対決!魂がデスメタルな女
アダマスが自前のマントをダイヤモンドに変える。
こいつの最強たる魔法は『不壊化』。
どんなものでも絶対に壊れない貴金属・宝石に変える魔法だ。
「イブキ!」
「うおっ、力つよっ」
アダマスは私をひっつかんで硬化させたマントで壁をぶち破って外に出る。
後ろから剣が飛んでくる。
だが、アダマスは一瞬でダイヤモンドの大剣を『錬金』して軽く薙ぎ払う。
「すまん、まさかこうなるとは」
「私はなんか嫌な予感はしてたよ! まあいいさ、私の喧嘩だ。見てなって」
アダマスはマントを元に戻して私をくるみながらすんげえ速さで飛ぶ。
ちなみに『飛行』も汎用魔法だ。人間は魔法使いでも飛ぶの下手らしいけど。
「わかった。どちらに行く?」
「海だ! ちょっとした考えがあるからさ。どうなるかはまあ賭けなんだけど」
「ならばそこまでは守ろう」
「頼んだ!」
後ろからはセレナがなんかいい笑顔でうふふふふとか笑いながら飛んでくる。
だからこええよあの女! しっとりするな!
「追いかけっこは終わり? じゃあ、『お話』しましょう」
「肉体言語でお話しようか」
「ええ、それも大好きよ。とっても素敵。あなたの魔法を見せて? 武器は何かしら? やっぱり楽器なのかしら」
「喧嘩っていったらこれだろ!歯ぁくいしばれ!」
私は飛びながら限界まで加速して魔力で拳を覆ってぶん殴った。
まあほんのジャブだ。
実際、ふわふわ浮かぶ剣で防がれた。
剣はぶち折れて、少し驚いた様子だが余裕だろうアレは。
「まだまだ!『ロックシューター』!」
これは西部の人間国家でよく使われる投石魔法だ。
『錬金』で岩を作ってぶん投げる。それだけのシンプルで、頑健な術式だ。
まあ、セレナが『錬金』で作ったクソ長い曲剣で切られたけど。
「驚いた。こういう所も逆なのね。まるで鏡みたいね私たち。写しているものは同じなのに、向かう方向が逆ね」
「そこの所は同感だね。見解は同じだけど、選択が逆だ」
「そう、私は武器は華やかで面白い方が良いわ。繊細で精密でお洒落なものがいいの。あなたは逆でしょう?」
たしかにその剣、メチャクチャ装飾が凝ってるもんね……
私の投げる岩はマジでただの岩だし。
「殺しの道具なんざ、シンプルで実用的だったらいいんだよ。派手にやるのは舞台だけで十分だ。ああ、でもそういうことなら……」
セレナは祈るように合わせた手を手刀の形に構えた。
アレは私の『魔力を固めてぶん殴る』の上位互換『魔力を刃にしてぶった切る』だろう。
私よりずっとずっと高密度なやつだ。
「やっぱりか、驚いたね。奇しくも同じ構えってワケか」
「ええ、空中格闘はね、こうやるの」
やっぱ強い! 手慣れてやがる。こういう所で年期の差が出てくるな。
私は体を覆う魔力を固めて防ぐ。魔力装甲だ。
普通は魔力で薄い球状のバリアを作るのが魔族の戦い方なんだけどね。
「あら、それもできるのね」
セレナはこの魔力で体を覆うタイプの魔力装甲もできてた。
うーわカッチカチだよ。要塞でも着てんのかい!って感じだ。
「あんたもやるよなそりゃあ……」
そこからはまるで指導試合みたいだった。
殴れば余裕で飛行剣で迎撃され、殴りかかればたやすくカウンターを取られる。
飛びながらお互い撃ちまくるが、タイミング、位置取り、全て上回ってきやがる。
「あらすごい。もう覚えてきたのね。素敵だわ。でも解っているでしょう? まだきっと奥の手があるわよね? 出し惜しみしてたら死んじゃうけどいいのかしら」
セレナの真似で戦法や技を覚えていっているがまあ間に合わねえな。
まだ軽症だがあちこちボコボコだ。キャットファイトでやっていい絵面じゃない。
「そんじゃあリクエストに応えてやるよ! 『安綱』!」
あたしは姉さんからもらったギターを『錬金』して構える。
オリジナルはステイツに置いてきた。壊れたら悲しいからな。
「わあ、やっぱり楽器なのね。ナザルを倒した技を見せてくれるのかしら。とっても興味があるわ。ああ、それとも……」
『魔族を殺す
「すこぶる付きのウルトラソニックウェイブだよ。堪能してってくれ」
手の内読まれてる感じはするが、それでも出さなきゃどうにもならねえ。
弦をかき鳴らしてソニックウェイブを出す。
ソニックウェイブはセレナに直撃するが、頬をわずかに斬っただけだ。
一応魔力防壁を抜けられはしたが……避けもしてねえ。
「音を消す魔法」
やられるよなそりゃ。
こいつも私も『固有魔法』以外の魔法に手を出すタイプの魔族だ。
正確には魔法コレクタータイプだ。そういう奴は例外なくヤバイ。
イシュトアン様が『
魔法コレクターなら音波攻撃には絶対対処をする。してないはずがない。
静かなにらみ合いが続く……かと思ったらセレナは余裕の顔で『錬金』で空中にグランドピアノを出してイスに座ってこっちを見た。
「このまま封殺してもいいけど……そうね、どうせだから最後にセッションでもしましょう。辞世の句というやつであなたが何を歌うのか気になるの。きっと良い曲になるわ。録音魔法もセットしたから……今日みたいな天気の良い日にはきっと聞くわ」
なんで録音魔法なんて人類圏のごく一部にしかねえ魔法知ってるんだよ……
こいつが『お話』したがるのって魔法コレクションのための尋問なのか?
「絶対3日くらいで忘れるだろあんた」
「それはあなたの歌次第ね。どうするの? このまま死ぬのかしら。それとも歌の勝負で素人の私から逃げるのかしら」
「やってやるよ。先手は?」
演奏中にミスラにやったように毒ガスまけばあるいはいけるか……?
「あなたに譲るわ。好きな曲を歌って。ああ、そうそう……まさか芸人ともあろうものが曲の最中に毒ガスなんて使用しないわよね?」
「うるっせえー!! 知るかボケェ! 黙って聞きやがれ! これが私だ!」
読まれてるよー!そう言われれば毒ガス使うわけにはいかねえじゃん!
こういう相手の美学とかを逆手に取るの本当に魔族だなこの女。
安綱をかき鳴らす。気分乗らないなあ……
『無明に唱うは外道の大悟!』
叫ぶ。この茶番じみた流れの中で。
『私の業がこれだというなら、私は鬼だ
光溢れる世界でも、呪われた者には何も見えやしない
呪いを飲み干し、無明の中ですべての鎖を引きちぎる。それが私の道だ
私が背負う、赦しはいらない
私は毒を殺す毒。厳しい道になるだろう。私は世界を照らす鏡になりたい』
私が弾くのはコテコテな激しいロックだ。古典的ですらある。
ママがいうにはクイーンとかアイアンメイデンってバンドに似てるそうだ。
私の演奏が終わり、セレナがピアノを弾き出す。普通にうまいじゃん……
何ならできないんだよあんた。
『命に善悪はないわ。それはただの命。輝かしい命
見たこともない輝く世界よりも、誇りある闇の中を私は飛びたい
光を拒むわけじゃなくて、ただ私たちも命の輪の一部だと信じてるだけ
野に咲く花のように、ただあるがままに。私は世界を写す鏡になりたい』
賛美歌のように透き通る声。私はちょっと気圧されてしまう。上手いじゃん……
ちょっとの隙に私は無理矢理レスポンスをぶち込む。
『私は飛ぶ。私は
チッ、すぐに曲を取り返しやがった。
しかもちゃんと曲として違和感ないのが腹立つな。
『輝ける青空よりも、私は誇りある闇夜を飛ぶわ
全てが見えるように高く飛んでも、そこに光はないの。
私たちは雪のように暖かい光の中でただ溶けていくだけ。
それが運命。例外はないのよ』
すんごい爽やかな歌うたうよね。
EDMと賛美歌混ぜたような感じ。シンフォニックメタルかも。あくまで人間の感性ならそうってだけでだいぶ魔族よりな音感だけど。
いよいよラストのメロディか……私は少しづつ近づいて、目の前で歌う。
『私が運命に飲み込まれて消えていくことを良しとする時が来たのなら、それは十分に抗った後だけだ。私の
私はかみつくような顔、セレナはいつもの薄い微笑みだ。
「どうかしら、歌合わせは私の勝ちのようだけど」
「あんたレスバ上手すぎなんだよ……口達者が過ぎるだろ」
「あなたが言えたことかしら」
「違いない」
「言い残すことはある? ぜひ聞きたいわ」
「何もねえ!やっちまえ!」
「そう」
私の首筋を手刀がかすめる。これだ! ここまではお互い予定調和だ!
大筋はお互いに読み合ってただろう。
武器と魔法による序盤、問答っていうかさすがにセッションは予定外だったけど、近づいて煽ってくるだろうとは思った。
私の動脈から血が吹き出て、セレナにかかる。
「
「やっぱりこうなったわね。血に何の毒を混ぜたの? あなたが反撃できるタイミングはここしかないものね。鼻から脳を垂れ流す蛇の神経毒? それとも心臓を止める蜂の毒?」
セレナは私の血をぺろりと舐めて余裕の様子だ。
ちなみにマジでただの血しぶきでしかないので魔法じゃない。
ここからが勝負だ。毒が効くまでペラ回せ!油断を誘え!
「『毒の種類を判別する魔法』」
「毒じゃねえよ。それは薬として作られたからな」
「へえ、確かに解らないわね。なら『薬効を消す魔法』どうかしら? まだ何かしてくれるのかしら」
「そうだな、じゃあそれの解説するよ」
「時間稼ぎ? なんのために?」
「それもすぐわかるよ。私の知り合いは……人には認識できない感覚を認識するための研究をしていた。その方法の一つとして寄生虫を品種改良していた」
「へえ?それは成功したの?」
「ああ。確かに奴は人間を超えたよ。膨大な犠牲の果てにな」
「へえ、興味はあるけど……寄生虫なら大丈夫よ『寄生虫を殺す魔法』さあ、これで終わり? 続けて?」
「でだ、私が補助脳の一つに超精巧な魔力塊を作れるのは知ってるよな? ところで寄生虫を模してそういう砂粒より小さいサイズのゴーレムを作る技術の延長なんだこれ。ナノマシンっていうんだけど」
おっ、顔が青ざめたなセレナ。
「そうだよ! 『薬として作られた寄生虫のように働く
獲物の前で舌なめずりしてメチャクチャ煽りまくるのたのしー! 魔族の性だね。悲しいね。
セレナは真っ青な顔をして海に飛び込んだ。
「あんたに投与したのはもうわかるよな? 『人間の脳を模した補助脳を作るナノマシン』だよ。ちなみに麻酔してないから死ぬほど頭が痛くなると思う。それでちゃんと泳げるか見物だな」
セレナは必死の顔で血を洗い落としていた。だが、その手が止って頭を抱え始め……やがて、沈む。
「がぼがぼっ! 頭が……! 割れる! こんな、死に方……!」
「ああそこ離岸流だから気をつけてな。バイバーイ」
アダマスが飛んできた。
「勝ったのか、あのセレナに」
「2度と戦いたくないねあの女とは。ああ、その……悪いな、知り合いを殺しちゃって」
「……思うところがないわけではない。だが仕方なかっただろう」
「……そうだな」
私は『あらゆる薬を作る魔法』で止血軟膏を作って塗る。
そんな風に黄昏れていると……
海から水柱が上がった! マジか。もう品切れだぞ。
「うふ、うふふふふ……あははは! 素晴らしいわ! ありがとうイブキ! これが悪意! これが罪! ああ、なんて熱く甘いのかしら! とっても良い気分よ……! よくもありがとう! これでおそろいね……!!」
こっわ! 笑顔こっわ! 鬼の顔じゃん。
ヤバい。ヤバいヤバいヤバい! あのセレナが人間の悪意を学習した。仕留めきれなかった! 油断だ-! やっちまったよー!
私たち二人に向けて容赦ない剣の弾幕が飛んでくる。
「アダマス!あなたの本当にやりたいことはね……!」
「アダマス! 殺らなきゃ殺られる!! なりふり構ってられねえ! 海ごといけ!」
「……残念だ。セレナ。『不壊の魔法』」
笑顔のセレナが銀に染まる。へー、あいつ貴金属になると銀なんだ。
いや、おかしいぞ。これまさか。
「さようならお二人さん! そのお家はあげるわ! 私はやることができたから! たくさんたくさん素敵なことを思いついたの! ああ、素敵よ……!」
とお──くの方で手を振ってるセレナ。やられた。変わり身だ。
アダマスの方を見た。首を振る。
「範囲外だ。もはや追いつけん」
「やっちまったなあ……」
バチクソヤバい女を爆誕させちまったよ……
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