20 遭遇
不意の事だった。
竹舟も
太めの前、頬杖を突いていたエリカちゃんは、スットその瞳孔を縮めた。私の背中の奥、明らかに歓迎せざる何かを見つけて、彼女の眉は八の字に曇った。
「どしたの?
「あ、いや……どうした、というか……
ヤケに歯切れがわるい。お母さんだろうか。そういえば今日は平日だった。
しかし、ソレにしては態度が煮えきらない。私と背中の奥に居るであろう人物を、まるで照らし合わせるようにして、何度も視線は行き来している。
……繋いでいる?、
「私?、
ようやく合点のいった解答に、少女はこくりト頷いた。
「たのしそうだね、
恐ろしいほど低い、女の冷めた声がうなじを蹴ったのは、それからコマ一枚も挟まぬことだった。
「も、……モモ、
私は椅子に座ったまま、首を後ろにもたげた。
反転した視界の最中、今にも割れそうな不気味な笑みを浮かべる彼女の目は、髪の毛一本ばかり挟むほどに薄く開かれていた。そして、その中で確かに宿された眼光は、今にも私の首を掻こうト、そう決心した色をしていた。血の色だった。
心なしか彼女の周りは、陽炎が吹いているように歪んで見えた。
「いや、さぁ、あの……ハハ、
苦笑い、冷や汗、でるぞでるぞ。いくらでも出てくるぞ。そこまで朴念仁じゃ無いからな。まぁ判っている。丁度彼女は不自然にポケットに手を入れて。そこから「バキっト割れる音がして。「ひゅっト、テーブルの向こう、少女の悲鳴が聞こえた。
そうだ、正解だ。割れちゃいけないヤツだ。この音は。
「すごいね、ビックリしちゃった
「そ、そうでゴザイマス?
「そうだよ。アレだけ人苦手デスみたいな小動物ムーブしといて、人からお金貰ったら子供相手にナンパだなんて……へぇ、へぇ! ……やるじゃんねぇ、ホントにさぁ、やってくれるよねぇ?
大きくなったり小さくなったり。気の触れた抑揚でわなわなト震える声色。ノドはガリバートンネルなのだろうか。
しかしマズい。言うに事欠いて笑うしか無いが、間違いなく今、この独占欲の塊は、エリカちゃんに殺意を飛ばしている。
標準を向けられた本人も、どうやら自覚があるようで。
初対面の成人を前に、効き過ぎた暖房をブンブン威勢良く切っていた肩も、今ではハムスターよりも小さく縮こまってしまっていた。
「あ、あの……わた、ぼ、われ……は
「?、しゃべれるの?、貴女。
「ぴゃ――っ、しゃべれませんでした。ゴメンナサイ……
震える口でようやく視線を向けた少女。しかし目の前のメンヘラは、口の中が真っ黒になっていた。ソレを今から受け止めなければいけない当事者としても、感心してしまうほどの純黒ぶりだった。一体どれだけ怨念を咀嚼したらこうなるのだろうか。
しかしそろそろ頃合いだ。私はわざとらしく一つ、溜息を鳴らしては立ち上がった。
「モモ、悪いケド――
「黙ってて
「はい。
着席。勢いよく彼女の手が横に飛んで、頬を何かがかすめた。何かは判らないが、遠くで何かが破裂する音がした。「きゃぁきゃぁ! ト悲鳴が、あちらこちらからどよめき、私はいよいよソコを向くことは出来なかった。
「……こ、こどもにキレるなよ、
「キレてない。切れ
「
ハイライトの消えた、澄み渡った暗闇を二つ。ひん剝くようにしてモモはコチラへ反論する。私は逃げるようにエリカちゃんの方を向く。だって仕方ない。多分三秒以上目を合わせたら何か抜き取られる。
エリカちゃんは、細い足を椅子の上で折りたたみ、歯をガチガチト鳴らしていた。
目は不自然なほど合った。まるで運命だった。いや、宿命だった。
いや、宿痾だった。このまま放って残る命では無かった。
……どうするか?、
適当に逃がしてやれるならそうしたい。しかし一人にするのが怖い。ヘタを打てばコイツは自宅までつけ回す。本気でやる。幼なじみだからこそ判る。安定と信頼の前科がある。(メン)ヘラモードのコイツに安定も信頼もない。実績だけは間違いない。
焦りが額辺りに雫を造った頃。不意を突いて立ち上がったのは少女だった。
「――嫉妬か?、魔女め、
「ハ?、
この声は私のモノである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます