第八話 『呪われた鎧と消えた王子』 その32/考えず、信じろ!


 ロンドリの決意だけは、認めてやるべきかもしれない。冒険者じみた意志の強さを、小説家うんぬんに対してのときは持てている。


 それが、彼の人生にとってプラスかマイナスかまでは、ちょっとわからないけれど。


 ……足跡を追いかける。


 罠はそれからもあった。しっかりとした仕掛けではなくて、簡易なものに過ぎないけれど。自分たちが追跡されるリスクは、常にアタマのなかにあったようだ。


「……目的は、何だろう」


『テロリストの目的は、いつでも政治的な動機だ』


「……ここにある政治的な力ってのを、考えればいいわけか」


『そうだ』


「じいちゃんの悪事が、思いついちまうぞ」


『ならば、それも答えの候補として考えるがいい。ここは、レフトン連邦が終焉を迎えるキッカケとなった土地なのは確かだ』


「……それが、何になるってんだ?」


『政治ってのは、選択肢だ。そして、金と権力の奪い合いでしかない。シンプルに考えろ。誰が、得をした?』


「ルクレート王国」


『それだけでは、ないだろう』


「……『百星神殿』の枢機卿になった男の出世街道は、ここから始まった」


『いい答えだ。密偵ラキアよ』


「連邦議長ヨハンソンは、ここを攻めて……息子たちを処刑した男……と思い込んでいた神官ハーマン・ローを捕縛するため、ここを攻めた。神殿騎士たちとの激闘の末に……ハーマン・ローは逃亡を果たし、『百星神殿』の信者たちに救いを求めたでござる」


「その結果、ハーマン・ローは政治力を得たと」


『人気者になったんだろう』


「その通り。ヨハンソンは、革新的過ぎたでござる。ここは元々は、魔神信仰の土地。信者たちは、魔神信仰や『百星神殿』を否定しがちのヨハンソンへの恨みを爆発させて、連邦は崩壊していく……ヨハンソンは、その過程で、討ち取られたのだ。一度は、壊滅状態にされていた、神殿騎士たちの剣により」


『ハーマン・ローが、指揮していた?』


「おそらく。ハーマン・ローは神殿騎士として活動していた時期もある。対ヨハンソン勢力の象徴的な男にも、なっていたでござるからな」


「レオちーのおじいさんの、失策ではあるよーね」


『……認めよう。アドルフ・イェーガーが生きていて、この魔導書ゾーギが地上にいたのならば、ハーマン・ローも仕留めていただろうに』


「そ、それほど、有能な人物だったんですか」


『実際に、枢機卿となり……今では、ルクレート王国の王家から婿まで取ってしまった。何たる失態か』


「……ハーマン・ローの政治観は、拙者たちにとっても悪いものではないでざる。安定志向であり……基本的に、ファーガル内政に集中している」


『野心家を、信じすぎるな』


「むろん。心得ているでござる」


「ヴィルヘルム王子さまが、つ、次の王さまになるの?」


「……国王陛下が、お決めになるでござるよ」


「そう、なんだ。そ、そうだよね……」


「不安に思わなくてもいい。ルクレート王国の王子殿下たちは、誰しも高度な教育と、知性を有しておられるから」


「クレアが、そ、そういうのなら、信じるよ」


 政治ってのも、あまり近寄り過ぎると怖さがあるもんだ。ローズみたいな子供でも、いや子供だからかな。政治が持っている怖さを、理解しつつある。


 金と。


 権力。


 それは政治的な動機になるらしいが、冒険者たちはルクレート王国の冒険者ギルドの教育課程で、別の習い方をする。


 これらは『戦争』の主たる原因であると。魔王軍は、金/資源と、権力/支配を増大させようと猛攻を仕掛けてきた。それらは、教官たちから言わせれば、間違いなく軍事的な質があったそうだ。


 冒険者は、金と権力が戦争の原因としてアタマに叩き込まれているから、魔王軍の行動や、自分たちが使う戦術やら戦略の意味をすばやく理解できたわけだよ。


 怖がる必要はない。


 冒険者は、怖がっていては冒険できないからな。


 権力が、この事件の力学だとすれば―――。


「―――『犯人』は、ルクレート王国と、ファーガルの衝突を招こうとしている者だ」


『……いい読みだ』


「つまり。どっちの国にも、恨みを持っている。オレが……直感として、アタマに浮かんだのは―――」


 地震があった。


 いや、自然現象ではない。魔力のたぐいによる、衝撃だったな。


『……っ!! 奥に、走れっ!! 入り口から、く、崩れていくぞ!!』


「ちっ。罠かよ! シオン!」


「続け! 私が踏んだ場所以外を、踏むなよ!」


 ああ。


 崩落していく背後も怖い。この崩落に追いつかれたら、生き埋めとなって死んでしまうからな。だが、それと同じぐらい……罠が仕掛けられているはずのせまい通路を、駆け抜けるってのも恐ろしいもんだ。


 ここは。


 シオンの盗賊としての才能に、命を預けるしかない。罠を気取り、ほとんど反射的に回避して、最適解のルートを選ぶ。そんな彼女のステップだけを、オレたちは記憶して、駆け抜けないといけない。


 リーダーとして、言っておくべきだ!!


「考えるな!! シオンを、信じろ!! 彼女なら、やり遂げてくれる!!」


 考えない。疑わない。


 ただただシオンの選択を信じて、走るだけ。それがいちばん速く、それがいちばん助かる確率が高くなる方法だからだ。


 みんな、迷わなくなった。


 シオンに自分の命をすべて託す。無条件で。シオンは、それに応えてくれた。


 迫りくる崩落から抜け出して、砦の中心部へと到達してくれる。


 無数の罠が、あったハズだが。すべてをシオンは連続で回避してくれたんだ。


「ありがとう。さすがだ、シオン・プラム―――」


 ―――密偵ラキアが、動いてくれた。


 シオンに向けて放たれていた矢を、ミドルソードで叩き落としてくれらか……オレは、敵に対してファイヤーボールを放てていたよ。爆発が起きた。矢を放った者に向けて、クレアとシオンが走り始めている。オレと、ラキアも続いたよ。当然だな!



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