Hitachino's prompt

常陸乃ひかる

小説とはなにか

 本堂ほんどう修造しゅうぞうは六十歳を過ぎたあたりから、『小説は人間が書いたほうが絶対に面白い』という持論をやたら声高に主張するようになった。若手作家や編集者には『老害』だと陰で囁かれながらも、本人はまったく意に介さない。

 デスクの上には何十年も使いこんだ万年筆と原稿用紙が山積みになり、いまだにパソコンを使おうとはしない。彼に言わせれば、文章は『身体からにじみ出る粘液のようなもの』なのだという。機械的にアウトプットされた言葉には温度がない、と頑なに信じていた。


 その日も修造は書斎で原稿用紙に向かっていた。外は朝から霧雨が降っている。窓に映る薄暗い空を見つめながら、頬杖をついて唸っていた。

「……雨は嫌いじゃないが、AIにあれこれされたら言葉が湿ってしまう」

 いつもなら口にしない独り言を、ついこぼす。ここ数年、世間ではAIが書いた小説だの、AIが描いたイラストだのがもてはやされていて、修造にはそれが我慢ならない。特に若い編集者から『AI使ってみませんか』と提案されると、わざとらしく大きなため息をついてみせる。

「……人間の苦労が、あいつら(AI)にわかるはずがないだろう。体液の交換も知らんくせに」

 思考を落ち着けるために、彼はあえてデジタルと正反対の古い道具にすがる。立派な朱色の印章を押しながら、「これぞ作家の矜持きょうじだ」と自分に言い聞かせていた。


 ところが、その日はいっこうに筆が進まない。いわゆるスランプというやつだ。テーマは昔から好きな「生と死」をめぐる物語で、どこか陰鬱な空気を漂わせながらも最後に一筋の光明を与える、というのが修造の定番だが、今回はどういうわけか結末のイメージが定まらない。書きなぐった原稿用紙を読み返しても、どこか自分が描きたいものからズレている気がする。

「……こんなはずじゃなかったんだがな」

 ストロング系チューハイの缶を開けて、昼間からごくりと飲む。かえって舌先に苦味が残り、不快感が募るばかりだった。

 そこへ電話が鳴った。受話器を取ると、編集者の和泉いずみからだ。

『先生、そろそろ新作の構想はいかがでしょうか。締め切り、近づいてますよ』

「うるさいな、焦らせるな」

 つい突き放すような言葉が出る。本当は締め切りなど守れなくてもかまわないが、出版社との契約上、あまり開き直るわけにもいかない。若手のようにSNSで話題をかっさらう力は、いまの修造にはない。地道に連載を続けて食いつないできた彼には、もう後がないのだ。

 電話の向こうで和泉が気まずそうに笑う声が聞こえた。

『実は、先生のプロットにAIを活用してみたらどうかという案が上がっていまして』

「馬鹿言うな。お前たち、俺をAIでおもちゃにする気か」

『いえ、そういうわけでは……ただ、いまは効率よくストーリーを組み立てる方法のひとつとして、多くの作家さんもAIを使っていまして……』

 修造は眉をひそめた。ついにここまで来たか、と吐き捨てたくなる。

「……俺の作品は人間の手で書くから意味があるんだ。AIなんかに任せたら、それはもう小説じゃない。おわかりか」

 一方的に電話を切ったあと、静まりかえった書斎でうつむく。こうやって意地を張ってみせても、残された時間は少ない。


 翌朝、原稿用紙を前にしても一向に言葉が生まれない。あれだけ嫌っていたSNSをちらっと覗いてみれば、『AIで創作しました!』と喜々として報告する若者が何千もいいねを集めている。自分が苦難の作業を積み重ねてきた間に、彼らはAIとともに新時代を謳歌しているのだ。

「……こんな世の中になるなんて」

 誰もいない部屋でつぶやく。長年の勘が働き始める。これほど小説を書けないのは、自分自身がAIという存在に怯えているからではないか。さっき電話で強がったものの、どこかでAIの力を試してみたいという欲求があるのではないか。情けなくなりながらも、彼はパソコンを立ち上げてしまう。

 画面には『文章生成AI』の文字が並ぶ。入力欄を前にして修造は息をのんだ。

「……参考にするだけだ。まさか使うわけじゃない」

 そう自分に言い聞かせながら、今の原稿のあらすじを打ち込んでみる。ほんの数秒後、AIがサクサクと物語のアウトラインを提示してきた。見ると、驚くほど筋が通っていて、これなら書き進められそうだという印象を受ける。

「……そこそこやるじゃないか」

 悔しくて口元が歪む。自分が数日かけて苦悶して出せなかった結論を、AIは簡単に整合させてしまった。とはいえ文面には人間の泥臭さが足りない。登場人物の痛みも弱い。そこに妙な安堵を覚え、修造は苦笑する。

「そうだろう……小説は人間の血と汗と涙が染み込んでいなきゃ面白くないのさ」

 得体の知れない優越感を抱えながら、AIが生成したプロットを参考に筆を進める。すると不思議なほど意外と捗ってしまう。ラストシーンのアイデアまで思いつき、夜には原稿をだいたい書き終えていた。


 数日後、編集部に送り返した原稿は思いのほか好評だった。いつもより筆致が軽快で、読後の爽快感があると褒められた。修造は表面上は「そりゃあ、俺の筆力だ」ととぼけてみせるが、内心では複雑さを拭えない。「AIがあったからこそ書けた話なのかもしれない」と思うと、作家としてのプライドが痛むのだ。

「……ただ、俺は書きたいものを書く。それが人間味だ」

 そう言い聞かせて、編集部が用意したイベント会場へ向かう。新作出版を記念したトークショーが行われることになっていた。

 壇上でマイクを握ると、客席の若者から質問が飛んだ。

「先生は、小説とAIについてどうお考えですか。今後はAIが主流になるのでしょうか」

 修造は間髪入れずに答える。

「人間が書いた小説こそ面白い。これは絶対に譲れないよ。AIはあくまで便利な道具だ。過去のデータを読み込み、整然と文章を出してくれるかもしれない。だけどそこに血が通っているかと問われれば、答えはノーだ。書き手の体温と匂いが行間に滲むのが、小説の醍醐味なんだ。AIは真似できない」


 会場からは拍手が沸き起こった。あからさまにAIを否定しても、「それが本堂修造らしい」と笑ってくれる読者がまだいる。修造はそれに小さく頭を下げながら、安堵の息をつく。老害作家と揶揄されようが、これだけは絶対に曲げない。それだけで、今は良いと思えた。

 控室に戻ると、編集者の和泉が寄ってきた。

「ところで先生、ネットではAIの小説に賞を与えようって動きがありまして……」

「そうか。やりたきゃ勝手にやらせておけ。俺は俺のやり方でいく。それだけだ」

 とんがった返事とは裏腹に、修造の胸には妙な余裕が生まれていた。もしかするとまたスランプに陥ったとき、AIをちょっぴり参考にするかもしれない。けれど、最後に魂を吹き込むのは自分だ。そう信じているからこそ、「小説は人間が書いたほうが絶対に面白い」という叫びを、今後も掲げ続けるだろう。


                                  了


【これは、すべてChatGPT o1が考えて、書いた文章です】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る