、まあ。いいのかもしれない。大人しくなっているし。それに、もう……ローズちゃんの軍門に下ったというか。


 ボクたちは、ゾーギさんに導かれて、あの急な階段を降りていく。


 戦いは、壮絶さを極めていた。みんなズタボロ。装備も、壊れそう。お互いにだった。


「はあ、はあ! レオンハルト・ブレイディ……っ!!」


「名前を、ようやく覚えたか!」


 大剣をぶつけ合いながらも、レオンさんとアルベルト・ヨハンソンは戦いを続けている。ふたりとも血だらけだった。


 姉さんたちも、消耗している。


「突破させるなあああ!!」


「王子殿下を、止める!!」


「もう一発、『天命』をー……っ!!」


「粘るでござる!!」


 いい意味というか、セクシーなカンジで装備が壊れていた。金が取れる……じゃなくて!


「ろ、ローズちゃん、お願いだっ!! シオン姉さんたちを、助けて!!」


「わかった。ま、まかせろ!!」


 ガツン!


 ローズちゃんは『死霊送りの杖』を、床石に叩きつける。集中している。というか、髪が浮かんでいる。魔法……というか、悪霊が周囲を漂っているような。


「こ、これは……どういう力を」


「悪霊を送り込んで、お、王子さまの肉体をあやつっている悪霊を、食べてもらおうと思う」


「よ、よくわからないけれど、すごそうな作戦だ!」


「でも。い、いいカンジの悪霊を選ぶのが、難しいかも……『吹き飛ばしてしまう』と、かわいそうだもの」


「え、ええと。強すぎる作戦ってコト!?」


「こんな武器があるなら、ら、楽勝だよ」


「こ、このさい。姉さんたちのためです。吹き飛ばしてしまってもいいかなと―――」


『―――ちょうどいい。『地獄の番犬』を、飛ばすがいい!』


「じ、自殺はよくないですよ!?」


『魔導書は、本来、悪霊と似たようなものだ。精霊とも似ているし、召喚獣とも……とにかく。問題ない。『弾丸』代わりに、飛ばしてくれ。王子殿下を、連れ戻しに行ってやる』


「わかった。ぞ、ゾーギ。行け!!」


 ローズちゃんの瞳と、杖が、強大な魔力にかがやいていたんだ。次の瞬間、ゾーギの体が、水色のかがやきに変化する。


 いやいや。


 色が変わっただけじゃなくて。ものすごく巨大な獣に変わった。『地獄の番犬』。これが、その本質だったのかも。混沌神が、ゾーギにあたえた力の。


『なかなかいい力だ。魔神の力も、たまには役に立つか。では、いってくるぞ!!』


「霊体、と、突撃だああ!」


 ゾーギは霊体にされてしまっていたのか。よくわからないけれど。天才って、すごいや!


 水色の巨大な獣が、『地獄の番犬』が空中を駆け抜けて、暴れ回っていたエリアス王子さまに正面から命中する。斬撃を、くぐりぬけていたんだ。霊体って、ずるい。魔法でも物理でも、ダメージがすり抜けちゃうみたいです。


『ぐふ、ううう!?』


「きょ、巨大犬が現れたんだがっ!?」


「なんだ、これ?」


「ゾーギだよーん。気配で、わかーる!」


「王子殿下を、喰らう……でござるか?」


『喰い散らかしたりはせん! 殿下の肉体に宿った、テロリストどもの悪霊を、嚙み砕いてしまうだけだ!!』


『ぐう、ううう! うああ、あああああ!!』


 王子さまの悲鳴だ。獣に食い破られるような痛みとか、あるのかも。だとすれば、それは。耐えがたい苦痛のはずだよ。でも、でも……。


「そ、そのまま!! 倒してください!! 姉さんたちを、死なせたりしないで!!」


『任せろ!! む、ぐう!?』


『わたしは……わたしは……かれらに、しゃざいを―――』


「な、何だか、様子が変だけど!?」


「王子さま自身の悪霊が、で、出てきてる」


「そ、それは、正気に、戻ってるという意味!?」


「似たようなものかも。で、でも。今、ゆるんだら。逆にやられる!!」


「だ、だそうでーす!! 姉さんたち!! どうにか、援護を!!」


「あーしの、出番!! 『天命』で、魔神の力をー……ぶっこわーす!!」


 地獄の番犬モードのゾーギに押し倒されているから、エルミーさんの『天命』の力を帯びた拳と蹴りの連続攻撃を、回避できなかった。


 王子さまの剣が、破壊されていく。姉さんたちは激闘を展開しながらも、王子さまの武器も、あの鎧にもダメージを入れていたんだ。


 壊れる。


 剣も、鎧も。武装を解除された王子さまの死体に、ゾーギはガッツリと噛みついた。そのまま、喰いちぎるように……アタマを力強く持ち上げる。引き裂かれたのは、王子さまの死体じゃなくて、そこに憑りついていた悪霊だけみたいだ。


 ゾーギの巨大なあごのなかから、暴れ回る無数の腕が飛び出ている……っ。


「あれが、あ、悪霊たちだ……みんな。地の底に、帰る時間だよ」


 ローズちゃんが『死霊送りの杖』に魔力を込めると……ゾーギの口が捕らえていた無数の悪霊たちが、その瞬間に爆ぜるように消え去っていたんだ。


「これで、お、王子さまは、大丈夫だよ。取り戻せた。あとは、れ、レオお兄ちゃんを助けないと!!」



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