第2話「探し物とは」

 中に入るとそこには古びた本棚があり、やはり古びた机には巻物みたいなものや何かの薬品みたいなものが置かれていた。

 奥に大きな壺もあって、なんというか魔法使いの部屋って感じだわ。


「ここは儂の研究所なのだよ。さてキクコ、椅子を出してくれ」

「はいだべさ」

 キクコちゃんが部屋の隅にあった木の丸椅子を三つ持ってきた。

 そしてボルス様が俺の向かいに、キクコちゃんは隣に座った。


「さて、もう異なる世界に来ているのは理解してくれているようなので、なぜ来れたかを話そうか」

 ボルス様が話し出した。


「あ、はい。異世界への扉は八十年に一度しか開かないって聞いてましたが」

「あの扉に関してはそうなのだが、実は他にも移動手段があって、それが先頃見つかったのだよ」

「さっきキクコちゃんが言ってた召喚術、ですか?」

「そうだがあれは誰でも呼べるわけではない。術者と深き縁を持つ者でないと呼べぬのだ」

「深き縁? あ、そうか。俺はキクコちゃんと会ってたから」


「会っただけで縁が深くなるか。深き愛か友情などで繋がるくらいでないと駄目だ」

 ボルス様が腕を組んで言うが、


「……え、いやたしかに愛してますけど」

 深いと言えるのか?

「ん? 隼人殿はキクコと契りを交わしたと聞いたが?」

 ボルス様が首を傾げる、って。


「告白はしましたがそれだけです」

「なんだと? 共に風呂や床に入ったとも聞いているが?」

「それ以上なんもしてません!」

 もししたら与吾郎おじいさんに撃たれてたわ!


「なんと。こんなヘタレが勇者とは」

 ええ、ヘタレですよ。


「お師匠様、隼人さんは真面目過ぎなんだべ」

 キクコちゃんは笑みを浮かべているが、目が笑ってなかった。

「ぐっ、在りし日のヨゴロウ殿のような気を放ちおって……っとすまぬ、話が逸れてしまった。隼人殿に来てもらったのはな、あるものを探してほしくてなのだ」

 ボルス様が怯みながら言った。


「え、あるものって?」

「剣・勾玉・鏡。皇室に伝わる三種の神器だ」

 ボルス様が指を立てながら言った。


「……ほんと日本と共通点多いですね。って探してって盗まれたのですか?」

「分からん、突然消えたのだ」

「え?」


「正月の折、陛下が祈りを捧げようと神器を奉納してある祭壇に入ったら、既に無かったそうだ。かの祭壇は人間の術者や魔物、いや精霊でも許可なく侵入するのは不可能。そこで陛下は神に祈って聞いたのだが……見えないと言われたそうだ」

 ボルス様が頭を振って言う。


「え? な、なんですかそれは?」

「分からんが、神々にも見えぬ悪しき者となると、大魔王か魔界神くらいだろう」

 マジ……?

 もし本当にそれだったとしたら……。


「その後陛下は神器が消えたことは言わずに儀式を済ませ、儂を内密に呼んで捜索を命じられたのだ」

「けど見つからなかったんですね」

「そうだ。探知呪文でも見えなかった。そこで勇者ならばとなった」

「そうでしたか。けどこっちに……いたらわざわざ俺を呼びませんよね」

「十年前に亡くなったよ。儂と同い年だった」


「お師匠様、勇者様とは親友だったって言ってたべな」

 キクコちゃんが言うが、そうだったんだ。


「ああ。あいつとは長い付き合いだったよ。共にヨゴロウ殿の教えを受けたおかげで人々に認められる勇者と魔法使いになれた」


 与吾郎おじいさんってやっぱ凄い人だな。

 勇者をも教え導いてただなんて。



「さて、陛下に勇者召喚に成功したと報告するので、一緒に来てくれるか?」

 ボルス様が尋ねてきた。

「あ、はい。ですけど俺、自分が勇者かどうか分からないんですが」

「そうでなかったとしても助けてはもらえぬか?」

「……はい。どれほどの事ができるか分かりませんが」


 最悪の場合、キクコちゃんだけは逃がすつもりでやらないとな。


「うむ。では早速行こう」


 外に出て、


「では瞬間移動呪文で行くので儂の肩に手を置いてくれ。あと目を閉じてくれ」

「え、目を閉じてって?」

「ああ。瞬間移動呪文に慣れていない者が目を開けているとな、乗り物酔いと同じような事になってしまうのだよ」

「そういうものなんですか?」

「そうなんだよ。まあ今後徐々に慣れてくれ。さあ」


「あ、では失礼します」

「あたすも」

 俺とキクコちゃんがボルス様の肩に手を置くと、


「では行くぞ。……はっ!」

「うわあっ!?」


 結構きついGが体を襲った。

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