第6話 テイク・マイ・ハーツ・ブレイド!
「カグヤ、グロセベアの武装は?」
《えーっとねぇ……あれ?》
「……ここで武器が使えないとかだと格好が付かないのだけれど……」
《アタシが寝てる間に知らない誰かがシステムいじったなぁ~……もう!》
メンテナンスされてないから使えないというよりも、カグヤの知らないうちにいじられたせいで、動作不備とかある感じ?
それはそれで、ちょっと厄介そうだけど――
最悪は、グロセベアが壊れない程度の格闘戦をするしかないかな?
《とりあえず、右手から剣を生やせるよ。えーっと名前が……なんか読めなくなっちゃってるなー……仮称ガントレットブレード!》
「了解。剣があれば充分だから」
表示されたホロウィンドウに書かれた内容にそって、操作する。
グロセベアは右手を大きく振ると、手の甲から刃が飛び出してきた。
確かにその見た目は、ガントレットの甲から剣が飛び出しているようにも見える。カグヤの付けた名前も言い得て妙かも。
《ごめんねマスター。とりあえずマスターのサポートしつつ、変にいじくられた内部を修正してくから! そのうち使える武装も増えるはず……ッ!》
「ええ。お願い!」
不思議そうに様子を見ていたバンデッドリザードも、さすがにこちらが剣を抜けば、警戒もする。
向こうも臨戦態勢に入った。
さて、どう仕掛けようか――そう考えていると、ふとバンデッドリザードの近くに落ちているモノが目に入いる。
「あ。あのトランク……」
《トカゲの近くに落ちてるやつ? あれ、どうかした?》
「私の手荷物だから、回収したいかな」
《おっけー! じゃあ左手の指のどれかであれに触ってくれー》
「触るだけでいいの?」
《おうよ。あとはこっちで勝手に回収するから》
「助かる」
では、攻撃しつつトランクの回収といきましょうか。
まだグロセベアがどれだけ動けるのか分からないから、モノは試しだ。
剣を構えて、踏み込む。
「っと……!」
思ったよりも深く沈み、思ったよりも大きく加速した。
だけど、最低限の想定はしていた。
もともと、予想に対するある程度の上ブレも下ブレも考慮はしていたから問題ない。
だけど予想をしていたのは私だけ。バンデッドリザードは想定していなかったらしい。
驚いたように身体を竦ませているトカゲへと、私はガントレットブレードを振り抜く。
「…………!」
目を見開きつつ、バンデッドリザードは後ろに飛び退く。ブレードの切っ先が掠る。
それだけで、浅いながらもトカゲのウロコを切り裂き、僅かな鮮血を飛び散らせた。
「なかなかの切れ味があるのね」
《強化系の術が使えなくても、その剣は魔力を乗せてあげるだけで切れ味や強度あげれるから、試しすといいぜ☆》
「それは素敵ね」
カグヤの解説に笑みを返しつつ、私は足下のトランクへと、グロセベアの左手を伸ばす。
その指がトランクに触れると同時に――
《回・収!》
――トランクが指先に吸い込まれて消えてしまった。
「何が起きたの?」
《詳しい説明はあとにするけど、無事に回収完了だよ。だからイーちゃんはもっと大暴れしてヨシ!》
「大暴れ……」
戦うことをそんな風に言われたことはなかったな。
でも、あながち間違ってはいないかもしれない。
「ふふ」
戦闘中だっていうのに、思わず笑みが零れる。
出会って間もないはずなのに、カグヤといると、なんだかとても楽しいわ。
大暴れ、大暴れ……。
うん。このバンデッドリザードには申し訳ないけれど、鬱憤を晴らすために大暴れさせてもらおうかな。
「カグヤ。まだグロセベアの操作に慣れてないから、細かいフォローはお願いね」
《まっかせ~なッさーい》
「いくわッ!」
頼もしい返事を聞きながら、私はグロセベアをトカゲへと肉迫させる。
グロセベア自身が駆動に利用する魔力は、長い時間寝ていたとは思えないほどスムーズに流れていく。
それは私が操作する為に流している魔力と混ざり合い、淀みなく滑らかに、グロセベアは私の求める動きをしてくれる。
「せいッ!」
トカゲが伸ばしてくる舌を躱しながら、ガントレットブレードを振り下ろして切りつけた。
「……ッ!?」
ザックリと身体を切られたバンデッドリザードは目を白黒させた様子で、こちらを見てくる。
だけど手を抜くつもりはない。
「まだ!」
そのまま剣を振るって、トカゲの横を払い抜けていく。
《ちなみにパンチやキックもOKだからね! グロセベアちゃんはそれで壊れる柔肌してねーぜ!》
「なら心置きなく」
各国で使われている現行機どころか、サクラリッジ・シスターズですら素手での格闘はためらうところがあったのだけれど、グロセベアはそれができるらしい。
指先や足先に繊細な機構がないのか。
あるいは、あるけど格闘をしても影響がないほど丈夫なのか。
ともあれ、私はカグヤの言葉を信じてグロセベアを動かしていく。
バンデッドリザードの側面を切り裂きつつ、背後へと回った私は、グロセベアを振り向かせつつ、魔力を込めた蹴りを放つ。
本当に生身で格闘戦をやるような感覚で、白兵戦ができるのね。グロセベアは。
背後から蹴りを受けて、橋を滑るように転がっていくトカゲ。
私はガントレットソードを構えながら、それを追いかけて――
「これで!」
――先ほどとは逆の側面を払い抜けて、切り裂いていく。
《ちょっち倒すには足りなかったかなぁ……》
「そうね」
剣に付いた血を振り払いながら、私はグロセベアを向き直らせる。
血を流し怯えた様子のバンデッドリザード。
ゆっくりと後退しているところから、この場から逃げだそうとしているんだろう。
《ウェポンシステムの一つ、解析と機能修正完了。
首元の球――も名称バグってんな……えーっと仮称ドラゴン・ネック・オーブから魔力砲をブッパする武器だよー。
ただ最大出力だと威力が高すぎるし、今のノーメンテ状態のボディが耐えられるか分からんので、使うなら通常時の三割くらいのチャージを最大値にしとくね》
威力の高い魔力砲。それはありがたい武装だ。
単に人が使う魔術をサイズアップしただけの
機体の内臓バッテリーに貯蔵されている魔力を使う形になるので、乗り手の魔力負担が少ないというのも、巨鎧魔術にはないメリットだ。
逆に内臓バッテリーの魔力を使い切ると、補充されるまで最低限しか動かせなくなるというデメリットもあるのだけど。
《すぐブッパする?》
「いいえ。でもチャージだけはしておいて」
《らじゃった!》
あのバンデッドリザードは、姿を風景に溶け込ませることもできる。
逃げ腰の姿勢を見るに、ある程度距離が離れたら姿を消す算段だろう。
魔獣にしては頭が回るみたいだけど――
「逃がさない」
私はそろりそろりと後退していくトカゲへ、追撃を掛けるように動きだす。
しかしバンデッドリザードは、そんな私へ待っていましたとばかりに舌を伸ばしてきた。
《マスター!?》
「慌てないの」
驚いたような声をあげるカグヤにそう言って、私は槍のように伸びてくる舌を、グロセベアの左手でキャッチした。
「……?!」
トカゲが驚いて舌を戻そうとするけれど、私は身体強化の魔術を巨鎧化発動させて、グロセベアの左腕のチカラを高める。そしてそのまま握りしめた。
「カグヤ、準備は?」
《ドラゴン・ネック・オーブへの魔力チャージは三割完了。
技の名前は……あー、やっぱデータおかしいな……えーっと……よし、仮称ムーンフラッシャー! 三割チャージだから三日月――クレッセントムーンフラッシャーだな! うん! ついでにブッパする時、叫んでみよう!》
「叫ぶの?」
《そういうのがお約束ってモンだぜい?》
「そうなんだ」
よく分からないけれど、カグヤがそう言うのならば、叫んでみようか。
今まで、内蔵武器を使うときに、武器の名前や技の名前を叫んだりしたことはないけれど――新しい自分になる為に、何事もチャレンジだ。
カグヤと一緒に戦ってたら、そんな風に思えてきたから不思議だ。
「それじゃあやりましょうか、カグヤ!」
《OK! マイマスター!》
私は握りしめていた舌を振り上げるように思い切り引っ張った。
トカゲが宙を舞う。
《出力安定! 準備はばっちし! いつでもいけるよッ!!》
左手を離して、宙を舞うバンデットリザードと、ターゲットサイトを重ねる。
「ターゲットロック……外しません!」
空中で身動き取れないまま舞っているバンデッドリザードに狙いを付けて、首元の珠――ドラゴン・ネック・オーブだったかな?――を向ける。
《言っちゃえイーちゃん!》
カグヤの声に答えて、私は叫びながら発射のトリガーを引いた。
『ええッ! クレッセント! ムーン! フラッシャー!!』
何故か外部スピーカーがオンになっていて、私の声が外へと大きく漏れる。
同時に、オーブから月を思わせる黄金の魔力砲が放たれた。
収束された魔力が三日月の形となり、バンデッドリザードを貫くと、その身体に三日月状の穴を開ける。
バンデッドリザードは砲撃の衝撃で吹き飛んでいく。
それだけで絶命しただろうに、この魔力収束砲の効果はそこで終わらなかった。
絶命し宙を舞っているバンデッドリザードの三日月状の穴から、黄金の光が漏れ出し――ややして、派手な音と火花とともにトカゲの身体を爆発四散させるだった。
ふぅ……。
カグヤに乗せられて大声で叫んじゃったけど、なんだか悪くないわ。
心やお腹の中に溜まっていた澱を外へと吐き出したような気分。
気持ちが軽くなったことに驚いていると、何やら関所の砦の方から歓声が聞こえてくる。
……急に叫んだことが恥ずかしくなってきたかも……。
今の大声……聞かれちゃったのよね?
それはそれとして。
「魔獣は、ウロコや牙などの素材が資金になるのだけれど……爆発四散してしまったわね」
《そうなの? んー……武器の性能的には、高威力の収束砲でブチ抜いたあと、対象の内側に余剰魔力を凝縮させて爆発させる……までが効果らしいよ? ちょっとそういうのとは相性悪いかなー》
「その内容だとそうね。狩りには使えそうにないか。でも戦闘の切り札としては悪くない」
それに――
「まぁ変に死体が残るとシュームライン王国が色々うるさそうですから、今回に限っては粉々に消し飛んだのは助かったというコトで」
――倒したのが私でも、倒した時点ではまだシュームライン所属だったんだから、素材は王へと献上すべきとかなんとか。
私やこれからお世話になるかもしれないハイセニア王国が、そんな馬鹿げた話の対応に追われるのは、面白くない。
「カグヤ、オトシマエは付いたわ。その上で、私はハイセニアに向かおうと思うの」
《砦の感じだと悪い扱いにはならなそうだしねー。
まぁ上の人たちからの扱いが良いかどうかはわかんないけど、ダメだったらどうする?》
カグヤがちょっと意地の悪い感じで聞いてくるけれど、私の答えは決まっている。
「その時はカグヤと共にハイセニアで大暴れしたあと別の国へ行くわ。
商業都市のポート・アオーノや、軍事国家のタスカノーネなら、スネに傷があってもお金と実力があれば重宝がられるって聞くし、なんとかなると思うから」
《およよ? マスターってば結構、先まで考えてるじゃん》
「貴女のおかげよ。ありがと」
実際、カグヤに会わなかったらこんな考え方はできなかったと思う。
《えへへ~、どういたしまして☆
よっしゃ! それじゃあ行こうぜ、ちゃんマス! 鬼が出るか蛇が出るかってね》
「どっちが出てこようとも、貴女と私――そしてグロセベアで切り開いていけばいいわ」
そうして私は、祖国ヘと背を向けて橋を渡り、隣国ハイセニアの関所へ、グロセベアの足で踏み入れるのだった。
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本日はここまで。
作者的には、1話目~ここまでで、アニメ1話分くらいのイメージです。
なんとなくそれっぽく感じてもらえたら幸いです٩( 'ω' )و
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