第30話「大爆発」

 英霊の皆さんが妖魔達を打ち倒していく。

 国も何も関係なく協力して、時に互いを庇い。

 

 あのように、実際に皆が手を取り合えれば……。

 いや、それは今を生きる俺達がだよな。




「さてと、勇者達が来るまで頑張るとするか」

 三郎お爺さんが身構えた。

「その前に、はどうですか?」

 所長が三郎お爺さんの傍に降りて言った。

「あ、そうだったの。では」

 お爺さんの体が光り輝き出した。




「え、ええええ!?」

「なんだべー!?」

「も、もうどう言えばいいかだよ」

 友里さんが、キクコちゃんが、ジョウさんが声をあげ、


「な、なあ、あの人も救世主なの?」

 ユウト君がおそるおそるアギ様達に尋ねた。


「……まさかあの御方まで呼んでいたのか、向こうの守護者は?」

「いや、かの者の縁を思えば呼べるだろうが、それでも遠慮しろだ」

「そう言ってられなかったのじゃろ」

 よほど意外だったのか、御三方は震えながら言った。


 ってこの人達が震える相手って、まさか……?



「久しぶりだな、この姿に戻るのは」

 そこにいたのは日本刀を持った、若くて戦国武将っぽい鎧武者だった。 


「あ、あんたなんかどっかで見た事あるような?」

 八岐大蛇が声を発した。

 てか今頃気づいたけど、母さんの声そのままだ……。


「老人の時に会ってるだろうが。まあいい、我が名は岡崎三郎おかざきさぶろう……いや世間ではこっちの方が知られているかな? 松平信康まつだいらのぶやすだ」




「えええ!? さ、三郎お爺さんって信康様だったの!?」

 友里さんが声を上げるが、

「えっと……?」

 誰だろ、分からん。

「隼人さん、信康様くらいは知ってなきゃダメ! 徳川家康とくがわいえやす公の長男ですよ! 何年か前の大○ドラマでも出てたでしょ!」

 分かったから顔が近いってば!



「ほう、あの御方が信康様なのか」

「え、大魔王さんは知ってるべか?」

 キクコちゃんが大魔王さんに聞くと、

「ああ。伝え聞く所では今から数百年程前、全ての世界を破滅に導こうとした大妖魔を討った方だそうで、先の四人やお主達から見れば先達の救世主だな」

「ひえええっ!?」

 キクコちゃんが盛大に声を上げ、


「な、なんと?」

「そんな物凄い人なの?」

 ジョウさんとユウト君が身震いし、


「……え、そうなんですか?」

「え、え? そんな話は歴史ファンタジーくらいでしかありませんよ、え?」

 俺もだが友里さんも流石に困惑していた。




「なんか向こうが混乱してる気もするので、さっさと始めようか」

 お爺さん、いや信康様は腰に差していた刀を上段に構え、

「聖流招来……」




「え? 光る水が流れるように集まってる?」

「いや、あれは水ではない。時の大河だ」

 大魔王さんが映像を見ながら言った。

「え? なんですかそれ?」

「よく言うだろ、時代の流れとか。あれはそれが具現化したものだ……いや、実際に見れる日が来るとは思わなかったぞ」

 大魔王さんは感激のあまりか目を潤ませていた。

 

「……そんなのが集まってるって、やっぱあの人」




「いくぞ、琉世偃武!」

 信康様が刀を袈裟斬りの要領で振り下ろすと、光が流星のように流れていき、


「え、キャアアアアー!」


 八岐大蛇に命中した。

 どうやら大打撃を与えたようだ。



「うわ、聞きしに勝るとはこのことだよ」

「見とれてる場合かい、あたし達もやるよ」


 所長達も八岐大蛇に向けて技を放ちだした。


――――――


「おお、伝説の技まで実際に見れるとは……」

 大魔王さんが滝のように涙を流していた。

「あ、そういえば古文書で読んだことがある。信康様とは書かれていなかったが、時の大河の力を使う伝説の英雄が使いし平和への祈りを込めた技が」

 ジョウさんが手を叩いて言うと、

「そうだ。武具を収め澄んだ世を作ろうという意味があるともな」

 そんな技があったんだ。

 平和への……っと、


「……あの、俺達って必要?」

 さっきは自分達でと思ったけど、あんなの見た日には……。

 

「そんな事言っちゃダメだよ。最後はおれ達だよ」

 ユウト君が言い、

「んだ。そんでアギ様、まだだべか?」

 キクコちゃんが尋ねると、


「道はなんとかなりそうだが、今はどう頑張っても四人しか送れん」

「じゃあ、私達四人でですね」

 友里さんがそう言った。


 ……ん、うだうだ悩んでも仕方ない。

「そうですね。俺達でやりましょう」



「うむ。では我らはこちらの襲撃に備えておこう」

 大魔王さんが涙を拭って言い、

「お母さんはぼく達が保護するから安心して」

 デンキオウがそう言ってくれて、

「あの、乗るのはいいけど翼持たないで。結構痛いの」

「あ、ごめんね」

 母さんはヘルプスに乗ろうとしていたって、何しとんじゃ!



「よし、では儂らの前に立ってくれ」

「はい!」

 俺達はアギ様達の傍に寄った。


「そうだ。ユウト、これを持って行ってくれ」

 ジョウさんが懐から野球ボールくらいの黒い球を取り出し、ユウト君に渡した。


「ジョウ兄、これ何だよ?」

「さっき言った秘密兵器だ。着いたら早速あいつに投げつけたまえ」

「ん? まさか爆弾?」

「ふふふ、どうかな? さ、早く並びたまえ」

「あ、うん」


 そして、俺達が横一列に並ぶと、


「では、行くぞい!」

「うおっ!?」

 凄まじい重力がかかったかと思ったら、




「あ、戻って来たね」

 目の前に所長がいた……。

 あっという間にだったな。


「改めて久しぶりね、キクコちゃんと友里さん」

「は、はいだべさ」

「えっと、お久しぶり、です」

 キクコちゃんも友里さんも伊代さんに声をかけられたものの、戸惑っていた。


「えっと、それよりあいつをですね」

「うん。僕達が抑え込むから、四人の合体技で倒してね」

 所長が言うと、


「その前にこれ投げさせて」

 ユウト君がさっきの黒い球を右手に持ち、投球の構えをとった。


「……え? ちょ、待って」

 あれ、所長が冷や汗をかいて止めようとしている?


「えーい!」

「うわああ! 皆さん下がってー!」

 所長が信康様達に向かって叫んだ。



「ん? 痛っ」

 ユウト君が投げた球が八岐大蛇の頭に当たり、


 チュドオオオーン!


 まるで隕石でも落ちたかのような大爆発が起こった、ってえええええ⁉

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