第四話 『国崩しの令嬢』 その18/涙の価値を知る者


 いいアイデアを得た。コロシアム。男の子心をくすぐる言葉だ。ロッドも、参加したがるかもしれないな。戦いでしか自分を表現できないヤツだし……。


 そうだよ。

「乱暴者は、世の中に居場所が乏しいんだ。でも、そいつらにも、居場所はいる。オレたちが、作ってやらんとな!」


「……レオさん。立派っす!」


「だろ? 晩飯は、豪華にしてくれ。あと……マリ! ちょっと、来い!」


「ケネスくんに、会いにいくのね」


「そうだ。セカンドオピニオンが有効なときもある」


「診てみるわ。代金は、レオンくんにつけておこうかしら」


「いいぞ! 借金は、いくらでもあっていいもんな! 最近、そんな根性がついてきやがったよ!」


「踏み倒さないようにね」


「がんばるさ……んで。エルミー、お前もついてこい」


「なんで?」


「お前がケネスの首をへし折って、再起不能にしちまったからだろうが」


「あっちから、絡んできたもーん。あーし、売られたケンカを買ったまで」


「それでも、一応はあやまれ。あやまらないと、ビール抜きだぞ!」


「わーかった。でも、あっちの方が、あーしと会いたがらないかも」


「玄関先まで行くだけでもいい。ケネス次第だ」


「んー。じゃあ、そーするよ。レオちー、まるで、あーしの保護者だね」


「ギルド長として、成長してるのさ」


 女医さんと加害者を引き連れて、ケネスの部屋へと向かった。ああ、とんでもない安宿だ。ケネスの困窮が、ひしひしと伝わってくる。


 部屋まで行くと、ドアを叩いた。


「オレだ! レオンハルト・ブレイディだ! ケネス、見舞いに来たぞ!」


「…………帰ってくれ、レオ……オレは、もう……ダメだ」


「ダメじゃねえ。マリを、マリカーネ・フラッコもいる。ケガを診てもらえ!」


「…………見られたくねえよ」


「ケネスくん。医者として、何かアドバイスが言えるかもしれない。損は、させないわ」


「……兄貴は?」


「ロッド・バーンが、ここの住所を教えてくれた。オレたちがくるのは、わかっていた。あいつも了承済みってコトだ!」


「…………金なんて、ねえ」


「金は気にするな。マリの、ボランティア精神だ」


 いいさ。金はオレの借金でどうにかしよう。ちょっとでも、冒険者たちを救いたい。


「…………入れよ。カギは、かけてねえ。盗人が入ってきて、オレを、こ、殺してくれるかもしれないからなあ」


「情けねえコト、言うんじゃねえ。入るぞ」


「……レオちー」


 ケネスには聞こえないように、小声で「待ってろ」と言うしかなかった。だって、あまりにもケネスの声が弱々しかったから。


 部屋に入る。思いのほか、キレイだった。ぶっきらぼうで乱暴者のロッド・バーンは、豪快な戦士だったはずだ。でも、それはあいつの一面でしかなかったようだ。弟分の介護をしながら、部屋を掃除しているのか。


 もっと。


 オレを、頼って欲しい。だが、オレには頼られるほどの力もない。


 無力だな。だから、せめて笑顔でいよう。ベッドに寝転がって、すっかりと痩せ細ってしまった男の心に、不必要な悲観をさせないように。ケネスが地獄を見ているのは、一目でわかる。


「思っていた以上に、元気そうだ」


「……どこがだ、クソ馬鹿。指一本、動かせねえんだぞ。一生、死ぬまで、こうだ。兄貴は、オレを……オレを……」


「介護してるんだな。いいさ。兄弟分ってのは、それでいい」


「甘えて、られるか……お荷物だろ、オレは……っ」


「ロッドがお前にそう言ったか? 言っていないなら、お前がそう思う必要は一切ない。冒険者ってのは、無限の困難に自分の意志で立ちむかえる。お前も、あいつもだ」


「……ふざけんな。きれいごとで、オレが救えるのかよ」


「救えるとすれば、医療だな。マリ、頼む」


「ええ。レオンくん、貴方は、外に出ているといいわ。ケネスくんも、貴方がいれば話しにくいコトもあるでしょうし。医者と患者だけに、して欲しいの」


「わかった。頼むぜ。ケネス、卑猥なセクハラ発言は、つつしめよ」


「……そんな元気は、ねえよ、ボケナスが」


 軽口が救う心の苦しみだって、きっとあるハズだ。


 そう信じて、外に出る。泣きそうになっていた。マリは、オレの感情の限界を知って、外に出させたのかもしれない。あまりにも、哀れすぎる。ケネスは、屈強で、タフで、頼り甲斐のある戦士だったのに……あんな、痩せ細って、指一本、動かんだと…………。


 外に出ると、加害者がいた。いや、この言い方は悪い。ケネスがケンカを売ったのだ。


 だとしても。


 それでも。


「ケンカごときで、相手の首の骨を折るんじゃねえ。二度とやるな、禁じ手にしろ」


「……はーい」


 マリの診察が終わるまで、オレは……エルミーのそばに並んで座った。どうして、こんなコトになったのか。冒険者たち同士でのケンカは、まあ、日常茶飯事だったが。ちくしょうめ。


 ……この苦しみがたまりにたまって、弟分の下の世話までするような忍耐力のあるやさしい戦士、ロッド・バーンは、エルミーに決闘を挑んだのか。しょんべんも、クソも。みんな、ロッドがキレイにしてやって、部屋だって、キレイに。花まで飾ってあった。ちょっとでも、何かをしてやりたかったのかよ。エルミーに勝てるわけないと、知っていただろうに。


 おい、おい。「呼んだとしても、ケガの治療は管轄外よ」、知ってる。でも、ちょっとは慰めの言葉をくれ。「わかった。がんばりなさい、レオ。あなたは涙の価値を知っている。良い涙は、人を強くするわ。無力さを悔やむ男は、もっと強くなれるの。泣いていいわ。それは間違いじゃない」。



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