第23話「誤解」

「余は合体超魔獣・エビルゴースドンだ!」


 大怪獣となった大魔王だった。


「う、うわ、さっきまでの何倍もの気を放ってる!」

「あんなのありだべかー!」

 ユウト君とキクコちゃんが声を荒げ、


「おのれRPGのお約束しやがって……」

「どちらかと言うと特撮じゃ?」

 俺の呟きに友里さんがツッコミ入れた。


「さあ、死ねえ!」

 六本の腕から電撃と爆撃が同時に放たれたが、


「うわあああ!」

 なんとか避けきれた。


「ふ、ふう。魔法間に合ってよかった」

 友里さんが胸を撫でおろした。


「ありがとうございます。しかしどうやって戦うか」


「そりゃあ!」

 今度は三つの拳を叩きつけてきた。

 それもなんとかかわしたのだが、


「じ、地面が割れたべさ」

 そう、さっきまで俺達がいた場所には大きな亀裂が……。 


「あ、あんなのに勝てるの?」

「わ、分かんねえべさ」

 友里さんとキクコちゃんが震えながら言った。


「そうだ、さっきの技を……うわっ!」

 雨霰のように小さな火の玉が降ってきた。


「させると思うのか?」

 大魔王がこっちを睨んで言う。



「……そうだ、皆おれの傍に集まって」

 ユウト君の言う通りにすると、小声で考えを話し出した。


「え、うん分かった」

 それならもしかするとだ。


「それ、私にもできるんですか?」

「本来二人でやるもんだし、友里さんとならできるべ」


「じゃあ隼人さん、死ぬ気で行くよ」

「ああ」

 俺とユウト君は左右に分かれ、

「うりゃああ!」


「ほう、同時攻撃で攪乱か、だが」

 大魔王がまた炎を放ってきた。


「うわっ!」

「よっと!」


 俺達はそれらをかわし、大魔王に技をぶつけていった。


「何を狙っているのか知らぬが、させるか……ん?」


「撃てえ!」

 城壁から矢が、魔法が雨霰のように飛んできた。


「あ、町の人達が気付いたんだ」

 ユウト君が町の方を見て言った。

 これならもう少し時間稼ぎができるな。


 だが、

「ぐ、ぬ、鬱陶しいわ! はあっ!」

 大魔王の目から光線が放たれ、城壁の一部が吹っ飛んだ。


「ああっ!?」

「皆さん、大丈夫ですか!?」

 俺達が町の方へ向かって言うと、


「怪我人は出てしもうたが死人はおらん、こっちは儂らに任せておけ!」

 アギ様の声が聞こえてきた。


「よかった……よし、もうひと踏ん張り行こう」

「うん!」

 俺達が身構えた時。


「待ちたまえ、ここは僕に任せなさい」


「え? あっ?」

「ジョウ兄、なんでここに?」

 いつの間にか帰ったはずのジョウさんがいた。 


「いや、開発していたものが間に合ったのでな。おそらくここに寄るだろと思って村長さんに頼んで送ってもらったんだよ」

 目にクマができてるから、もしかすると徹夜したのかも。

「さあて、大魔王相手にこれを撃てるなんてオラワクワクすっぞ」

 そこにあったのは車輪がついた大砲だった。

 ところでその台詞、こっちにもあったの?

 それとも漫画読んだ?


「超魔粒子砲・発射!」


 轟音を立てて砲弾が大魔王に命中し、


「グオオオオオ!?」


 大魔王はボロボロになっていた。


「う、うわ……」

 俺達は声を出せずにいた。


「どうだね! ……あ、日射病が」

 ジョウさんはその場に倒れた。


「ちょ、大丈夫ですか!?」

「たぶん寝不足もあったんだろな……あの、誰かこの人連れてって!」

 ジョウさんは駆けつけてくれた町の人達に運ばれていった。


「よっし、そろそろいけるべ」

「ええ。いきましょう」

 キクコちゃんと友里さんが並んで同じ呪文を唱え始めた。


「ぐぬぬ、おのれ……ぬ?」

 大魔王が二人の変化に気づいた時。

 

「極大聖光呪文!」

 二人が両手をかざすと、大きく輝く光の玉が現れて大魔王目掛けて飛んでいった。


「な、な……うぎゃああー!」

 大魔王はそれをかわせずまともに食らい、そして崩れ落ちた。



「や、やった?」

「やったみたい」


「やったべー!」

「ええー!」

 キクコちゃんと友里さんが抱き合って喜んでいた。




「ふう、なんとかなったようじゃな」

「この御仁のおかげでもあるな」

 アギとインダムが近くに寝かされているジョウを見て言い、

「どれ、礼のついでに日射病に強くしておいてやるか」

 ミクラが手をかざし、聞き取れない呪文を唱え始めた。



 なあ、兄貴。

 言わなくても分かってるよ。うん、あいつはたしかに強いけどさ。

 ああ、勇者と聖女が二組も必要なほどじゃねえよな?

 それに姉さんを捕まえられるほどじゃない……だとしたら。

 俺も最初はあいつだと思ったが、もしかして。

 別にいるって事だよ、敵が。




「あれ、皆、あすこ」

「え、あ?」

 そこには大魔王と四天王が倒れていた。

 だが皆虫の息だ。


「どうする? とどめ刺しとく?」

 ユウト君が剣を構えて言うが、


「いや、ちょっと待って」

 俺は大魔王達の側に行った。


「え、あの?」

「黙って見てるだ」

「ええ」




「う、うう。皆、生きている、か?」

 うつ伏せに倒れている大魔王が四天王を呼んでいた。


「あの、大丈夫?」

 俺は大魔王の傍に屈んで声をかけた。

「な、なんだ? さっさととどめを刺せ。だが」

 大魔王はうつ伏せのまま言う。

「それより鏡がお城のどこにあるか教えてくれますか?」

「……何の事だ?」

 大魔王が顔をあげた。


「三種の神器の一つで、あなたが捕まえたって聞いたんですけど」

「なんだと? 余はお前らが全部持っていると聞いたが?」

 本当に意外そうな顔をしていた。


「え? 誰にですか?」

「密偵の魔族からだ。そやつから神器を使って我ら魔族や魔物を滅ぼすという情報を得たので、それで……」

「俺達を倒そうと?」

「そうだ。だがこの通り敗れた……。なあ勇者よ、我が首と引き換えに皆は助けてくれんか?」

 大魔王が目を潤ませて懇願してきた。 


「いや、滅ぼす気はないですよ。こっちは鏡さえ返してくれればそれでよかったんですが、ほんとに知らない?」

「知らぬ……どうやら誤報だったようだな、お前が嘘を言ってるようにも思えん」

「いやそいつが別の敵の手先で、大魔王さん達を差し向けて俺達を潰そうとしたのか、双方共倒れを狙ったか」

「ぐ、そうかもしれぬ……そういえばあの密偵、見ぬ顔だった」

 大魔王は歯ぎしりして言った。


「友里さん、大魔王さんと四天王さん達に回復魔法かけてあげて」

「あ、はい」




「すまぬな、誤解していたとはいえ町の者を傷つけてしまった」

 回復した大魔王が頭を下げて言った。

「いえ死者が出てないようですし、ここには補佐役神様がいるから皆無事ですよ。それよりこっちもごめんなさい」

 俺も頭を下げてから言うと、


「……ああ。ところで勇者よ、なぜ余に話しかけたのだ?」

「え、いやあなたって礼儀正しいし部下思いだから、ひょっとしたら話せば分かるんじゃって」

 あとお人好し過ぎだ。見かけない密偵の言う事信じるなよ。


「ふふ、そうか。……人間の王がお前のような者なら話し合えたのに」

 大魔王が少し笑みを浮かべて言う。

「いや、今の陛下は聞いた感じ魔物すらむやみに殺さないですよ」

 

「うん。向こうから仕掛けてこない限りは討つなと命じられてるよ」

「可能なら大魔王さんと話し合いたいって言ってたべ」

 ユウト君とキクコちゃんが補足してくれた。


「そうなのか? ……すまぬが、事が終わったら取り次いでもらえぬか?」

 大魔王が二人の方を向いて言った。


「分かったべ。けんどその前に」

「ああ、もしかするとお城が乗っ取られてるかもだよ。真の敵に」




「ええそうよ。ふふふ……」


 な、なにこの人?

 私を捕らえるどころか、力を封じるだなんて?

 そんな事ができたのはかつてのあの一族だけ……。

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