第3話:ライバルの存在

篠田誠が開業した小さな店舗「篠田商店」は、少しずつ町の人々に知られるようになってきた。特に新鮮な野菜や焼きたてのパンは評判が良く、近隣の主婦や冒険者たちの足を引き寄せる。しかし、誠が順調に見える商売に胸を張っていたその裏で、町の商業ギルドではある会議が開かれていた。


「聞いたか?あの新参者の店、最近客を集めてるらしい。」

そう話すのは、商業ギルドに所属するパン屋の店主カーロだった。篠田商店が現れるまでは、町でのパンの供給をほぼ独占していた男だ。


「売上が減ってる原因は、どうやらあの店にあるようだ。」

さらに情報を付け加えるのは野菜卸売業を営むビッラ。彼もまた篠田商店の台頭に危機感を抱いている。


ギルドのリーダーであるベルモンドは厳しい顔つきで椅子にもたれかかりながら、一同の声を聞いていた。

「つまり、この町に余計な競争相手が現れたということか。新参者が勝手に市場を乱されるのは困るな。」


「なら、手を打つべきじゃないですか?」とカーロ。

「その通りだ。だが露骨な嫌がらせは評判を落とすだけだ。もっと合法的な方法で動くべきだな。」


ベルモンドは静かに指示を下した。

「まずはあの店がどこから商品を仕入れているのかを調べろ。それが分かれば対策が打てる。」


一方、篠田商店では、誠が新たな仕入れ計画に頭を悩ませていた。

「徐々に客足が増えてきてるけど、このペースで売れ続けると仕入れが追いつかなくなるな……。」


誠は自らのスキル**【流通管理】**を活用し、仕入れ元の候補を拡大する方法を模索していた。画面に映し出された地域の流通情報には、まだ未利用の供給ルートがいくつか浮かび上がっていた。


「この近くの農村に直接交渉しに行くのがいいかもしれない。」


そんな中、再び店の扉が開き、一人の男性が入ってきた。背の高いスーツ姿の男で、いかにも商売に長けた雰囲気を醸し出している。


「こんにちは。あなたがこの店の店主、篠田誠さんかな?」

「ええ、そうですが……どちら様ですか?」


男はにこやかに名刺を差し出した。

「私はベルモンド。商業ギルドのリーダーをしている者です。」


その名を聞いて誠の顔がわずかに強張った。商業ギルドの存在はすでに耳にしていたが、彼らが動き始めるのは想定外だった。


「いやあ、新しいお店ができたと聞いて挨拶に伺いました。この町で商売をするなら、ギルドへの加入をお勧めしますよ。」


誠は笑顔を作りつつ、慎重に言葉を選ぶ。

「ありがたいお話ですが、私はまだ始めたばかりで、余裕がないんです。」


「そうですか……まあ、無理強いはしません。ただ、ギルドに入ればこの町での仕入れや販売がもっと楽になりますよ。」


その言葉には明確な意図が込められている。誠はその場での即答を避け、曖昧に返事をしてベルモンドを見送った。


「ギルドか……ただの挨拶じゃなさそうだな。」


誠は一人店内に残り、今後の動きを考え始める。この町での商売には、敵も味方もいることを改めて実感する瞬間だった。

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