四英雄と不死の村人とスライム

ki-you(きゆ)

第1話 終劇

 ある日、世界に魔王が現れました。


 その存在が魔王と呼ばれたのは、魔法を操る王だったからです。


 魔法は無から物質を創造し、時間や生死すら支配する力です。


 人は一部の特別な者を除き、魔法に為す術がありませんでした。


 しかも魔王は、異形の存在――魔物をどこからともなく呼び出し、魔界の奥深くに禍々しい城を築いて、気まぐれに人を蹂躙じゅうりんしはじめたのです。


 一部の特別な者たちは“選ばれし者”と呼ばれ、人類最後の希望になりました。


 勇者、戦士、魔法使い、僧侶、そして村人。


 五人の選ばれし者は人の未来を背負い、魔王を倒す旅に出たのです。



 //



 壮絶な旅の果て、選ばれし者たちは魔王の城にたどり着きました。


 巨大で歪な城の奥で、五人は魔王と対峙します。


「魔王、貴様を倒す!」


 勇者が剣を抜き放ちました。


「――――幾星霜いくせいそう、待ちわびていたよ」


 魔王の返答は、疲れ果てた老人のように淡泊でした。


「お前たちと再びあいまみえる、この時を……」


「何言っているの? わたしたちは初対面よ!」


 魔法使いが語気荒く言い返します。


「お前みたいな邪悪な存在、一度見たら忘れねえよ」


 戦士は自分を奮い立たせるように軽口をたたきました。


 その軽口には答えず、魔王は王座からゆっくりと立ち上がりました。


 たったそれだけで空気が濁り、勇者たちの回りだけ重力が増したように感じられました。


 魔法の力で風が起き、氷雪が舞い上がります。


 大きな羽、尖った角、金の瞳、力強い四肢、鋭利な爪を持つ異様は、まさしく魔王と呼ぶに相応しい迫力です。


 魔王は、全員をゆっくりと睥睨へいげいしたあと、その内の一人を注視しました。


「これまでのことも、これからのことも、何も知らないのだろう?」


 意味のわからない事を呟きながら魔王は飛び上がり、宙に静止します。


 魔王の背後で歪んだ景色は、魔法の力が働いている証です。


 五人は身構えました。


「お前たちの存在を呪い、消し去ることで、ようやく私は報われる」


「魔王が報われる日など来ません!」


 そう言う僧侶は、聖なる光の魔法を輝かせました。


「お前たちがいるかぎりそうさ。故に呪うのだ。ゆるしはしない、赦してなるものか……絶対に!」


 それから繰り広げられたのは、血で血を洗い、肉を切らせて骨を断つような、凄惨な戦いでした。



//



 ついに、四人の攻撃が魔王に届きました。


 剣に斬られ、鎚に潰され、炎に焼かれ、聖なる光に貫かれ、致命傷を負いながら、しかし魔王は高らかに笑っていました。


「あは……あはははは……!」


 五人は気味悪そうに足を竦ませました。


「あーはっははははははは……!」


 その顔には、一点の曇りもない笑みが刻まれています。


 魔王の体はバラバラです。


 それなのに魔王は、まるで自分が勝利したように笑っていました。


「はははは……はは……は…………はぁ――――」


 ようやく事切れた魔王を見て、全員が安堵します。


 ついに魔王を倒し、絶望の根源を断ったのです。


 五人は使命を果たしたのです。


 その時ふと、魔法使いがある事に気付きます。


 バラバラになった魔王の体が、ぼんやりと輝いているのです。


「これは……魔王の体には、魔法が宿っているわ。人の夢見るすべてが叶う、途方もない魔法よ……!」


 魔法使いが声を上ずらせながら説明した内容に、みなが言葉を失いました。


 目には、誰もが分かり合える魔法――森羅溶融サルヴァリヤ


 角には、何もかも忘れずにいられる魔法――無限回顧スムリティ


 羽には、生命を黄金に変える魔法――永劫停滞スタンバ


 肉には、あらゆる傷病を癒す魔法――衰弱遡行プラティヴァ


 血には、不老不死の魔法――輪廻途絶ナーシャ


 爪には、それらすべてを無に帰す魔法――万象必滅ニルヴァーナ


 目の色を変える四人の前に、人影が立ち塞がります。


 村人です。


「これは人が手にしていいものではありません。すべて燃やしましょう」


 その提案に、全員が反対しました。


 目は勇者が、角は魔法使いが、羽は戦士が、肉と血は村人以外の全員が欲しました。


「どうか考え直してください。こんな魔法を知ってしまったら、人が人ではなくなってしまう」


 村人は必死に懇願したが、聞き入れてもらえませんでした。


 決意の色に染まった四人四様の瞳に射すくめられた村人は、言葉での説得はかなわないと悟りました。


 村人は意を決して、魔王の爪を手にします。


 それですべての魔法を消し去ろうとしたのです。


 しかし、それはかないませんでした。


 村人は見誤っていたのです。


 共に艱難辛苦かんなんしんくを乗り越えた仲間を傷つけてまで、魔法を手に入れようとはしないだろうと思っていたのです。


 青春時代のほとんどの時間を共有したかけがえのない存在です。


 彼らに秘めた考えや欲望があったとしても、それが苦楽を共にした仲間との信頼関係より重要なわけがないと、村人は信じていました。


 それが誤りでした。


 村人の体は、剣に斬られ、鎚に潰され、炎に焼かれ、魔王と同じようにバラバラになりました。


 そのあと誰かが何かを言い、村人の体に触れましたが、致命傷を負った村人には誰が何を言い自分に触れたのか分かりませんでした。


 四人の気配が村人から遠ざかっていきます。


 そして凍てつく魔王城には、バラバラにされた村人の体と、魔王の爪だけが残されたのです。

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