クラスメイトのダウナー無気力美少女が猫系女子(物理)だと知ってしまい偽装彼氏をすることになった
剃り残し@コミカライズ連載開始
第1話
高校1年生の生活も半分が過ぎ去った晩秋。別に大した理由はないのだが、何となく大通りから帰るのも飽き飽きしてきて気分転換のために細い路地に入ってみた。
その途中、錆びまみれのブランコと滑り台だけが設置された、こじんまりとした寂れた公園があった。公園だと言うのに遊んでいる子どもは一人もいない。もっと遊具が綺麗な公園が他にあるんだろう。
公園には高校生が一人いて、しゃがみ込んでいた。同じ高校の女子生徒みたいだ。後ろ姿だけでその人がすぐにクラスメイトの
猫宮は入学当初は猫目の可愛らしい小顔と、並の男子よりも高い身長による抜群のスタイルからかなりの人気を誇った女子。だが、一ヶ月もすると化けの皮が剥がれ、あまりの愛想のなさと不思議なキャラクターから無気力ダウナー女子として名を馳せることになった。
猫宮は授業中もずっとニット帽を被っている。被り始めたのは夏休み前くらいだったか。最初の一週間は先生も注意していたが、やがて諦めたのか何も言わなくなった。
そんなわけでニット帽キャラの定着した猫宮はお気に入りの黒いパーカーを制服の上から羽織り、無気力ダウナー美少女として孤高のポジションを築いている。
そんな彼女が寂れた公園に一人でいることにはそんなに驚きはないものの、近づくにつれて猫に話しかけているのが聞こえてきて、足を止めてしまった。
「そっちの生活はどうなの? やっぱ毎日暇なのかな? スマホがあればどうにかなるかな……肉球でスマホの画面ってタッチできるの?」
猫を質問攻めにする猫宮。当然、猫は「にゃ〜」と返すだけで求めている返事はない。
だが猫宮は「ん。そうだよね」と言って頷いた。
「会話できてる!?」
思わず突っ込んでしまうと、猫宮が驚いて振り返って立ち上がる。
「あっ……い、
「ど、どうもぉ……」
クラスメイトなのでお互いに名前は認識しているものの、話したことはない。気まずくなり、顔をそらす。
「……見た?」
猫宮の猫目が鋭さを増し、俺に尋ねてくる。
「な、何も……」
「ま……いいけど――ぎにゃっ!」
急に猫が飛び上がり、猫宮の頭に襲いかかった。トレードマークのニット帽を猫が咥えて逃げていく。
その瞬間、俺は猫宮を見て固まってしまった。
彼女の頭から、猫のような耳が生えていたから。
「ね……猫耳……?」
まさかニット帽の下が猫耳カチューシャだなんて……理由はわからないけれど猫耳が自然でよく馴染んでいた。
猫宮は慌ててパーカーに付いているフードを被って早足で近づいてくる。
「見た?」
「えっ……な、何を?」
「見たよね?」
ぎろりと猫宮の大きな猫目が俺を捉える。
「……猫耳?」
「ん。そう。はぁ……バレちゃった……」
猫宮は絶望した顔で俯く。
「ま、まぁ……猫耳のカチューシャくらいならつけたいと思ったことあるよ――」
「違う」
俺のフォローを遮るように猫宮が言った。
「違う……?」
「本物だから」
猫宮は俺の手をつかみ、フードの中に押し込む。細い髪の毛の手触りの良い感触とは別に、耳のような突起が手に当たる。ふわふわの毛に覆われていて意思を持っているように、ピクピクと動いている。
「耳だね」
「ん。猫っぽいでしょ?」
「俺、猫アレルギーなんだ。猫に限らず動物全般が苦手でさ。触ったことないから分かんないよ」
「ふふっ……けど猫っぽいでしょ?」
猫宮は真顔から少しだけ目を細めて尋ねてくる。
「まぁ……ぽいっちゃ、ぽい……」
「そう。これね、本物なんだ」
俺の手をフードから引き抜きながら猫宮がそう言ってくる。
「さ、最新のコスプレ用具とかでもなく……?」
「ん。身体から生えてる一部。おちんちんと同じだよ」
「別に他の器官でも例えられたよね!?」
「分かりやすいかなって思って」
猫宮は独特な空気感をまとい、目を瞑って一度深呼吸をした。そして、公園に隣接している多くの道の中から一つ、確信を持って指さす。
「ん……あっちかな」
「何が?」
「私の帽子。あれがないとずっとフードを被ってないといけないから」
「猫耳を隠すために?」
「ん。そう……犬神、まだ疑ってるでしょ? 割とガチだからね?」
「ガチって言われてもなぁ……」
「野生の勘が言ってる。あの猫はあっちに帽子を持って逃げた。ついてきて」
猫宮は俺の手を引いてズカズカと歩いていく。柔らかい手と触れ合い、驚いてしまって思わず「わっ……」と声が出てしまったが、猫宮は気にしていない様子。
「そういえば猫と話してたよね……?」
俺の手を引きながら前を歩いて先導している猫宮に尋ねる。
「みんなできるでしょ。跳び箱と同じくらいの難易度だよ」
「何段くらい?」
「7段」
「じゃあ結構難しいじゃん」
「ふふっ……そうかも」
猫宮と話していると不思議と会話が弾む。話してみると案外気さくでジョークも言うタイプらしい。
猫宮が振り向いてにっと笑う。大きな猫目もそうだが、八重歯が少し前に出て特徴的なのが妙にまた猫っぽいと思った。
「犬神、キミは話しやすい」
「そりゃ良かった」
「小型犬みたいだよね」
「せめて大型犬にしてくれる!?」
猫宮は「……チワワ?」とすっとぼけて言いながらしばらく歩き、やがて一軒の廃屋の前で足を止めた。
庭に生えている木には確かに猫宮の青いニット帽がかけられていた。
「ほらね。あったでしょ?」
「すごっ……ぶぇっくし!」
庭に一歩入ると鼻が急にムズムズし始めた。よく見ると猫が庭中にたむろしていて、廃屋は野良猫のすみかになっているようだ。
「あ……あはは……し、失礼するね……」
猫宮はこっそりとニット帽をとって頭に被る。それと同時に猫達が自分の物を取られたと認識したらしく「ニャー!」と叫びながら俺と猫宮を追いかけてくる。
「にっ、逃げよ!」
猫宮は慌てて俺の手を掴み、走り始める。猫宮は足が速い。置いていかれないように必死に足を動かして逃げる。
「はっ……はっ……ね、犬神」
走りながら猫宮が話しかけてくる。後ろを見ると既に猫達は追いかけていなかったので足を止める。
「はっ……はぁ……なっ、何?」
「今日のこと、秘密だからね」
「話せることと耳があること?」
「ん。話が早くて助かる」
猫宮はもじもじしながら俯き、まだ言い足りないことがある素振りを見せた。
「まだ何か?」
「……猫って友達が少なくて。小型犬と仲良くしたかったりもする」
「残念。俺はシェパード」
「や、私と身長変わらないよ?」
「それは猫宮が大きいんだって」
猫宮はニヤリと笑って「ライオンだにゃ〜」と言いながらスマートフォンで連絡先を表示して俺に見せてきた。
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