第四話 『国崩しの令嬢』 その23/戦士の背中が守るもの


 ……兄貴分として、オレはいつもケネスから頼られていたし。それと、同時に、頼ってもいた。背中を本当の意味で預けられる者は、多くはない。オレにとっては、ケネスがいちばん信じられた。


 荒れていたのを、知っていたんだよ。オレだって、そうだ。平和になってしまった世の中には、冒険者たちの居場所はなかったから。


 飲んだくれて、ケンカしていた。


 みんなそうだった。


 少なくとも、オレとケネスは、懲りなかったんだ。


 ……学ぶというコトを知らない。弱くはないが、圧倒的な強さもないのに。身の丈に合わない主張もして、ケンカを売って、負けちまう。ズタボロにされて、路地裏に転ぶのも悪くはないんだ。


 戦いが欲しかった。


 戦士職は、そういうもんだろう。前線で打ちのめされながらも耐え続けて、そのうち、死んじまうものだ。


 どこかそれでいいと思っていたし、魔王戦争の時代では、いつか自分も死ねるもんだと考えていた。死にたいわけじゃないのに、死に方を決めていられた。覚悟が出来たのかもしれない。ああいうときは、あまり毎日が怖くなかったんだ。


 ケネスも、オレも。


 あの時代に戻りたがっていたようだな。


 情けない逃避かもしれない。


 でも、居場所のないオレたちのやり場のなさは、平和な日々に順応しちまった連中にはわからないよ。『オレたちは、まだ冒険者でいたい』。いい言葉だ。本当に、オレたちは、まだまだ世の中の役に立つ、荒くれ者でいたかった。


 名誉はなくてもいい。


 生きている実感。


 そういうのが、クエストのない世の中では得られなかったんだ。だから、オレもケネスも、せめて、冒険者同士のケンカのなかにある、ニセモノの戦闘行為に、没頭したかっただけだ。


 アタマのなかが、熱で空っぽになれる。冒険者としてフロントで、モンスターの群れと対峙した経験があるヤツにしか、この感覚はわからない。オレたちが、壁だ。仲間を守っている。尊敬されるし、プライドを持てたのに。誰よりも勇敢なポジション/職業。


 それが、もう……不用になっちまっていた。


 悲しいよ。


 つらかった。


 だから、荒れてしまい。売るべきでないケンカを、ケネスは売ってしまった。


 ……エルミー・ブラネット、王都では最強の武闘家だ。勝てるハズのないケンカを売り、実際にズタボロにされた。首の骨まで、折られるとは……思ってもいなかったが。武器で相手に斬りつけた以上、殺されたってしょうがない。


 オレは。


 臆病者かもしれない。


 弟分を介錯もしてやれない。ケネスは死を望んでいるのに。


 でも。オレは……ひとりぼっちになるのが、怖いのかもしれないんだ。魔王戦争で家族は死んだ。オレも、ケネスも。故郷の村なんてもう地図にも載っていない。頼れる戦友たちの半分は死んで、半分は故郷に戻って……オレたちだけが、王都に残っていた。


 わかっている。


 社会に馴染めない、オレたちの方が悪いんだ。大魔王ガイ・ジアスは、もういない。きっと、誰かが倒したんだ。伝説の勇者は、ガイ・ジアスと刺し違えて……消えちまった。


 他の職業になるべきだったんだ。


 でも、尊敬されるような職業には、なれない気がして、怖かったんだよ。


 ……だって。生き残っちまったんだぞ?


 魔王戦争を、仲間を守って死ぬハズの戦士職が、オレもケネスも死に損なった。それなのに、『大物になれない』んだ。オレたちの代わりに、大勢が、モンスターに食われて死んだのに。レン、キートン、クラウド、マシューズ、ミリィ、シュナ……最高の戦士たちが、仲間を守って死んだのに。


 生き残ったオレたちが、落ちぶれていくのは彼らに申し訳が立たない。


 でも。


 学もない。荒くれ者だ。見ためだって、恐ろしい。性格だって、社交的な紳士諸兄とは真逆だよ。いつでも誰かをにらみつけてきた。戦いにしか、生きられなくなっている。


 でも、騎士団にも居場所はない。オレたちは、試験のために勉強し直す金もなかった。そもそも、本当にバカなんだよ。読み書きなんて、ほとんどやれない。ガキのころやってたのは、家畜と弟と妹の世話だけだ。貧乏なんだよ。騎士団が優先して守らずに、見捨てちまったクソド田舎のちっぽけな村だ。


 ……ケネスがあんなコトになっちまって。


 後悔ばかりする。


 オレたちなんかは、もっとつまらない生き方をするべきだったのかもと。そっちの方が、身の丈にあっていたのかとか……。


 だが、そうじゃない。「兄貴はオレを見捨ててくれよ。殺してくれ。そして、兄貴はもう一度、どこかで大きな勝負に出るんだよ。きっと、上手く行く。知っているよ。実際、スゲー、いいヤツだし、根性もあるもん」。


 そうだ。


 信じてくれるヤツがいる。オレの背中が守るべき弟分がいる。ケネス、守ってやるぞ。戦士職として、オレがお前のために戦うんだ。


 ……レオンハルトたちが、希望をくれた。いいハナシだ。昔なじみの冒険者仲間たちってのは、本当にいいもんだ。


 だが、その希望を待つだけでは、足りない。


 冒険者は、無限の困難に自分の意志で立ち向かえる、何よりも自由な者だ。待つだけでは、お前に信じてもらった兄貴分として、情けないからな。オレは、ちょっと稼いでくるよ。


 いい誘いだった。「ベクトラ伯爵は、貴方のような勇敢な戦士を探しているんです。魔神と契約できる可能性を持った、真の修羅場を幾度もくぐりぬけてきた、血にまみれた豪傑を。伯爵に仕えなさい。見事な働きをすれば、貴方は伯爵の兵士たちの指揮官にだってなれる。戦士としての評判も聞いている。忍耐力も精神力も評価した。貴方は、最高の人材よ。ベクトラ伯爵は、貴方を迎え入れる。期待に応えてくれますか?」。


 稼いでくるよ。


 魔神と契約でもさせられるのかもしれないが、構わない。やれるさ。強くなれる。エルミー・ブラネットに勝てるぐらいに。どんな大切なものだって、捧げてやれる。オレはな、ケネス。お前を守る壁なんだ。お前の兄貴分だ。最高の戦士を、もう一度目指す。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る