第六話 『天涯より来たりて』 その13/危険な不満


「王子さま、な、何を考えているのかな」


 兵士たちに案内された、王さまをお待ちするための部屋で、オレたち冒険者チームはそれぞれ、感情に胸がいっぱいというか、胸焼けしているというか。


「政治的なポーズも、必要なのだろう」


「意味わかるように言ってよ、せ、聖騎士!」


「つまり。伯爵との和解を、ただちに示したい」


「仲が悪いと、が、外国から攻められちゃうかもしれないから……?」


「そうだ。国内の結束がゆるめば、外国からは『攻めやすい』ものだ」


「それを、ふ、防ぐために、王子さまと、セレスティアは腕を組んでいたの? な、仲良しを演じたの?」


「国防優先という考えからすれば、ああいった演技をするのもありえなくもない。もしも、私がやれと言われたら、ムリだが……」


 騎士であり、そういえば有力貴族のガチな令嬢でもあるクレアは、多少の理解が出来るようだった。オレよりも、専門家だから当然だよな。


「とにかく、マクシミリアン王子殿下も、セレスティア嬢も、内戦を避けたいのだ。その点においては、陛下も伯爵も、一致しているハズだぞ」


「それは、救いよね。もしも内戦になってもらったら、困るもの」


「でも。そんなに、内戦なんて起きちゃうもんっすかね?」


「お前ら王都民は知らんかもしれないが、国境沿いに近づくほど世の中に対して不満を抱く者も多いんだぞ」


 シオンの言葉に、シェルフィーは、ふうむ、とうなった。


「たしかに、人身売買組織なんてあるぐらいっすもんね」


「治安は良くない。それに、あの種の組織のもとになる貧困も問題だ」


「貧しいから、人だって売り払ちゃうってわけっすね」


「そうだ。トルーバ王国からの難民や、その他の諸国からの移民も、およそ貧困の犠牲者だぞ。そういった者たちが、国境線に集まっている」


「……みんな、今よりマシな暮らしをしたいからっすね」


「何としても『豊かに見えるルクレート王国』に行きたいと願い、『密入国を請け負う組織』にまで金を払う」


「う、あ。そういうの、マジにあるんすね」


「いくらでもな。人はな、追い詰められるとアタマが悪くなる。溺れる者はわらをもつかむし、焦ればドジを踏む。貧しい者たちは、あっさりと騙されて危険な組織に自ら関わってしまうんだ。その結果は、悲惨だ」


「どんなコトに……っ」


「奴隷にされて売り飛ばされる、という流れもある。人はな、売れるんだ。商品になっちまうんだよ」


「商品……」


「うちの難民孤児院に来てみるがいい。商品にされていた子供たちに会えるぞ」


「……今度、ボランティアに行くっすよ。何か、してあげたくなったから」


「手が足りていないから、ありがたいな。難民を嫌う都の民も多い。求人に応募が少ないんだよ」


「これは、定期的なご奉仕決定っすね!」


 ほんと、めちゃくちゃいい子だよな、シェルフィーは……一種の、共感があるのかもしれない。シェルフィーも、たしか、王都出身じゃない。魔王戦争の時代に、王都に命からがら逃げ込んだ者のひとりだ。


 孤児の子供たちに、自分を重ねているのかも……。


「オレも、もっと顔を出すとしよう」


「そっすね。レオさん、人手不足というコトは……」


「冒険者たちの再就職先としての候補にもなる」


「地方出身者は、きっと難民孤児に偏見持たないと思うっすよ。そういう冒険者に声をかけるといいかもっす!」


「人手不足解消はありがたい。幸い、元気な子が多いんだよ。みんな、王都に来られたと喜んでいる。これも王さまが良い国を作ってくれたおかげだな」


「いい王都っすもんね」


「だが、王国の隅々までもがそうとは断言しにくい。この三年間、復興が進んだのは王都周辺ばかりだ」


「貴族さんたちが、国境周辺の土地を買い漁っているんじゃ? それは、復興につながらないんすか?」


「場所による。地域全体の復興につながったものもあれば、貴族に農地を買い叩かれて、泣きを見る貧乏人もいるんだよ」


「そ、そんな」


「貴族でなくても、土地転がしの被害者もいるぞ。ならず者が、暴力や脅しで、貧乏人から土地を安く買うんだ。その土地を、より高い値段で、貴族に売ればいい」


「なんて、ずるい連中なんすか……っ」


「泣き寝入りする者も多い。誰もが、法律に訴えられるほどの予算があるとも限らん。裁判になっても、勝てるとも限らんし……暴力による報復を、貧乏人たちは恐れているんだよ」


「それが……」


「国境周辺の者たちには、不満がある。王都に比べて、あまりにも過酷なんだ」


「……その不満の受け皿が、ベクトラ伯爵みたいなタカ派になるっすか?」


「他国に攻め入り、土地を勝ち取る。そうすれば、貧乏人たちにも買える値段の土地が、手に入る」


「そんなに、気前がいいもんすかね」


「実際は、違う。だがな、シェルフィー・メイメイよ。政治において肝心なのは、『そう思われているかどうか』だ。実態がかけ離れていても、人は甘い言葉に動かされる。苦しいときに示される希望には、多くの者が無条件で飛びつくものだ」



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