第11話

 『大量破壊魔法禁止条約』。

 それは、今から20年前に定められた、高規模の魔法を管理するための国家間の決まり事だ。

 ひとりの人間がこの条約に反することは極めて稀である。これは単独の人間を縛るためのものではなく、国力の抑制が本質であり、また、そういった必要以上に強力な魔導人形の生成を禁止にするための条約だった。

 現在、この大量破壊魔法禁止条約に単独で抵触している者は6名である。

 コード・タウルスはそのひとり。スカルピウス社製魔導人形の最高傑作であり、名実ともに、世界最強の魔法使いである。

 その高い戦闘能力で、タウルスは何度も何度も戦場を駆け、数多もの命を奪ってきた。

 腕を振えば町ひとつ消し飛ぶ爆撃が起こり、業火が地面を舐めるように這い回り、その炎は雲にさえ届いた。

 タウルスはノックス・パトリアム国に多大な恩恵を与えた。魔王と呼ばれていた大魔法使いを殺したときは、英雄だなどともてはやされた。しかし、戦争が落ち着いて熱が過ぎれば、人はみな冷静になり、気づいた。

 “魔王が殺されたということは、彼は魔王よりも強大な力を持っている”ということに。

 そこからは、一転してタウルスに石が投げられた。

 人命を軽視している。魔導人形だから心がない。明日には我が町が滅ぼされるかもしれない。

 人殺し。人殺し。人殺し。

 これが、本当に心ない魔導人形だったら傷つくこともなかっただろうに。

 皮肉にもスカルピウス社製の世界最高峰の疑似脳は、彼に罪悪感を与えた。

 タウルスは毎日のように浴びせられる罵倒に耐えきれず、自分で自分の身を傷つけた。

 何度も爆熱を浴びせ、剣で眼球を砕いた。

 その姿に心を痛めたのは、彼を作ったスカルピウス博士だった。

 彼はタウルスを息子のように愛していた。

 だから、これ以上、傷つくことがないように、せめて遠くへ行くよう命じた。

「愛しているよ」

 と、彼が砕いた眼の代わりに、赤色の義眼を入れた。

 きっとどこか遠い地で、幸せに生きてくれるように、と。

 願いを込めて、逃がした。

 タウルスは命じられるままに歩き、歩き、歩き。

 そして、この裸山に辿り着いた。

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