スターステイツ開発編
レゲエは最高にチルだよボブ
「ああああ!!」
「うーわっ……マジか」
なんか素手で壁ぶち破ったり自分で頭打ち付けたりしてるわ。
ため息ついて私はギターを弾き始める。
静かに、そして情熱的に。今回はレゲエだ。
高ぶり切ったテンションを抜くにはこれがいいんだよ。
「……イブキ?」
めっちゃ泣いてるじゃん……
『どしたんハニー、話聞こか。何があったよ、何やらかしたん?つらいなら気持ち聞かせてイェイイェイ』
にっとギザ歯を見せて笑う。毒気が抜けるように。
甘い常夏のメロディー。それは悲嘆とは正反対のものだ。
「俺は……俺は赦されないことをしてしまった……!」
『YO!みんなおんなじ、それでお前の心癒されないのわかってる。だからいいなよお前の事情。引かない引かない絶対引かない。抱え込まずに話してみろよ、Oh!』
そしたら出るわ出るわ。
なんか……悪意を自覚する実験として一通りマジ悪い方法で虐殺したり。
友情を知りたくて仲よくしたけどよくわかんなくて、ついでに罪悪感も知りたかったから仲良くなった人全員ぶっ殺してみたとか。
でも人の心を知った今になって、友情は実際あったし、罪悪感もメチャクチャ出てきたとか。
……みんなそうなんだよなあ……私も例外じゃねえんだよ……
『Okey、お前の苦しみよくわかる。お前の罪に罰があるなら、そりゃその苦しさ抱えていくこと。そんで二度と繰り返さんで、やったぶんだけ助けていきなよ。それがお前への罰。生きていくんだ、死んだら償えない、yeah』
「生きてて……いいのか……?俺は……いや、生きていかなきゃいけないのか……?これからも……?うう……」
アダマスは力なく拳を地面につけてうずくまる。
『言ったじゃん、連れていくって。私も背負うから。いっしょに悩もう。償い方ってやつ。心配すんなよ私がついてる。何ができるかわかんないけど、とりあえず胸くらい貸してやる』
スッとギターを魔力に戻して消し、後はアカペラで声を張って頑張る。
なんかそーっと様子見てたユノがドラムでトロピカルなリズムを出してくれてるしね。
そっとアダマスに触れ、撫でる。
号泣が始まるが、これは終わりの合図みたいなものだろう。
なんか安心してくれたらしい。
『迷子や迷子、坊やには見えないのね。私の角も、赤い目も、鋭い牙も』
ユノにハンドサインでペースを落とすように伝えて、子守歌にジャンルチェンジしていく。
『この角は見えぬもの追い払う。
この眼は暗闇を見通す。
坊やを追う者、この牙で砕こう』
号泣はすすり泣きに変わり、やがて静まっていく。
『山風がそよぐよ、遠い川のほとり。
坊やの夢は、月の舟揺れる。
穏やかな波に、悪夢をもっていくから』
やがて静かな寝息になったけど、私はまだ歌い、撫でていた。
『眠れや眠れ。夜には私がいるから。やがて朝が来るその時まで』
この気持ちが何なのか、まだ言葉にしたくなかった。
☆
いつのまにか私も寝ていたらしい。
起きたらベッドに寝かされていたし、椅子にはミスラとアダマスがじっと座っていた。
「おー……何?私寝てた?」
「丸一日ぐっすりね。その間はイシュトアン様とユージンがなんとかしてくれたわ」
「んー、そっか。まあちょっとはしゃぎすぎたわ。三徹はやっぱきついね。ほんで二人してどしたの」
トマトジュースを『錬金』してぐびっといっとく。
あ゛ー生き返る。
「普通に心配じゃない……」
「あそこまで世話をされて何も思わないほど、俺は魔族のままではない。……すまなかった」
「いーよいーよ。昔からよくあんだよ。無茶なキメ方するとたまにな。ほら私ネジの5,6本外れてっからさあ!」
笑ってごまかしたら、なんか真顔で心配されている……
大丈夫は大丈夫なんだよなあ……絶対後で内臓か脳がいくけど、まだそれまで500年くらいは持つだろうし。
まあ魔族の寿命って本当は永遠に近いから、それから考えると激減どころじゃないんだけど。
「どう少なく見積もっても300年は持つよ。ぶっ殺されない限り絶対ほうり投げて死んだりしないって。そこまで無責任じゃないよ」
ミスラには手を握られたし、アダマスは剣を持って誓いの敬礼をされたよ。
マジか~
「俺は生涯をかけてお前の命を守ると誓おう」
「わ、私は何かあったら全力で後を継ぐから……!放っておけないわよ……!」
重いなオイ!こういうのマジ苦手なんだよ……
真顔でこんこんと心配されるといたたまれないんだよね。マジで。
「わかった!わーったから!休もう!な!休憩!しばらく休憩で行こう!」
「そうしましょう……!」
それからしばらく寝てグータラして体力回復させたよ……全力で。
三日くらいかかったかな?
暇だからその間、ちょくちょく指示だしといた。
なんか……全力でみんなやってくれたから、その間問題はあんま起きなかったよ。
暇だからカスみたいな悪事すんだよ。
仕事与えてやれば遊びで殺人とかしねえはずだ。
「とりあえずさ~、毎日私が出なくてもいいように『ラジオ』と『新聞』、あと『しーでぃー』っていうかな……『レコード』があればなあ」
「なにそれ」
「いや昔、『ママ』とか『博士』が言ってた発明でさ……」
ざっくり概念だけ説明しただけなんだけどね?
国中からそれっぽい固有魔法使えるやつ探してきて実用化してた……
固有魔法の
なんで概念伝えた半日後にはファンの鑑が試作品持ってきてるんだよ!
「できました!ラジオ放送局とレコードの試作品っす!新聞も10万枚刷って大々的に宣伝してきましたよ!お疲れの所すいません!でも初の放送はイブキさんしか考えられなくって……!」
「お、おう……なんで半日でできんだよ……どうかしてるよ」
「あざっす!イシュトアン様にお伝えしましたら制作に必要な固有魔法がわかったんで、俺ら使えるヤツを国中探して見つけてきました!」
なんなんだよあの人は!?いやマジ聖人だけどさあ……
私の無茶の尻ぬぐいっていうか実務を全部押し付けてる形になってっからな……
それで文句言わずに働いてくれるからマジ聖人だよ……
魔族からなんであんな聖人が出てくるんだよ……おかしいだろ……
「と、とりまイシュトアン様にはお土産もってっといて……これな。お菓子とスゲーいい酒」
「ウス!命に代えましても!」
「そこまでしなくていいよ……あとこれはお前に褒美な。私のギターのコピー品と……駄菓子つめあわせだ。お前もちょっとは休めよ!?」
「あざっす!」
さて、ラジオだ。
ファンの鏡がいうには街角の一つ一つに国営放送のスピーカーが繋がってる。
とりま一曲やっておくか……
「ほんじゃ放送たのむわ。ついでに何曲かやるから、録音たのめる?」
「い、いいんすか!?休養中でしょう!?」
「私がいいっつったらいいんだよ。私の国だからな」
「ウス……」
一息ついて、放送を開始する。
「ヘイ!マイ国民!私だぜ。心配かけたなぁ。私はもう元気だから心配すんな。記念すべき世界初放送だけど、聞こえてる?まあこれ、どこでも声出せる魔道具なんだわ。私がちょくちょくこうやって国中に放送すっから。ほんじゃ曲いこっか」
ギターが優しい音色を奏でていく。
「みんななんだかんだで、まだ心が傷ついてるだろ?これ聞いて癒されてくれたらいいなって思うよ」
それはあの時の子守歌だ。
実はこれママ作曲だったりする。歌詞は最近に私がつけたんだけど。
みんな同じように私のポカで傷ついたんだから、アダマスと私だけ聞いてるのはフェアじゃないだろ。
「……『眠れや眠れ。夜には私がいるから。やがて朝が来るその時まで』……と。こんなもんかな。まあまだこの放送もお試しだからさ。ちょっとづつ改良点洗い出して改善していくよ」
それから同じ感じの優しげな曲を何曲か披露して一日目は終わることにした。
「じゃあな、おやすみスターツテイツ」
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