遥かなる双子の星

横浜県

「これ、どう思う?」


天文学者の望月拓海が差し出したタブレットの画面には、グラフの波形が繰り返し打ち寄せては消える様子が映し出されていた。大学の天文台に併設された談話室は夜の静寂に包まれていて、机の上に広げられた論文プリントとノートPCの光だけがかすかな輝きを放っている。


「パルスか何か?」

向かいに座る江田玲奈は、黒縁のメガネを外して微妙に疲れ切った目を休めながらグラフに目を凝らす。玲奈は量子コンピュータの研究で忙しい大学院生だ。手元の実験ノートには数式が走り書きされている。


「銀河系のはるか外側から定期的に観測されているんだ。しかも周期がほぼ地球時間で27時間おきに来てるらしい。どう考えても偶然にしては妙だろ?」


「27時間周期か……」。

玲奈はグラフのピーク値が高くなる点に赤ペンを引きながらうなずく。「太陽系でもそんなリズムは珍しいのに、銀河系の外っていうのが不自然だね」


お互い、小中学校の頃から理科や宇宙の話題で盛り上がった仲だ。大学は別々に進学したが、今でも新しい発見や面白い現象を見つけると、自然と意見交換をする関係である。


「これがさ、たまたま俺が発表した論文にコメントをくれた海外の研究者が『観測史上初めて見る波形だ』って大騒ぎしてて。さらに不思議なのは、俺がこっそり集めた過去データにも同じようなパターンがあったんだ。ただ、観測技術の精度が低い時期だったから見落とされてただけみたいで……」


「なにそれ。もっと早くから地球に届いていたってこと?」


「それがさ、どうも観測された年には重大な科学技術の進展があったっていう説が浮上している。たとえば、量子もつれの理論が確立されたあの年とか、深宇宙探査機が打ち上げられたときとか」


「そこまでリンクすると、まるで『誰か』が地球の様子を探ってるみたいだね」


半ば冗談めかして言ったつもりだったが、その一言は自分の心にも疑問となって刺さる。広大な宇宙空間を想像すればするほど、あり得ない話とも言い切れなくなる。


「それで、玲奈にはまずはこの波形の正体を――いや、量子物理の観点で何かわかることがあればと思って」


拓海の瞳は真剣だ。このパルスに隠された謎を解き明かしたいという強い意志が、言葉からにじみ出ていた。玲奈は手のひらで目頭を押さえると、微笑みながらタブレットを受け取りデータのファイルをコピーし始める。


「やってみるよ。私もちょうど量子ゲートの実験で奇妙なノイズが出ていたところ。もしかしたら妙な相関が見つかるかもしれないし」


それがすべての始まりだった。

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