第27話 7月-7 俺たちは星を見ようとする

 さて、部室を出て少しばかり廊下を移動する。と言っても部室から教室3つ挟んだばかりの空き教室。目と鼻の先だ。部室棟の端も端、今回は茂木さんに許可とってこの場所を使わせてもらっている。良く場所がバレなかったもんだよ。まあ、隠していたのもあるし、積極的に探そうとしなかったのもあるのだろうけど。

 ガラガラと扉を開いて中に入ると、ニックとタッキーがげっそりと、でもやりきった顔をしていた。


「おーす、お前ら。調子はどうだ?」

「倉田か……、諸々の製作が終わって……最後のテストをしてる……」


 結果はわかっているものの、一応問いかけると求めていた答えが返ってくる。流石だよ、お前ら。後輩だけでなく、先輩も出来るやつだってことを見せてやらないとな。俺はなんもしてないけど。


「お、なんとか間に合ったな。俺にも見せてくれよ」

「はいはい、部長様最終チェックをお願いしますよ」


 わざとらしく導かれて見るも、流石はタッキーとニックだよ。俺が求めていたものがそこにあった。後はあいつらが満足してくれればいいが……。

 それでもタッキーもニックも100点満点の働きをしてくれた。まだなにも終わってないと言うのに、俺の中で熱いものが込み上げてくる。


「愛してるぜ、お前ら」

「はは、倉田は気が早いな」

「まだ問題は……山積み……」


 バシバシと無駄に叩かれる。照れ隠しだと思って今回ばかりは受け入れよう。


「さて、スモモがお好み焼き作ってくれているから食いに行こうぜ」

「お、それは良いことを聞いた。腹減ってたんだよね」

「一仕事終えたからな……。丁度いい……」


 そんな感じで3人で部室に戻ると、いい感じにお好み焼きが焼けていた。


「お、先輩たち来ましたっすね。もうみんな食べ始めてるっすけど、丁度新しいの焼けますっすよ!」

「お、いいねい。ソースたっぷりで頼むよ」


 何故だかねじり鉢巻までしているスモモ、形から入るタイプには俺は好感が持てるよ。だって俺がそうだから。


「あ、倉田先輩のやつは横に置いてありますよ。どうせ猫舌で食べられないだろうと思ったので冷ましておきました。ちょっとスモモに温めてもらいますね」

「む、コハルちゃん。なかなかやるわね……」


 サンキュー、うちの後輩は気が利くね。隣で冬乃がなんか反応しているけど。うちの後輩が羨ましかろう。


「それで、どうなの?」

「ん? お好み焼きは旨いよ」

「もう、とぼけないでよ」


 冬乃も真面目に聞いてくる。そうは言われたって、満足してくれるかどうかはわからないよ。それよりも今はお好み焼きで現実逃避をしたかった。

 顔を背けて先で視界に入ってきたのは、教室の隅に一人いる石川少年。そうだよな、男子一人きりだったもんな。こんなに女子がいると怖いのもわかる、俺がそうだもん。これに関しては非常に申し訳ない。なので、絡みに行く。肩まで組んじゃう。


「へいへい、石川少年。ちゃんと食べてるか?」

「あ、はい。いただいてますよ」

「お、若い子は食べっぷりがいいっすね。ほれ、もう一枚っす!」

「もう、倉田先輩もスモモも絡み方がおっさん臭いですよ……」


 失礼な、こんなうら若き乙女とうら若き男子高校生を捕まえておっさんだとは。確かに参考にしたのは正月に会う親戚のお兄ちゃん(本人の名誉のためおっさんとは呼ばない)だけどさ。


「ほれほれ、食え食え。食い終わったら屋上行くぞ」


 瞬間、教室内に流れる空気がピシリと緊張した。誰も彼も口には出してなかったものの、気になって仕方なかったのだろう。

 少しばかりの沈黙、コハルとスモモが顔を見合わせて……、コハルが頷いた。アイコンタクトの会議が終わったらしい。コハルが代表をして、重苦しい空気を表しているかのように、重苦しく口を開く。


「本当にやるんですか?」

「ほら、俺って日頃の行いが良いからさ。奇跡の力で晴れているかもしれないだろ、漫画みたいにさ」

「それはないと思うっす……。天気予報的にも、日頃の行い的にも」

「……スモモはいつからそんな可愛げのない後輩になってしまったのか」


 嘆きたいよ。スモモはなんだかんだ言って俺の味方ではないのか。あの頃の純粋だったスモモを返して欲しい。誰のせいだ。……俺たちのせいか。

 そう、俺”たち”のせいだ。決して俺一人に被せられる罪ではない。それにしてもな、あんなにも目がキラキラしたスモモが、俺たちのように濁って来るとはな。悲しいけど、そういうこともあるよね。


「とりあえず、だ。見に行くぐらいはバチは当たらないだろ。無理だとわかってから諦めれば良い」


 詭弁だ。そんなことは俺が一番わかっているよ。わざわざ見に行く必要なんてない、窓から空を見上げれば良いだけの話だ。だけどもそうしないのは、案外俺が一番信じたいのかもしれないな。俺たちの努力が無駄になることが一番良いのかもしれない。


「よし、腹ごしらえも終わったし。行くぞ」


 意気揚々と歩きだした俺に、一番先についてきたのは春日さんだった。


「私はついていくだけだよ。天文部の部長さんはなにか考えているみたいだし」


 ある意味一番今回の思惑とは遠いはずの春日さんだが、そう言っていただけるのはありがたい。やっぱね、陽キャなんて言われる人は人が良いんですわ。陰キャ? 大抵ひねくれもんだろ。ソースはうちの部活の二年生。

 春日さんに感化されたようにみんな動き出す。なんだよ、俺の一言では足りないのかよ。まあいいさ。俺だって星が見れるなんて思ってもいない。

 俺ら一同、茶番のために屋上へ向かった。

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