第五話 『絢爛舞踏は赤く染まる!!』 その1/オトナになりたいバカたち!!




 黒髪の傑物ベクトラ伯爵は、自分の娘が無事なコトを確かめる頃には落ち着きをすっかり取り戻していた。冷静沈着、鋼のような意志の使い手。そんな印象の父性で、セレスティアお嬢さまを抱きしめている。


「無事で何よりだ」


「……はい。マックスさまに……殿下に、守ってもらいましたので」


 ガチモンのご令嬢は、絵に描いたような美少女お嬢さまか。おしとやかさが爆発していると言えば、オレの語彙力が山猿レベルだと知られてしまうだろう。

でも、そんなカンジだ。


 マジで可愛い。


 意識を取り戻して動いている彼女は、めちゃくちゃ美人だよ。


「それでは、レオンハルト・ブレイディさま。みなさま、狩猟館の舞踏会で、お待ちしております」


 ……所作も完璧。動きから可愛いってなんだ?


 しかも、声までもが可愛いのさ。あと、香水の選択も最高。伯爵の馬車に乗って、彼らは優雅に立ち去ったわけだが……オレは、つい感想を口にしていた。


「あれが、お嬢さまって生き物かよ。初めて見た気がする……」


「……え? ダーリン。ハートリー家のお嬢さまである私は?」


 失言だったかもしれない。


 剣を振り回して、戦女神ロカと契約できるようなご令嬢だっているのに。別ジャンルではある。だが、失言だったかもしれない。傷つけたかもしれん。それは、良くない!


 だから、抱きしめて誤魔化そう。


「ふええ、ええ……っ」


「お前も、完璧なお嬢さまだぞ」


 ジャンルが、ちょっと違うだけでね!


「う、うむ……っ。お前『も』と、言われた部分は、ちょっとだけマイナスだが……っ」


 そうか。しまった……っ。女子は比べられるの大嫌いって、ルクレート・トリビューンの『モテる男講座』に書いていたような気もする。


「し、しかし。だ、ダーリンに、抱きしめられたので……満足だあ……っ。とろけるうっ!」


 そうだ。とろけるタイプのお嬢さまだっているんだ。男に免疫なさすぎるからな。ほんと、これはこれで上品さなのかもしれない。「うへへ!」とつぶやいてる顔は、少しスケベだが、ギリギリで美少女お嬢さまの範囲だろう。庶民的な愛らしさはあるんだ!


 とにかく。


 失言による損失を回避したと思うので、我々は作戦会議をするべきだった!!


「これで、敵地に乗り込めるぞ!」


「敵地っていうのは、露骨じゃないかしらね。普通の貴族の父親と娘という印象を受けたわ」


「治療に当たっていたマリは、あ、あいつの目の鋭さを知らないんだよ」


「そんなに、怖かったの?」


「あいつは、つ、冷たい目だった。罰神アグナにも、ちょっと似ている。ば、罰してやりたがっているの」


「魔神に似た、迫力……ね。それは、ちょっと、おっかないわ。医者である私には、丁寧だったんだけれど」


「丁寧じゃあるぜ。でも、抜け目はなさそうだ。だから、ニコレッタ! ちょっと、アドバイスが欲しい!」


「は、はい! 何なりと!」


「伯爵が『狩猟館の舞踏会』とやらに呼びそうなVIPについて、知りたいね」


「そうか。ダーストリアの役人である、ニコレッタ殿なら」


「くわしそーだねえ」


「はい。ここ数年、伯爵はよく市外からVIPを招いていました。私たちが手伝うコトもあります。街を案内するのは我々の役目でしたから」


 ニコレッタから、舞踏会の来賓たちの予想をしてもらう……。


「鉄鋼会社の会長に、鎧鍛冶師のギルド長。銀行家と、大なり小なりの貴族たち。王子さまもか」


「えらく、豪華なものだし、物々しさもある。ハートリー家でやるパーティーに比べて、どこか金のニオイがする。ルクレート王国貴族は、本来はその種のニオイを嫌うものだが」


 ちゃんとした貴族の令嬢であるクレア・ハートリーお嬢さまの分析は、普通に頼るにするべきだろう。身分で言えば、ここにいる誰よりも上だからね!


 オレが知っているのは、『祝・魔族討伐祝勝パーティー!!』といった王城で開かれたものだが、こいつはどうにも舞踏会とは別物だった。無礼講の、冒険者の宴会だ。貴族なんて、ほとんど来ちゃいなかったし、銀行家はいなかった。


 冒険者って、世間知らずの若者集団でもあるから……ちょっと、昔から軽んじられてはいたんだろう。その事実に、今さらながら気づけた。「悲しいの?」。違うね。成長できたコトが、嬉しいだけだ。なめられっぱなしでいるつもりはねえ。オレは、「ギルド長だもしね!」。その通りだ。


「クレア、演技指導を頼む!」


「え、演技指導?」


「ああ、すまん。間違った。『貴族のパーティーに出ても、ギリギリで恥ずかしくない礼儀作法教室』を、オレとローズと、あとエルミーにしてくれ。マリは、大丈夫だよな?」


「まあね。医者って、そういうパーティーに呼ばれているの。若くて美しい女医は、とくにね」


「貴族どもも、スケベなんだな」


「否定はできないわ。ロンドリくん的な視線を、感じなくはない。私は、演技指導側に回ります」


「頼むぜ。冒険者が、なめられっぱなしのままでは終わらんぞ! ちょっとは、知的かつオトナな振る舞いも身につけるんだ! いい機会だから、ダーストリアの冒険者諸君も、やっておけ! これは軟弱な行いではなく、生き抜く力と尊敬を得るためのクエストだ!!」


「お、おう!!」


「クエストと言われたら、やるっきゃないな!!」


 うん。ちょっと、アホだよね!


 だが、この種の態度もトレーニングで直していけばいいんだ。


「なめられない『マナー/礼法』も身に着けて、貴族たちとも渡り合う! それが、新時代の冒険者だと思え! なめられるな! オレたちは、ちゃーんとした、立派な社会的価値のあるオトナになるんだ!」



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