第四話 『国崩しの令嬢』 その14/間違った選択


 そんな時代に、誰かの密偵をやっていたとしたら。じいさんは、『思わぬ宝物』を見つけられるかもしれん。貴族の守り刀を手に入れた……その方法? 殺して奪ったとか。盗んだとか、没落貴族がじいさんとのギャンブルに負けて手放したとか。


 ……はあ。行き詰まってしまったぞ。じいさんの足取りと時代背景を探るだけじゃ、証拠ってものがない。妄想の域を出そうにないな。


 しかしね。まだ、あてはある。


 ぶっちゃけ、オレがないアタマを使うよりも、ずっと頼りになるんだ。本命は、シオンだった。


 棺桶周りに設置されていた罠について、調べてもらっている。罠には思想が出るものだから、あの罠を使っていた連中が、どういう毛色の者だったのか……。


「わかったぞ」


 夕方には、シスター服すがたのシオンが『木漏れ日亭』を訪ねてくれた。


「大金も入ったぞ。とある大商人が、孤児たちのために寄付をしてくれたんだ」


「そいつは、ありがたい『善意』だね。罰神の神殿に、焼き菓子でもおそなえするといい」


「検討しよう。ローズには、飴玉をやったが、そのうちもっといいモン食わせる」


 めちゃくちゃ上機嫌の笑顔だ。難民孤児院の運営は、かなり楽なものになるだろう。オレも、あの商人からギルドに大金を寄付してもらっていたら良かった。いや、でも。孤児優先か。


「……さて。罠について」


「頼む」


「ワイヤーは、土と湿気にずいぶん長く耐えた」


「質がいいってコトだな、異常に」


「ミスリルまじりだな。柔軟かつ錆びを知らない。高級品だ」


「時代においても研究がなされたもんだ。ミスリルの精製は、軍事でも機密扱い」


「敵兵よりいい武器を持っておきたいとは、誰もが考える」


「戦争の度に、進化する代表的な素材だな。んで、いつのものだ?」


「親父の知り合いによれば、製造されたのは五十年から四十年前。罠については、一度、解除された痕跡があったらしい。解除したあとで、まったく同じに再現した」


「つまり、数年前にじいさんの墓を掘り起こしたヤツが、解除して仕掛け直した。完璧に。となれば、最初に罠を仕掛けたヤツか、その同門だな」


「そうだ。お前の祖父が生きていて、すべてをやったのかもしれないし、お前の祖父の仲間がしたのかもしれない。あるいは、お前の祖父の敵か」


「それで。あのワイヤーを使っていた連中は?」


「王家御用達の密偵たちだ」


「マジか」


「親父も、ある意味その一員ではあったから、親父の知り合いたちは一目で見抜いたぞ。『盗賊王』の技と、かなり似ていると」


「……うちのじいさん、王家の密偵の仲間?」


「あるいは、そいつらに狙われていたか。死んだあとでも、墓を探られて、遺体を回収されるような極悪人。テロリストだったのかもな。お前も、王城に攻め込んだんだろ?」


「あれは義憤というかね。シデン・ボニャスキーにそそのかされて……そもそも、酔っぱらっていただけだよ」


「とにかく。罠からわかったコトは、以上だ」


「……了解」


「ショックか?」


「そうでもないよ。じいさんの墓の中身が空だとわかったときの方が、おどろいた」


「私も親父の墓を掘り返してみたくなった」


「やめとけ。気持ち悪い光景を見るのがオチだぜ」


「ああ。生きていてほしいが、それはないな…………それで、どうする?」


「ドミニクに報告する。それで、クエストは完了だろう。この手帳を処分しちまえば、オレたちのじいさんの怪しさそのものもなくせる。証拠がないなら、王子さまに探られても問題はない。ドミニクは、それで満足だろう」


「お前は、満足するのか、冒険者よ?」


 うむ。何とも答えに困る一言ではあったな。冒険者の好奇心というものは、危険をともなうとわかっていても、止まらないものだった。


「これ以上は、関わらないようにしよう」


 ドミニクの言葉は、まったくもって想像の範囲内だ。さすがは、ちゃんとした一般社会の労働者だよね。


「リスクからは遠ざかる。好奇心と心中するつもりはない。兄さんも、ギルド長なんだからね。ちゃんとした行動をしないと」


「そうだな。お前に、パトロンたちをまとめて欲しい」


「ああ。野心的な出資者たちからは、ボクのもとに打診がある。兄さん用の窓口として、機能しつつあるね」


「オレには、それほど大物たちからの打診がないのだけれど?」


「冒険者はビジネスの専門家じゃないからね。クエストとして、依頼を出すよりも先に、商人や貴族たちが会議をしてクエスト内容を形成する」


「オレは蚊帳の外? のけ者なの?」


「いいや。そのうち、声がかかり始めるだろう。兄さんは、見るからにアホだから、あやつりやすいと商人の誰もが思うだろうから」


「気をつけるとしよう。お前に、相談して、色々と決めたい。いいか?」


「……ああ。いいとも」


「仲良し兄弟の復活だな。一週間に三回以上会える兄弟は、仲良しだ」


「仲直りしてほしいのかい?」


「そうだよ。仲たがいしたつもりもない。色々と、あっただけ」


「……そうだね。その手帳を、素直に渡してくれたら、仲直りしよう」


「……冒険者の習性を、よくわかっているじゃないか」


「気になるんだろ。調べたがっている。それは、依頼主であるボクの望みじゃない」


「家族の秘密は、気になるだろうが」


「兄さん。自分の好奇心と、周り。どっちが大切なんだ。その答え次第では、永遠に軽蔑してあげる。背負うべき仲間もいるし、クレアさんやローズマリーは、兄さんの新しい家族だ」


「……その観点から言えば、じいさんの秘密なんて、ちっぽけだな。ほら、好きにしろ」


「ああ」


 ドミニクは渡された手帳を、一読した。知っている。あいつ、かなり賢いから。ほとんどすべてを暗記してしまえるんだ。冒険者としての才能は、オレの方が圧倒的にあるけれど、アタマの作りでいえば、ドミニクの方が圧倒的に優れているんだよね。


「さようなら、我々の見知らぬ祖父よ」


 暖炉に近づきながら、短い一言で別れをすます。


 オレはソファに腰を下ろしたまま動かなかったよ。好奇心より、家族と仲間。当然だ。ドミニクは、暖炉にある火のなかに、手帳をそっと放り込む……「あーあ、バカね。やっちゃった!」、混沌神ルメの声を聞いて、背中に汗をかいた。


「おい、ドミニク! なんか、やべえぞ! 混沌神が、喜んでいる!」


「はあ? 兄さんに憑りついた魔神がどうしたと……!?」


『あ、あちい!! あちいい!! このクソガキども、な、なんてコトをしやがるんだあああ!!』


 暖炉のなかで叫んだ。手帳がね。オレたち兄弟も、叫んだよ。


「マジか!?」


「マジか!?」


 仲良く同じ言葉を叫ぶなんて、まるで仲良しの証明だったよな。



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