第33話「あの場所で」

 あ、そうか。あっちの母さんは多分知ってただろから……。


「え、何?」

 母さんが顔を上げた。


「うん。あのさ、父さんが残した手紙に書いてたんだけど『もし会えたらあの場所に行ってくれ』って。それどこか分かる?」

「あの場所? ……あ、あそこね」

 母さんは額を押さえた後、手を叩いた。


「うん。もしかするとそこに何かあるのかもだよ。それでどこ?」

「えっとね」


「その前にすまんが、そろそろ彼らは帰る頃なんで話してやってくれ」

 信康様が声をかけてきた。


「え、あ」

 上空の黒いものはもう無くなっていて、戦闘機や戦艦、兵隊さん達だけが浮かんでいた。

 そして……。


「隼人君、ようやったなあ」

「友里さんもな。それとキクコちゃんやユウト君も。ほんと与吾郎はいいひ孫に恵まれたな」

 与吾郎おじいさん、蘇我さん……。

「いえ、皆さんの手助けのおかげですよ」

「そうかそうか。そう言ってもらえて嬉しいぞ」


「うちらもいいひ孫に恵まれましたな」

「ええ。けどうちの孫がえらい事して」

 与吾郎おじいさんの後ろから出てきたのは、


「え? あ……大阪のひいじいちゃんに、もしかして風森の?」

 二人共若い頃の写真そのまま。


「そうだよ。大きくなったなあ」

「俺ははじめましてだな。しかしいいですな諸星さんは、隼人を抱っこできてたんだから」

 ひいじいちゃん達が笑いながら言った。


「ははは、って二人共兵隊さんになってないだろ、なんでその恰好なんだよ」

 大阪のひいじいちゃんは当時病気で、風森のひいじいちゃんは徴兵される歳じゃなかったから。


「いいじゃねえか。俺だって好き好んで戦争したかねえが、皆と共にありたかったんだよ」

 大阪のひいじいちゃんが空を、たぶん友達を見上げて言い、

「孫やひ孫の危機だからな、義兄さんに連れてきてもらったんだ」

 風森のひいじいちゃんが頭を掻きながら言った。


「お祖父ちゃん、ごめんね。私あれなことばかりで」

 母さんが風森のひいじいちゃんに謝っていた。

 自覚はあるんだよな、この母は。


「いいって。さて、もっと話してたいけどそろそろ時間なもんでな……」

「うん、いつか私がそっち行った時にいっぱい話そうね」

「ああ」



「隼人。たか子を、ひいばあを頼んだぞ」

 ひいじいちゃんが俺の肩に手を置いて言った。

「うん。けどそれ大叔父さん達にも言ってやれ」

「ああ、お盆に夢枕で言ってやるわ」



「友里さん、ほんと世話になったな。ワシは子供おらんかったんで、友里さんが孫みてえに思えてたよ」

 蘇我さんが友里さんの手を取って話していて、

「……はい」

 友里さんは涙ぐんでいた。

「んじゃ、悔い残すなよ」



「ひいじっちゃ……」

「ひいじいちゃん、おれ勇者なんだぜ。キクコは聖女だし凄いだろ」

「お祖父ちゃん、僕、発明頑張るから」

 キクコちゃんが、ユウト君が、ジョウさんが泣きながら与吾郎おじいさんと話していた。


「ああ、ああ……じゃあ皆、達者でな」


 そして皆さんが光り輝きだし、空へ登っていった……。




「……」

 俺も、キクコちゃんもユウト君も友里さんもジョウさんも。

 母さんも、所長達も、大魔王さん達も英霊の皆さんに敬礼していた。



「ん、さて続きだけど母さん、あの場所って」

「それはね……」




 

「ここだったんだ」

「そうよ。隼人が二歳の時に三人で来たのが最後だったかな」

 キクコちゃんの魔法で着いた場所は、あの軍神宿がある町。

 そして風森家の、桐山家の墓がある場所。


「以前まで来た事なかったって思ってたけど、二歳じゃ覚えてないわ」

「そうだったのね。次郎君は話すらしなかったんだ」 

「辛かったんだと思うよ」

「そっか……」



「ここにひいおじいさんのお墓があるんですね」

 辺りを見て言う友里さん。

「んだ。やっと帰せたべ」

 キクコちゃんが笑みを浮かべて頷き、

「おれ達もご先祖様に挨拶できるな」

「そうだな。来れるなんて思わなかったよ」

 ユウト君とジョウさんも嬉しそうにしていた。


「へえ、やっぱあっちと同じだね」

「そうねえ」

 所長と伊代さんがそう言って……あれ?


「あの、そちらにも同じ場所あるんですか?」

 

「うん。僕達のとことここはほぼ同じなんだよ」

 所長がそう言い、

「けどあっちも魔法はないわね。妖怪や宇宙人は普通に道歩いているけど」

 伊代さんはなんかとんでもない事を言った。


「……あ、前に言ってたご先祖様ってもしかして、信康様?」


「違うよ。信康様が倒した敵が数十年後に蘇ってきてね、そいつ倒して世界を救った方なんだ」

「信康様の子孫や一祐さん、他の仲間と一緒にって聞いたわね」


「え、そうだったのですか?」

 俺は皆さんの方を向いた。


「うん。それとその後でもまた大敵と戦ってね、その時にはキヌや鈴さんもいたんだよ」

 わんどりーむさん、いや一祐さんが言い、

「ああ、そうだったな」

「もう遠い昔の話じゃな」

 鈴さんとキヌさんが頷いた。


「そうだったんですね。って今気づいたけど皆さん服装が普通に」

「君達もね、あんな格好じゃ何事だと思われるよ」


「神器が計らったんじゃよ」

” ええ、そのくらいならすぐできますから ”

 そうなんだ。

 アギ様達は浴衣姿で、髪型も普通にしていた。

 あの髪型じゃ目立つもんなあ。


「まあ、余達は変化術もできるから容易いがな」

 大魔王達も人間の姿になっていた。


「おや、もしかして君がヘルプスさんかね?」

 ジョウさんが赤い髪の小柄な女性に話しかけていた。

「そう。ううう、変化でもこんなもん」

 俯きがちになって言うが、結構可愛いよ。


「いやいや。できれば助手になってほしいくらいだよ」

「うん。なる」

 ヘルプスは即答しやがった。

「い、いやいいの? 大魔王四天王だろ君は」

 あら、狼狽えてるわ。


「構わんぞ。しかしなんか娘を嫁にやる気分だな」

 大魔王さんが頷いて言った。

「わたし、大魔王様をお父さんと思ってた。親亡くしたわたしを育ててくれたし」

「そ、そうか。うううう」

 ほんとにいい人、いいお父さんだった。


「うーん、では頼むよ」

「うん」


「あんらよかったべ。兄さには嫁来ねえかと思ってただ」

「けどあの姿ってずっとじゃないんでしょ?」

 キクコちゃんと友里さんが言うと、


” よければ私達でなんとかするわ ”

” いつでもどっちの姿にでもなれるようにすればいいかな ”

” まあ、希望を聞いてからにしようや ”




「ここよ。この場所」

 それは慰霊碑がある場所から近い神社だった。


「えっとね、もしどちらかが先に死んじゃったら、ここにって約束してたの」

「なんで?」

「ここはね、次郎君がプロポーズしてくれた場所なのよ。お祖母ちゃんに会った後、お祖父ちゃんのお墓参りしに来て、そこで改めてね」

 そうだったんだ。


「次郎君……もう一度会いたかったよう」

 母さんが目を潤ませて呟いた時だった。


 ああ、俺も会いたかったよ。


「え?」

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