名作を笑えるように改変してみた

絶華望(たちばなのぞむ)

眠れぬ森のニート(眠れる森の美女)

 ある国に王女が誕生した。その誕生を祝うために王様は国に居る七人の魔女を招待する事にした。しかし、予算の都合で一番力はあるが金にがめつい強欲の魔女にだけは招待状を出さなかった。

 誕生日は盛大に祝われ、憤怒・嫉妬・怠惰・色欲・傲慢・暴食の魔女が呼ばれた。魔女たちは、それぞれ王女が幸せに成る為の祝福を与えていった。

「王女様、私は憤怒の魔女、あなたが一生怒りとは無縁の人生を送れるように祝福いたします」

「王女様、私は嫉妬の魔女、あなたが一生誰もが嫉妬するような人生を送れるように祝福いたします」

「王女様、私は怠惰の魔女、あなたが一生何もしなくても幸せになれる人生を送れるように祝福いたします」

「王女様、私は色欲の魔女、あなたが子宝に恵まれ幸せな人生を送れるように祝福いたします」

「王女様、私は傲慢の魔女、あなたが他人に誇れるような何かを得る事が出来るように祝福いたします」

 最後に暴食の魔女が祝福を与えようとした時、雷鳴が轟、強欲の魔女が現れた。

「よくも私をのけ者にしたわね。王女様、私は強欲の魔女、あなたは自分の欲のせいで金の針に刺されて15歳で永遠の眠りに落ちて死ぬ」

 強欲の魔女は呪いをかけて高笑いを上げて去っていった。


「ああ、何と言う事だ。我が姫が15歳で死んでしまうとは……」

 王様は予算をケチった事を後悔した。

「何被害者ぶってんのよ!だからあれほど言ったじゃない!姫の誕生祝なのよ!国家予算と同額を使うべきだって!本当に甲斐性無しね!」

 王妃は怒り、王様にビンタし、みぞおちに膝蹴りを喰らわせ、ローキックで跪かせ髪を掴み顔に唾を吐いた。

「ありがとうございます」

 王様は何故か王妃にお礼を述べた。ドMなのだろうか?こんな時にプレイしている場合ではないと思うが……。


「あの王妃様、呪いを解くことは出来ませんが、弱らせる事は可能です。私に任せてくれませんか?」

 荒れ狂う王妃を鎮める為に、暴食の魔女はビクビクしながら王妃に申し出た。

「あ?本当にやれるんだろうな?嘘だったら……。分かってるな?」

「はい!もちろん分かっています。大丈夫です。100%成功しますから、アハハハハハハ」

 暴食の魔女は精いっぱいの笑顔で答えた。

「よし、良いぞやってみろ」

 王妃の命令に従い、暴食の魔女は王女に祝福をかけた。それにしても王妃様はコワイ。小熊を守る母熊よりも狂暴かもしれない。


「おおお王女様、私は暴食の魔女、あなたはお腹がすくたびに眠りから覚めて美味しいご飯を食べれます。そして、100年後には運命の人が現れて目を覚ますでしょう」


 王妃の圧力が凄かったので最初はどもってしまったが、暴食の魔女は呪いを書き換える事に成功した。

「おい!約束が違うじゃねえか!これじゃあ、呪いが解ける頃には私たちは死んでるじゃねぇか!どうしてくれんだよ!」

 王妃は怒り心頭だった。呪いが弱まったとはいえ、15歳から空腹になると目覚める呪いになったのだ。まともな生活は送れない。ある意味ニートの誕生だ。しかも、100年も続くのだ。

 まともになるまでの間、弟や妹を設けたとしてもニートの姉を自分たちの死後、養ってくれるとは限らない。王妃は、娘を愛しているのだ。怖いけど……。


「ああああああ、あの心配には及びません。皆様は100年間不老不死になり眠るようにいたします。呪いが解けた暁には、王女様と幸せな生活が送れるよう手配いたしましたです」

 王妃の剣幕に気圧されながらも暴食の魔女は弁解した。最後に変な言い方になったのはしょうがない。だって、王妃様怖いんだもん。


「ふむ、悪くない条件ね。で?私の可愛い子がお腹を空かせて起きた時は誰が食事を用意するの?」

 暴食の魔女はハッとした表情を見せた。だが、暴食の魔女は一瞬で冷静を装った。時間にして1ミリ秒程度の失態だった。しかし、それを王妃は見逃さなかった。

「恐ろしく速い切り替えね。私でなければ見逃していたわね」

 王妃は勝ち誇ったように言った。

「これまでか……」

 暴食の魔女は自分が失敗したことを悟り膝から崩れ落ちた。悪いのは強欲の魔女なのに何で暴食の魔女対王妃になっちゃったんだろう?でも、本当に悪いのは稼ぎが悪い王様なんだけどねwww。


 しかし、暴食の魔女の窮地に立ちあがった魔女が居た。それは色欲の魔女だった。

「王妃様!我に策アリ!」

 色欲の魔女は大げさに名乗りを上げた。その姿は、戦争の軍議で必勝の策を披露する諸葛孔明のようでもあった。

「ふむ、良い面構えだ。お主の策、期待できそうだな。申してみよ」

 童話なのになんか戦争でも始まりそうな雰囲気になっているが、これは童話です。たぶん……。


「はっ。王妃様の……。すみません王女様の食事係、呪いをかけた本人にやらせるのがよろしいかと」

 色欲の魔女も王妃様が怖すぎて、王妃様の食事係とか言いそうになっているの草。

「可能なのか?」

「はい。私であれば」

 色欲の魔女の瞳が怪しく輝いていた。

「そうするつもりだ」

「私は色欲の魔女、強欲の魔女に呪いをかけるのです」

「ふむ、なるほど……。だが、王女の貞操は守られるのか?」

 王妃は色欲の魔女が何をしようとしているか理解した。そして、薄い本が出るような事態にならないか危惧したのだ。みんなは好きかな?


「……」

 色欲の魔女は黙ってしまった。

「おい!」

「え~~~~~~と、たぶん大丈夫だと思います。起きたら腹ペコだし、満腹になったらすぐに寝るので……。女同士だし、守れるんじゃないかな~と」

 色欲の魔女は目を泳がせながら答えた。王妃は頭を抱えて悩んだが結論は出した。

「分かった。それで行こう」


 こうして、眠れる森のニートは誕生は約束されてしまった。


 王女は15歳まではすくすく育ち美しい姫となっていた。そして、15歳の誕生日、強欲の魔女が持ち込んだ金の針で指をさし眠りについた。勝ち誇って強欲の魔女がプゲラとNDKをしに王様と王妃の前に現れた時、色欲の魔女は柱の陰でほくそ笑んでいた。

「大切な王女様の死が確定してどんな気持ち?ねぇどんな気持ち?」

 強欲の魔女がNDKをしている時に、色欲の魔女は柱から飛び出して強欲の魔女に呪いをかけた。

「萌え萌えキュン!王女様に恋しちゃえ」

「あばばばばばばばばば」

 強欲の魔女は王女様に恋する乙女となってしまった。

「ああ、なんて事、私は何てことを最愛の王女に死の呪いをかけるなんて……」

 恋の魔法の効果はバツグンだ。

「大丈夫よ。王女は死なないわ。お腹が空いたら起きてくるから、食事を用意するのよ?100年後には運命の王子様が来てあなたのかけた呪いが解けるから、それまで王女様のお世話をお願いね」

「え?」

 強欲の魔女が状況を理解する間もなく、王国中の人間が眠りについた。


「お腹減った。ごはん」

 王女は起きるといつも腹が減っていた。

「ああ、また起きた。後97,650回か……」

 100×365×3大体10万回食事を用意すれば姫は完全に目覚める。強欲の魔女の朝は早い。王女は決まった時間に必ず起きて「ごはん」と言う。

 強欲の魔女は恋の魔法で王女を見捨てることが出来ない。故に朝昼晩必ず食事を用意して待っていた。

「どうぞ王女様、今朝のご飯は、とれたてレタスのチーズハムサンドと焙煎コーヒー、スクランブルエッグとベーコンエッグです。春野菜のサラダはシーザードレッシングでお召し上がりください」

「スクランブルエッグ飽きた。シーザードレッシングも飽きた。違うのにして」

 王女様は我がままだった。だが、強欲の魔女は逆らえない。

「畏まりました。すぐに作り直します」

 王女は美食家で好みもころころと変わるのだ。強欲の魔女の苦労は計り知れない。

「ああ、なんで私がこんな目に!いっそ王女をこの手で……」

 強欲の魔女は王女に殺意を抱く事も有った。だが……。

「ごちそうさまでした。今日も美味しいご飯をありがとう」

 王女のこの一言で、強欲の魔女は王女を許してしまうのだ。チョロすぎだろ。

「いいえ!王女様にそう言って頂けるのが……」

「おやすみ」

 強欲の魔女がお礼を言い終わる前にニート王女は眠りにつく。


 それから100年の間、王女は起きては喰らい。喰らっては寝て、寝ては起きた。魔女は100年もの間、王女に食事を作り続けた。


 そして、最後の時が訪れた。

「これで、100年目、109500食達成~~~~~~!」

 この日、魔女は盛大に祝った。一人でクラッカーを用意し垂れ幕も作り、ケーキも用意した。

「何かのお祝い?」

 王女は何が起こっているのか理解していませんでした。

「そうです。お祝いです。もう私は料理をしなくて済む、今までお世話しました。さようなら」

 強欲の魔女の呪いも解けた。『もう恋なんてしない』と心に誓って、城から逃げた。


 その城に運命の王子様が入っていく。そして、王女を見つけてこう言った。

「ここには誰も居ない。運命の導きなんて無かった。いいね」

 そう言って帰ろうとした。それも無理はない。何故なら王女は300kgを超える巨体になっていたのだ。もはや布団なのか人間なのか判別が難しい状態だった。王子はなんとなく布団が人間かもしれないと思ったが、関わるとろくでもない事が起きると危険を直感で察知し逃げる事にした。

「おなかすいた。ごはん」

 王女がそう言うと、なぜか強欲の魔女が転送されてきた。

「え?なんで!?王女何で?アィエエエエエ」

  強欲の魔女はパニックに陥った。呪いは終わったはずだった。否!断じて否!呪いの終わりは王子様とのキスだったのだ。この時、強欲の魔女は魔法的な直感で全てを悟った。

「王女様、ここに素敵な王子様が居ますよ」

 強欲の魔女は、王子と王女をくっ付けようとした。だが!

「あ、私は急用を思い出したのでこれにて……」

 逃げようとする王子を魔女は羽交い絞めにした。

「そんな事をおっしゃらずに、一目だけでも見てください」

 魔女は必死だった。もう、料理などしたく無い。100年間、無報酬で奴隷のように料理だけ作り続けてきた。恋心が有った時は頑張れた。だが、今はもう違う!


「嫌です!放してください!」

 王子も必死だった。大きな布団の様な王女と知り合いになりたくなかった。彼の好みはスレンダーな女性だった。だが魔女も必死だ。呪いが解けなければずっと奴隷のままだ。王子と魔女、互いの幸せをかけた戦いの結末は……。


 魔女の勝利で終わった。


 王女に王子を見せて魔女は言った。

「王女様、王子様です。気に入りましたか?」

 魔女は勝利を確信していた。これで、王女が王子を気に入りキスさせさせれば呪いが解ける。王子の気持ちなどどうでもいい。呪いを解くトリガーが王子のキスなのだ。無理やりにでもさせれば良いのだ。だが!天は魔女に試練を与えた。

「ごはん」

 王女は腹ペコで花より団子状態だったのだ。

「そうですか、ご飯ですね。ちょっと待っててくださいね」

 ゴキゴキ、バキン。王子の体中の骨が折れた。

「逃げれないと思うけど、逃げたら殺す。分かったな?」

 強欲の魔女は、自分の幸せの為に王子の手足の骨を折り、脅迫した。王子は恐怖と激痛により心が折れた。

「はい……」

 そういうのが精いっぱいだった。


 魔女は嫌々ながらも料理を作り、王女を満足させた。

「ごちそうさまでした。今日も美味しいご飯をありがとう」

 そう言われて魔女の胸の中で小さな喜びが芽吹いた。恋の魔法は解けていた。なのに、ありがとうと言われただけで魔女は幸せを感じてしまった。魔女は自覚したのだ。自分は誰かに感謝されたかったのだと……。


 一方、骨を砕かれた王子に心にも変化が有った。自分の好みはスレンダーな女性だと思っていた。だが、ご飯を美味しそうに幸せそうに食べる王女を見て、ごちそうさまと満面の笑顔でお礼を言う王女を見て、王子は王女の心の清らかさを知った。

 外見を気にしていた自分が間違っていた事に気が付いたのだ。見た目は年と共に劣化していく、でも美味しそうにご飯を食べありがとうと感謝できる心根は一生変わる事が無いと思えたのだ。


 この純真無垢な王女と一緒にご飯を食べたいと思った。奇跡が起きようとしていた。


「王女様、私は隣国の王子です。どうか私と結婚してくれませんか?」

「え?いきなり結婚の申し出何てありえないんだけど……」

 王女はドン引きしていた。王女は確かに純真無垢だ。だが、あの王妃の娘なのだ。自分の身は自分で守るし自分の伴侶は自分が決める。出会ったばかりの顔が良いだけの男を信用する事は無かった。


「申し訳ありません。あなたの美しさに気が動転してしまいました。まずは文通から始めさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

「え?あ、はい。それなら……」

「そんなに待てるか~~~~~~!さっさとキスしやがれ!」

 魔女は王子をぶん投げて、王女とキスさせましたとさ。


 国にかかった魔法は解けて、王女と王子は文通から始めましたとさ、めでたし?めでたし?


===後日談===


 立派なニートになってしまった王女を見て王妃は激怒し、七人の魔女に責任を取らせました。結果、王女は美しい姿に戻り、王子との交際も順調に進み、結婚も決まりました。

 王子は王女の見た目に惚れたのではなく心に惚れたので浮気することなく二人は生涯仲睦まじく暮らしましたとさ。ちなみに晩年の王女はリバウンドし布団体形に戻っていたけど、王子様は気にしなかったとさ。


 今度こそめでたしめでたし。

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