第5話:ピアンタHV50 。

僕とアリスはベンチに座って仲良くソフトクリームを買って食べた。

このゆったりした時間の中、僕は今がチャンスだと思った。


僕がアリスを好きだって告白した返事をまだもらっていなかったからだ。


「あの〜アリス・・・あのさ・・・」


「なんですか?」


「あの・・・あの、次のアトラクションどれに乗ろうか?」


(なに言ってんだ僕・・・)


「もう怖くないのがいいです」


「あはは、そうだね僕もそのほうがいいかなって思ってたとこ」


ってことでまた返事を聞きそびれた。


昔からある定番のメリーゴーランドとか、ゴーカートどか、コーヒー

カップとか・・・それに観覧車。

観覧車こそ、ふたりっきりになるんだから、今度こそ返事を・・・。


だけど観覧車の中でも僕は、どうでもいい話ばかりして肝心なことが

聞けないままに降りてきた。

どうすんだよ・・・このままじゃ先に進めないだろ?


こうして何も進展しないまま初デートは虚しく終わった。


そして僕は次の朝、いつものようにアリスに起こされて、朝食を食べて彼女と

一緒に学校に通った。

その頃には普通にラブラブカップルみたいに手を繋ぐことがあたりまえに

なっていた。


だから学校では完全に僕とアリスは付き合ってると思われていた。

にも関わらず、そんなことを無視して相変わらずクラスのバカどもが

アリス目当てに群がっていた。


落ち着けないくらいライバルが多い。

そのたび僕はそいつらとアリスの間に割って入って


「悪いけどアリスは僕の彼女だからって、そいつの告白を無理やり阻止していた」


そんな時だけ僕はアリスのことを彼女だって言えるのに。

それを聞いてアリスはどう思ってるんだろ?

アリスは「ありがとうございます」って言うだけで何も言わない。


少しくらいアリスから、なにかの意思表示とか反応でもあったら

いいんだけど・・・。

アリスはまだ主従関係に拘ってるんだろうか?


アリス・・・君の心が読めない。

感情を抑えてるのか?・・・それとも僕の気持ちを無視してるのか?

なんで君はそんなに僕の心を揺さぶるんだ。


君の気持ちを聞けないまま僕は何食わぬ顔で生活しアリスは甲斐甲斐

しく家のことをし僕の世話もし・・・今の僕にとってそれは見せかけだけの

平和な日常でしかない。


アリスが僕んちに来て魔法を使うのを見たのは庭の花を咲かせていた時

だった。

今回は二回目・・・魔法と言っても見たのは彼女のホウキだった。


部屋の窓から、なにげに外を覗いたら、たまたまだった。

アリスがホウキにまたがってるところを目撃、今からどこかへ行くんだろう。

僕はすぐに部屋を出て二階の階段を駆け下りた。

はやく行かなきゃアリスがどこかへ行っちゃう。


「アリス、待って」


「あ、春樹さん・・・」


「どこかへ行くの?」


「奥様の言付ことづけけでお知り合いにお届けものを・・・」


「ゴーグルなんかかけちゃって勇ましいね」


「空を飛ぶと鳥や虫にぶつかりますからね・・・嫌なんです」


「僕、アリスのホウキ初めて見たよ」


それは絵本で見るような葉脈ぼうきや竹ぼうきのようなオースドックスな

ホウキとは違っていた。


アリスのホウキは木材とかじゃなくて金属でできてるんだ。

人が座るためのサドルが前後に2個ついていてバイクのハンドルみたいな

モノもついてる。

しかもカタツムリの殻みたいなものがサドルの下にぶら下がっていてまるで

飛行機のタービンみたいだった。

そこから後ろにマフラーみたいな筒状のパイプが出ていて、たぶんそこが

噴射口になってるのかな?・・・僕の想像だけど。


「これがホウキ?」


「そうですよ、この子の名前はピアンタHV50って言うんです」


「え?普段乗らない時、このホウキはどうしてるの?」


「普段は小さくして私の首のペンダントにしてるんです」


「あ、なるほど・・・それも魔法?」


「そうですよ」


「で、これって高いの?値段」


「これはファミリー向けなのでスポーツ系のホウキと違って高くないですよ」


「魔女のホウキなんてどこで売ってるの?」


「私の田舎の農協なら耕運機と一緒にどこでも売ってます」

「よかったら今度、二人乗りして空を飛んでみます?」


「いやいや遠慮しとく」


「それじゃ〜ちょっと行ってきますね」


そう言うとアリスはピアンタHV50に乗って出かけて行った。

もはやあれはホウキとは呼べないだろ?

ホウキって言ってるだけで空飛ぶバイクじゃん。

って言うか、あんなのに乗れるくせに絶叫マシンが怖いっておかしいだろ?


つづく。







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