17 UFOキャッチャー

「ほしい?……え、宗教?

「ち、ちがう!、そのぬいぐ……人形が、ドレが良いか訊いてるんだ!


 エリカちゃんの、小さく細い指がケージを射す。訴えるように強く、何度もぶんぶんト振りかざされる。


「いや、え、貰えるの?

「ん?、待て。もしかして……知らないのか?

「まぁ、。……ハイ、

「えぇぇ!?、


 飛び上がって、ようやく、ようやくだった。彼女はようやく、高い声を出した。年相応の、バッグで揺れる鈴のような声だった。

 黒を基調としたフリルたちは、そこら中でヒラヒラ舞い上がった。


「は、初めて視た。知らない人、

「ひと……?、

「しかし、コレは――いや、ドッキリか?……だとしたら……しかし良いだろうか?いや――


 うつむき、手を顎に当て、しばらくの独り言が続いて。

 ようやく面を挙げたとき、少女の顔は随分と明るく輝いていた。あのとき貰ったボールとはまた違う、強くキラキラト光る強さが、ワっト、私の鼻にぶつかった。


「……良いだろう! わっ、ボクが教えてやるぞ! 新入り!


「あ、ありがとう?、ゴザイマス?


 首を捻りながら私は頷いた。

 いつの間にか握られていたボロボロの手。細く、小さな手は、随分とあったかかった。。


「良いか新入り、コレはUFOキャッチャート言うモノだ。

「う、UFO、きゃっちゃー?

「そうだ。アームがあるだろう?、コレで獲物を捕獲するんだ

「ほ、ほう……なんでアーム?

「ソレは――?、UFOが、さらうから?


 軍人が作戦説明をするように。どこか堅い説明をしていた少女の手が止まる。締めていた眉が緩み、やや台形のような垂れ目に戻ってしまう。

 どうやらよく考えたことは無かったらしい。


「キャトル、ミューティレーションとか?

「キャと……な、何ソレ!?、かっちぇ!


 なんとなく連想された単語を呟くと、少女は身を乗り出して目を輝かせてきた。


「え、キャと……その、UFOが、牛とかの中身くりぬくヤツ……

「すげぇ!、え、もっかい言って、書くから!


 少女は膝を曲げて、後ろのバッグからノートを取り出す。そこら中に英語の筆記体と、十字架が書かれている。やはり宗教なのだろうか?、まぁ子供に言うのも野暮なので黙って見送る。

 少女は回すタイプのボールペンで、ノーートをヒザに置いた。短いスカートがめくれ上がり、水色の縞々が目に入る。別に気にする事でも無いのだが、一応目をそらしてやる。


「キャット?、何だっけ?

「キャト。キャトルミューティレーション

「おっけ!、後は大丈夫、家で調べるから

「そ、そう。どうも……

「凄いな新入り! 物知りじゃ無いか!

「そ、そう?、へへ、


 バシバシト遠慮無しに叩かれる背中。久しく感じていなかった柔らかい痛みに、不思議と顔が緩んでしまう。


「ヨシ!


 少女は意気揚々と立ち上がる。ノートをしまうと、再び身を乗り出して私にケージ、いや、UFOキャッチャーの説明を始めた。

「ボタンがふたつあるだろう?、100円入れると光るから、順番に押してくんだ


 少女はポケットから即座に100円を入れる。先ほど光った1と書かれたボタンを長押しすると、徐々に中のUFOが動き出した。


「あ、押し続けるんだ。

「そうだ、目標まで近づいたら、次は縦。待ってろ――


 言い残して少女はケージの横に回る。衛生などお構いなしに顔をおしつけると、見づらいだろうに眼帯をしていない方の目で、ぬいぐるみを睨み付けていた。


「ヨシ、補足


 戻ってくると2のボタンを押した。アームが少しだけ前に出ると、最後に少女はコチラを向いた。


「視ておけ、作戦はかんぺきだ


 自信満々。眉を少し下げ、目はしたりげに細まっている。ドヤ顔と言うヤツだ。初めて見た。不思議な感動を覚えた。


『キュイン、キュイン!


「うひゃぁ、

「驚くのは早いぞっ


 飛び退いた私の腰に手を回しながら、少女は下がるUFOを見続けていた。UFOはやがて、ぬいぐるみに向かって降り立つと、わざとらしい『ガシィン!、トいう鳴き声を上げた。


「きたぁ!


 少女の歓声を受け、UFOは浮上する。

ごろり、ぬいぐるみは音も無くこぼれおちていった。


「ぬぁあ!、なっ、なんでじゃバカタレぇ!


 ケージのガラスに張り付いていた少女は、悲鳴と共に転げ落ちてしまった。。

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