第四話 『国崩しの令嬢』 その29/王者の威風
アオとハルは、いつも以上に速かったよ。仕事を楽しんでくれているようだ。王都の西にある、伯爵領にまで、わずか半日で到着できたのは神がかった行軍速度だった。まるで……。
「ま、魔王軍!?」
「ま、魔族だあああ!?」
『ちがいますよ!!』
『せいぎの、ものです!!』
いつものコトだな。なれてきた。世の中の方も、オレたちになれてくれるといい。
「もぐもぐ。れ、レオお兄ちゃん。とがった塔が、たーくさんあるね」
「伯爵の趣味だろうな。ああいうそそり立つものは―――」
「エロイ!」
「も、モザイクが、ダーリンとローズに……っ!? ど、どうしたというのだ!?」
「はあ。混乱しないの。ロンドリくんじゃないんだから、何でもかんでも性的なとらえ方をしないようにね、ローズ」
「はーい」
戦女神に、誤爆された気持ちだ。どうして、オレにまでモザイクを? 「姉も、気が立っているんでしょう。見せたくないものが、たーくさん、この土地にはあるのでしょうね」。なるほど。
魔神の行動を意識すれば、より情報を引き出せそうだ。「あら、面白い発想をするのね。間違いでもないから、やってみなさいな」。そうするよ。「その前に、血のつながりのない妹ちゃんに教えてあげるといいわ」。ふむ……。
「いいか。ローズ。下ネタは楽しいが、過度に使いすぎてはいけない」
「はーい」
「さて、ちょっとお勉強だ。あの種の尖塔は、古来、『力の象徴』とされてきた。『征服』をイメージさせる建築だ。不自然だろう? 幾何学的で……つまり、角ばっていたり、三角形が多用されていたりと、自然界にはあまりない形を目指している」
「……レオお兄ちゃんが、へ、変。知的だ」
「ど、どうしたのだ、ダーリンっ。お弁当が、痛んでいたのか?」
「違うよ」
「魔神の、混沌神の『受け売り』なのね」
「そうだ。だから、安心して聞くといい。オレはいつもの、レオンハルト・ブレイディお兄さんだ。アホだけど、魔神と対話できちゃうから、たまに賢い知識を教えてやれるよ」
カッコつけられない運命かよ。「勉強するように」。そうですな。ちょくちょく、マトモな本も読んでおくとしよう。
「あの尖塔たちは、死を連想させるものでもある。じつに、攻撃的な建築というわけだよ。魔神の教会にも、多用される建築方法だ。自然の法則を、力で超越する。あるいは、宗教の力そのものを示す。軍事的な、力だ。しかも、そこそこ新しい尖塔が多い。あんな尖塔を、好んで作りつづけさせた理由のひとつは、この土地の支配者であるベクトラ伯爵の意志が働いている。魔王軍を、突き殺せ。そういう願いと、怒りと、攻撃性があるんだ」
「……そーれ、あーしも同意見だよ」
ウイスキーをグビグビやりながら、エルミーが馬車の窓から尖塔の群れを見つめていた。
「戦いの、意志。自然があたえる運命、『天命』を、こばーむような力を感じる。もしもー、この場に老師がいたら。伯爵は、「呪われている」とか、言っちゃうと思う」
「の、呪われている?」
「武闘家のセンスには、そういう風に映るの?」
「そーだよ。ビシビシ、伝わってくーる。怒りだ。許せない。魔王戦争のときに、子供を亡くしたからかもねえ。自然が用意した運命を、彼は、きーっと、大嫌い。あのとがった痛々しい塔の群れは、伯爵の、世界へ対しての絶望と……反抗だと思うんだ」
武闘家は、武器を好まない。肉体そのものを、武器に変える。彼ら彼女らは、『自然』や、それの象徴的な力とされる『天命』を好み、『自然』と究極の対話を試みるそうだ。
まるで、芸術家のように、感覚がすさまじく研ぎ澄まされている。そう評価されるコトも多い。『ディアロス』、『水晶の角』という『特殊な感覚器官』を有するエルミーが、最高の武闘家になれたのは、より自然と対話できるセンサーを持っているからかもな。
「あーしの、感覚。まず外れなーい。信じていいよ。ベクトラ伯爵はねえ、残酷で、狂暴で。科学が好き。あと……魔神たちにも、執着している。老師がいたーら、「仕留めろ」って、あーしに命令したかもね」
「それは……極端だわ」
「王国貴族の暗殺は、極刑モノの罪だぞ。エルミー、わかっていると思うが」
「うんうん。だーいじょーぶだー。クレアちゃん。心配しなくても、あーしも、わきまえてる。レオちーが、殺せって命令しないかぎり、やーらない」
「素晴らしい成長だな」
「こりてるよー。あーしは、ちょっとね、やり過ぎているかも」
「そうだ。だから、戒めは必要だな。オレに、殺人技は預けろ。必要なときは」
「命令してね。あーしが悪に、『天命』を、刻んであーげる」
緊張感のある馬車内になってしまったが、ローズマリー・ガトウはもぐもぐとオヤツのサンドイッチを食べ始めた。オレの口にも、ひとつ突っ込んでくれる。
食べるさ。
腹減っているからな。
……不気味なまでに挑発的かつ、先鋭的。科学と狂暴性の気配をたっぷりと漂わせている鉄作りの尖塔のあいだを抜けて、我々は目的地へと到着する。
「ゴールだ。こ、ここが、王立ダーストリア市役所。大きい。お、王都の役所とくらべても、あんまし、負けてないや」
「だとすれば、それも対抗意識なのだろうか?」
「かもな」
「王さまや王都にも、『負けない』と」
「それは、一種の……謀反の気配を感じなくもない。陛下は、この街を視察しておられるハズだが……い、いや。役所の大きさや、尖塔が違法なわけでもないが……」
募る不穏さはあったが、とりあえず役所に入るべきだな。スケルトンなお馬さんたちが、目立ち過ぎるが……伝書鳩のおかげで、オレたちの訪問をダーストリア市役所のスタッフたちには、伝えているからね。
ああ。
向こうから、きたようだ。
「ほ、本当に魔族っぽい!」
『ちがいますよ』
『せいぎの、そんざいです』
「……はあ、本当ですか? うう、アタマ痛くなってくる」
市役所のお姉さんっぽい方が、側頭部を抱えながら我々の前にやってきた。どうにも非常識な立場であるのは、自覚がある。多少のストレスを彼女にあたえてしまうかもしれないが、クエスト達成のためにご協力願おう。
「よろしく。オレは、王立冒険者【再就職】支援ギルドの責任者だ。ガリア・エルデ・フォン・ストラウス三世陛下から、直接の王命を受けて、この大任を果たしている。二十三才の王都出身の特別なエリート冒険者。レオンハルト・ブレイディだ。相応しい対処をするように、君へ要求する。我々は、王の命令で、この聖なる任務を果たしているんだ」
演技だ。
権威を使う。
まるで、貴族のように高圧的だよ。さわやかなイケメンのソフトマッチョだけどね。まるで、「若い頃のガリア・エルデ・フォン・ストラウス三世みたいね」。なるほど。じゃあ、通用しそうだ。
「は、はい!! レオンハルト・ブレイディさま、よ、ようこそ、ダーストリア市役所に!!」
なめられてはいけない。オレたちは、クエストを達成しにきたのだから。全力以上で、情報提供をしてもらおうじゃないか。君らだって、気づいているハズ。謀反の兆しだとか、『過剰な私設軍』の建造だとか、隣国への侵略戦争の準備を、領主がやっていたらね。
だから。
情報提供をしてくれよ。いるだろ。タカ派のベクトラ伯爵が嫌いな若手スタッフのひとりやふたり。期待しているぞ。おぞましくとがった怒りなどではなく、大儀と平和を信じられる者の存在を。
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