第13話 待ち伏せ

 頭の中は、追いつかないほど多くの情報が駆け巡っている。


 岩崎、明里…晴香…


 そうだ、まだ晴香を探すんだろ。

 前に進むしかない。


 哲平は気持ちを振りきるように、山道を睨み付けながら重たい足を運ぶ。

 前を行く桐野は草を掻き分けながら、一歩一歩慎重に道なき道を進む。

「急いだ方がいいんじゃないか?

 町を制圧したら奴らこっちに来るぞ」

 桐野は怖い顔で振り向いた。

「言ったろ?敵はそっちだけじゃないんだ」

 前を向くとまた黙々と歩き出した。


「他の仮想国って、いくつくらいあるんだ?」

 哲平は隣を歩く野村に聞いてみた。

「色々潜入を試みたが、俺が入れたところでも3つ。他にわかっている限りで2つ」

「そんなにあんのかよ。

 何で俺たちは存在を知らないんだ?」

 哲平は気になるとすぐに聞いてしまう。

「国も宗教と同じなのさ。

 新たな信者が次の信者を連れてくる」


「シッ…」


 桐野が立ち止まって他を制止した。 

「お前らそこに隠れてろ。木本…!」

 呼ばれると木本は頷いて茂みの中へ進んでいった。

 残った4人は近くの岩の窪みに身を潜める。

「敵か?」

「おそらく。黙ってじっとしてろ」 

 野村は浮かない顔をしている。

「おい、木本を行かせて大丈夫か?」

「俺たちが離れるわけにいくまい」

 仕方ねぇだろ、と言うように桐野も苦い顔をする。


 ほどなくして…

「おい!誰かいるぞ!」

 叫び声と共に銃声が飛び交い始めた。 

「ほら見ろ!あの野郎ドジりやがった!」

「言ってもしょうがねぇ。逃げるぞ!」


 岩の上から木本が降ってきた。

「すまねぇ!見つかった!」

「バカ野郎!なんでこっちに来るんだ!一人で撒いてこい!」

 野村が木本の頭を叩く。

「どこの部隊だ?」

「ありゃアトレア国の奴らだな」

「アトレアって、仮想国?」

 哲平が話に割り込んだ。

「ああ。最近じゃセルリアと接近してるっつう噂だ」

 セルリアと言えばリアル世界の軍事独裁国家として有名だ。

 哲平もニュースでその名はよく知っている。

「おそらくこの山を通るライバルの妨害に置かれただけの別働隊だろう」


「チッ…数は?」

「30人ってところか…」

 それだけ聞くと桐野は機関銃を持ち直した。

「俺が囮になる。お前らはあっちから逃げろ」

「正気か?いくらお前でも一人じゃ…」

 近寄る哲平を桐野は手で制止した。

「奴らの本隊はもう、VRCに近づいているかもしれねぇ。他のライバルもだ。

 いいか、全員無事にってのは諦めろ。

 お前と島をVRCへ他よりも先に送り届ける。これが最優先事項だ」


 こいつは目的のためなら仲間を犠牲として厭わない。

 そして自分すらも、目的のための道具と考えているのだ。


 哲平の初めて見る人種だった。

「わかったら早く行け」

 4人が草むらの中に姿を消すと、桐野は反対へ駆け出した。


 アトレアの兵隊たちは焦っていた。

「どこに行った?

 撃つのをやめろ!散開して捜せ!」

 兵隊たちは銃を構えて左右に散らばった。

 右手に進んだ兵隊3人は木の後ろを1本1本確認していく。

 すると奥の木陰から桐野が飛び出し、機関銃で3人を一掃した。

「いたぞ!あそこだ!」

 残った兵隊たちも桐野を追っていく。


 茂みに息を潜める野村は兵隊たちの様子を窺っていた。

「うーん…5人残ったな…」

「5人くらいなら殺ってしまおうか?」

「殺るのは簡単だが他に気づかれると厄介だ」 

 それもそうだと、4人はさらに迂回する。

「よし、もう奴らの背後に出ただろ」

 

 野村がホッと一息ついた、その時。

 

「あいつらだ!!殺れ!!」 

 奥から10人ほどの兵隊が現れた。

「ヤベェ!みんな逃げろ!」

 それぞれ慌てて木陰や岩陰に飛び込んだ。

 その後を追うように銃弾の土埃が舞う。

「クソッ、これじゃ逃げ場がねぇ!」

 そこへ桐野からの無線が入った。

「どうした!?見つかったのか?」

「ああ、敵の援軍だ!

 かなりヤバい…!」


 桐野は桐野で敵に囲まれていた。

 もたれかかる大木に銃弾が集中する。

「こっちも余裕がねぇ。

 なんとかできるか?」

 後ろに手榴弾を放ると、桐野は次の木陰へ素早く移動。

「どうかな…。ちょっと厳しいな…」

 弱気な野村の声の向こうで銃声が激しくなっていく。


 ガチャガチャ…

 

 桐野の背後でも銃とは別の不吉な音が鳴った。

「まさか…ヤッベ…!」

 慌てて桐野は前へ大きくダイブ。

 後ろの木が大きな音を立てて爆発した。

「あいつらRPG持ってやがる!」

 地に伏せた桐野は向かってくる2人を撃ち倒すと、大きな岩を乗り越えてもたれかかった。

「作戦変更だ。

 俺と木本、島で突破口を作る。

 野村、坂本は脱出を優先しながら援護しろ」

 

 そこへ兵隊が1人、岩陰から飛び出した。

 桐野は相手の銃を押し上げ、喉元へ銃弾を撃ち込む。 

 その背後へまた1人飛び出す。

 桐野は反転して目の前の死体を敵の方へ蹴り飛ばした。

 敵が飛んでくる死体を払い除けると、死体の後ろから桐野が飛び込んできた。

 懐に飛び込んだ桐野は敵の銃を掴んで引っ張る。体勢を崩した敵の首に腕を回し、背後から羽交締めに。

 その状態で岩陰から躍り出ると、向かってきていた男たちは盾に取られた仲間を見て足をすくませた。

 その隙に桐野は銃を撃ち放ち、一気に5人を片付けた。

 しかし奥からまだ敵はゾロゾロとやってくる。

 羽交締めにしていた男へとどめを刺すと、桐野はまた岩の後ろへ身を隠す。


 キリがねぇ…。


 岩陰から乱射して敵を倒しては身を隠し、身を隠しては乱射する。

 次の敵へ狙いを定めた時、その男は側頭部から撃ち抜かれ倒れてしまった。

 その後も敵はバタバタ狙撃されていく。


 狙撃していたのは島。

 茂みの中に突っ伏せてライフルを構えている。

「助かった。いい腕だ」

 無線から満足げな桐野の声。

「VRでよく練習してたんだ」

 したり顔で淡々と撃ち続ける。


 岩陰の桐野のもとへ、敵の裏を回って野村と哲平がやって来た。

「あっちは敵でいっぱいだ。

 こっちから突破できるか?」

 聞きながら桐野は煙草に火を着けた。

「まあやるしかねぇだろ。

 坂本、俺たちの後ろについてこい」

「おい待てよ。

 俺も戦うよ」

 桐野はあからさまに顔をしかめた。

「お前戦ったことあんのかよ」

「VRでなら…」

 桐野も野村も思わず失笑した。

「お前な、リアルとVRは違うぞ?

 命のやり取りしたことあんのかって聞いてんだ」

「わかってるよそんなこと。

 でもやんなきゃしゃあねぇだろうよ」

 哲平はとぼけた顔をしている。

 それが桐野をさらにヒートアップさせた。

「死ぬぞって言ってんだ!

 犬死にする気か?」

「だからよぉ…」

 哲平も語気を強める。

「この戦国時代で野望を持ち続けるには戦うしかねぇんだ。

 それで死んだら、天は俺を必要としてなかったってことだよ。

 戦うために生きてんのに、死ぬのが怖くて生きてられっか」

 

 一瞬の沈黙の後、表情を崩したのは桐野の方だった。

「フッ…ハハハハハ!」


「!?」


「気に入ったぜ。

 簡単に死ぬんじゃねぇぞ」

 桐野は岩陰から飛び出した。

 敵は桐野が放つ機関銃と島の狙撃で混乱に陥った。

「今だ!行くぞ!」

 哲平と野村は桐野の後ろを通り林の中へ。

 前方の木々の間から飛び出した敵を、すかさず野村が倒す。

 その後ろの敵へ、哲平が乱射。

「いいぞ!」

 言っている間に、さらに奥から2人。


 ナイフを振り回す敵から哲平は飛び下がって距離をとり、銃で撃ち抜く。

 野村へ飛びかかった敵は、野村のナイフによって喉を貫かれる。

 そこへ後ろから桐野の叫び声。

「お前ら!伏せろ!」

 咄嗟に地面に伏せると、RPGの爆発と共に木々が倒れる。


 土煙の中地に伏せた2人を桐野が引き起こした。

「行くぞ!走れ!」

 飛び交う銃弾の中、3人は林を駆け抜ける。


 島の元にも、敵が迫ろうとしていた。

「もういい!俺らも行こう!」

 急かす木本と共に、島は岩から滑り降りた。

「早く哲平たちを追おう」

 言っている間に無数の銃弾が飛んできた。

「あっちはもう無理だ。俺たちは2人で逃げよう」


 木々を盾に、2人も林を駆け抜ける。

 しかし、

「ぐあっ!!!」

 木本が雄叫びと共に倒れ込んだ。

「どうした!?」

 駆け寄ってみると、右太股に被弾している。

「早く…先に逃げろ…!」

「逃げろっつっても…」

 すでに四方八方から敵の声と銃声が聞こえる。

「もう囲まれている。

 一か八か、ここで迎え撃とう…」

「ううん…」 

 提案した島の手にも汗が滲む。

 徐々に銃声が近づく。

 島も木本も、覚悟を決めた。


 一方の哲平たちも、包囲されつつあった。  

「木本!島!まだ無事か?」

 無線で野村が呼び掛けるも、返事はない。

 すると先頭を走る桐野が立ち止まった。

「チッ…囲まれた」

 

 その時、桐野の右前から敵が飛び出した。

 軽く受け流しとどめを刺した桐野の背後に、さらに敵…。

 ハッっと桐野が振り返ると、背後の敵へは哲平が飛びかかってとどめを刺していた。

 

「VRでだけ、戦ったことがあるって…?」

「ああ、そうだよ」

 唖然とする桐野に対し、哲平は平然としている。

 怖くないわけではない。

 何も感じていないわけではない。

 しかしこの男は胆の座り方がどこか特殊らしい。

 

「まあいい、次が来るぞ…」

 と言ったそばから、3人めがけて四方から銃撃が始まった。 

 3人はそれぞれ木陰に身を潜め、現れる敵を迎え撃つ。

 桐野が3つ目の弾倉を入れ換えた。

「キリがねぇ!どうにか突破を!」

 桐野の頬を銃弾がかすめた。

「このままじゃ全員死ぬ!

 手榴弾とか持ってねぇのか?」

「ねぇよもう!」

 もはや木から手を出すこともままならない。

 

 その時、

 巨大な爆発と共に、敵とは別の銃声が轟きだした。

 それと同時に3人への銃弾が止む。

 キョトンとする哲平の元に島が駆けつけた。

「お前、生きてたのか?」

「喜べ!援軍だ!」

 

 桐野の元へは、大男がやって来た。

「お前がいてこのザマか?桐野」

「遅ぇんだよ。俺たちが来る前に片付けとけ」

 ふて腐れる桐野の元に哲平たちが集まった。

「この男がISF局長、武田さんだ」

 武田は30前後くらいか、体格のいい、おおらかな顔つきをしている。

「お前らが坂本に島だな。

 俺たちの基地へ案内しよう」


 その頃には銃声は止み、ISF隊員たちが集結してきた。

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