第35話「晩餐会」
俺達はお城の中心部から下へ少し離れた所にある建物に着いた。
聞けばここが向こうで言う一般参賀の場所であり、来賓を迎える場所でもあるようだった。
五階建てくらいだろう高さのバルコニーに上って陛下に紹介された後、来ていた人達に向けて手を振った。
なんか不相応だわ。
しかしよく考えたら俺達が、勇者が来ているのだけはとっくに知れ渡ってたが、今回の件も包み隠さず話したせいか、物凄い大歓声だった。
皆緊張してるのが分かるが、母さんだけはめちゃくちゃ陽気に手を振ってた。
ほんとこの母は……父さん、ほんと苦労してたんだろなあ。
そして大広間に通され、晩餐会みたいなのが始まった。
堅苦しいのかと思ったら全然で、なんというか前の会社での宴会を思い出すわ。
それはともかく……。
「おお、隼人様は強いですなあ」
「ささ、こちらも。うちの地酒です」
隼人は重臣達に酒を勧められていた。
あとユウトも勇者なので、皆名前で呼ぶようにと陛下が命じていた。
隼人は様付けも嫌がったがそれは諦めろと言われた。
(いや、流石に腹がいっぱいになってきた)
「そっか、隼人はもう大人でお酒飲めるのね」
七海は少し離れた席でワインを飲みながら隼人を見ていた。
彼女は勇者の母親で、行方不明になっていたのがここで見つかったとだけ紹介されていた。
「あんの、大丈夫だべか?」
キクコは七海と友里と一緒にいた。
「大丈夫よー。それよりキクコちゃんは飲まないの?」
「あたすはまだ十七歳だべ。こっちじゃお酒は十八歳からだべさ」
キクコが手を振って言った。
「あらそうだったの。じゃあ女子高生に手を出したのね隼人は、ううう」
隼人はまだ二十二歳だから……どうなんだ?
「そういえばキクコさんのお誕生日っていつですか?」
友里が尋ねた。
「んにゃ? 十一月二十六日だべさ」
「え? それってたしか向こうに着いた日じゃないですか?」
「そうだべ。誕生日に大事を成すのは縁起がいいから、上手い具合にその日に扉が開いてよかったべさ」
「それも何かの導きかもですね」
一方、また少し離れた場所では。
「ユウトが勇者だったとはなあ。我ら戦士団の誇りだよ」
戦士団長がユウトを労っていた。
「いやそんな、団長が鍛えてくれたおかげです」
そう言って謙遜するユウトだった。
「そうか、それはそうと女の子達が話したいと言ってるぞ」
「はい?」
戦士団長が指した先にはユウトと同年代か少し上の女性がたくさんいた。
「ユウト様、お疲れ様でした」
「さ、どうぞどうぞ」
女性達は我先にとユウトに食べ物や飲み物を勧め、労いの言葉をかけた。
「え? いやー、こんなの初めてだよー」
ユウトは心底嬉しそうにしていた。
「あんら、えらくモテてんべ」
「ふふふ、そういえば隼人さんには女性が近づきませんね?」
友里がふと思って言うと、
「近づいたらそれはそれで嫌だけんど、いねえのも変だべなあ?」
キクコは首を傾げた。
「だって隼人様にはキクコがいるって聞いてるもん」
「そうよ。あの子怒ったら物凄い殺気放つし……だったらフリーのユウト様を狙った方がいいわよ」
女性達がそんな事を話していた。
また少し離れた場所にあるテーブルでは、ジョウとヘルプスが一緒にいた。
「あの、えと……」
ヘルプスがもじもじしていると、
「ん? ああ、気にしないでくれたまえ。僕も正直気の利いた話が得意ではないし」
ジョウがそう言ってグラスに口をつけた。
「分かった。じゃ、これについてどう思う?」
ヘルプスがどこからか出した紙をテーブルに広げた。
「ん? おお、これは飛行機の設計図かね?」
ジョウが目を見開いた。
「そう。皆がわたしのように飛べるようにと考えた」
「素晴らしいな。うん、見た所これでも飛べるが……ここをこうすればもっと」
「あ、そうか。やっぱ頭いい」
「そうかね。ははは」
「あっちはいい感じだべ」
「そうですね。こんな事言ってはですけど、共存への第一歩にもなりますよね」
キクコと友里が笑みを浮かべて言い、
「ほんとよかったな」
「ああ。ヘルプスは我らにとって妹みたいなもの。彼なら文句はないが少し寂しいな」
「そうだね」
ガーゴロン、ノミール、デンキオウがそれぞれ言った。
上座の中央にあるテーブルでは、陛下と大魔王が酒を酌み交わして談笑していた。
「ほうほう、そんな呪法もあるのですか」
「そうだ。この通信術で異世界の情報も手に入れていたのだ」
「それ、儂にも出来ぬかなあ。今は向こう側に受け手がおらんとできんし」
ボルスも同席していて、そんな事を言った。
「今度お教えしよう。しかし先々代大魔王を、我が祖父を倒したのがあなたと先代勇者だったとはな」
大魔王が苦笑いしながら言った。
「すまなかった。大魔王軍が攻めてくるとの情報があったので、先手を……」
ボルスは気まずそうに頭を下げ、
「大魔王殿。師と先代勇者に命じたのは我が祖父です。私からもお詫び申し上げます」
陛下も頭を下げた。
「いや、祖父は実際に攻め込もうとしていたのだ。父や余も、重臣も反対したのだが止められなかった……こちらこそ申し訳ない」
大魔王も頭を下げ、
「さて、お互い謝ったのだしこれからは手を取りあおう」
「ええ。さ、一杯」
三人でまた酒を飲み始めた。
「お師匠様、やっぱすげえべさ」
「そうですね。あ、そういえば先代勇者一行はボルス様とマヤ様だけなのですか?」
友里が気になったようで尋ねた。
「あと二人いたとは聞いてるけんど、誰なんか知らねえべ」
「先代勇者は亡くなったと聞いたが、他の二人はどうしているのだ?」
大魔王が丁度よく尋ねた。
「五年前、陛下の戴冠式の後で相次いで逝ってしもうた」
ボルスが目を閉じて言った。
「そうだったのか……たしか女戦士と神官だったと聞いたが」
「そいつらは後に夫婦になったよ。そして孫の一人が今の皇后様だよ」
「え? そ、そうだったべか?」
「キクコさんも聞いてないって、なぜでしょう?」
「いえ、単に言いそびれてただけよ」
そう言ったのはその皇后だった。
「あ、改めてお久しぶりだべ」
キクコが立ち上がって挨拶し、遅れて友里も。
「もう、今は無礼講だから堅苦しい挨拶はいいわよ。それはそうとあなたが聖女だったなんて」
皇后がころころ笑いながら言う。
「んにゃ、こっちの友里さんもだべさ」
キクコが友里を指して言う。
「知ってるわ。友里さん、お疲れ様でした」
「は、はいありがとうございます」
友里は少々ぎこちなく頭を下げた。
「固くならないで。そうだ、向こうの世界の話を聞かせてくれませんか?」
「え、ええ」
その後、女性達は楽しく話して過ごした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます