第8話 リンリと面談(上)
リンリ二等兵は隊長室に入ってくるなりペコリと頭をさげた。
「隊長、ありがとうございました。美味しいゼリーをいっぱい食べたおかげで元気いっぱいです!」
身長は155センチメートルくらい。
小柄でこげ茶色の髪を長めのボブカットにしている。
登録は一般的な歩兵なのだが、資料を読んだ限りでは、この砦でいちばんまともそうなのは彼女だった。
「お礼なんていいさ。さあ、ここに座ってくれ」
俊敏な身ごなしでリンリはちょこんと椅子に腰かけた。
「君はグローブナ山間部の生まれだって?」
「はい。両親は山で猟師をしていました。自分も得物を担いでいたので足腰は丈夫です」
朗らかにこたえる様子はじつに爽やかだ。
俺はさらに資料を読み進める。
「へぇ、格闘技の地方大会で優勝経験ありか。すごいじゃないか」
「子どものころの話です。山籠もりに来ていた格闘家に教えを受けました。その師匠の推薦で軍に入ったんです」
だが、その後の働きはあまりいいものではなかったようだ。
「君は何度か死にかけているな」
「はぁ……」
一度目はオークの棍棒で腹を殴られて重傷。
二度目もやっぱりオークに敗れて重症か……。
同じ種族にやられるってことは、動きに妙な癖でもあるのだろうか?
そこから負け癖がついたのか、前線に出ることを拒むようになったらしい。
けっきょく目覚ましい功績は上げられずに、この砦に配属されたようだ。
「戦闘がストレスになっているのか?」
「そうではありません」
リンリははっきりと言い切った。
どうやら嘘ではなさそうだ。
「だったらどうして戦闘を拒む?」
「それは……」
「どうしても嫌なら除隊するという手もあるぞ」
「それは困ります。自分は軍にいたいのです!」
地方大会とはいえ優勝経験があるのだ、リンリの実力は確かである。
だが、幼少期に才能を認められても、その後に伸び悩むことはよくある話だ。
その原因がわかればいいのだが……。
「そうだ、一つ俺と手合わせしてみないか?」
「隊長とですか?」
「これでも連隊の闘技大会で優勝しているんだぞ」
そのせいでここに派遣されてしまったんだけどな。
「すごいっ!」
リンリは瞳をキラキラさせて尊敬の眼差しで俺を見ている。
その様子を見ても、格闘技が嫌いになったというのではなさそうだ。
「片手剣と打撃をミックスさせたのが俺の戦闘スタイルだけど、今日は無手の組打ちをしてみようぜ」
「ぜひ、お願いします! よーし、やるぞぉ……」
ほう、闘志がむき出しといったところか。
これは悪くない。
場所を中庭に移して俺たちは向かい合った。
「よろしくお願いします!」
「いつでもかかってこい」
この手合わせでリンリの弱点を見極められれば問題に対処できるかもしれない。
こと戦闘に関して言えば、リンリはこの砦で唯一の即戦力なのだ。
俺としても大事に育てたかった。
構えをとるとリンリは前後左右にステップをとりだした。
野生の動物を思わせるいい動きである。
これは期待できそうだ。
「参ります!」
言うが早いかリンリは牽制の打撃を打ち込んできた。
少々正直すぎる攻撃だがスピードは申し分ない。
小柄なのでパワーは足りないが身体強化魔法の修練で補えるだろう。
「いいぞ、もっと打ち込んでこい」
俺はリンリの攻撃をさばきながら、あえて隙を作って誘う。
「うりゃあっ!」
フェイントをひとつ入れてリンリの連撃が続いた。
ローキック、左右のワンツー、どれも回転が速く、うまくまとまっている印象だ。
戦闘力に関して言えば一般的な兵士の水準を上回っている。
前線で活躍していればとっくに上等兵か兵長あたりになっていてもおかしくないレベルだ。
それなのにいまだに二等兵とはどういうことだ?
「隊長、隊長も攻撃してください! 隊長の攻撃を受けてみたいです!」
リンリの目が妖しく光り、頬は上気している。
戦闘の興奮にアドレナリンが分泌されたか?
だが、その心意気や良し!
「おう! それじゃあ実戦仕込みの技を見せてやる」
彼女の動きは本物だ。
さすがに本気は出さないけど、まともにやりあっても問題はないだろう。
そう考えて、俺は体の重心を前に移動させた。
「行くぞ!」
「はいっ!」
軽いジャブを二発、そこからのローキック、リンリは受けることなく体の移動でかわしていく。
「回転を上げるぞ。捌いて返してみろ!」
「はいっ!」
俺は連撃のスピードを一段階上げた。
こうなるとさすがに避けきれずリンリは両腕で防御を固める。
だが、本物の格闘家に教えを受けているだけあって防御の基礎もしっかりしているな。
それなりの装備を着ければ実戦でも役に立つだろう。
「ハア、ハア、ハア……」
リンリの息が上がってきたな。
顔が真っ赤で目が潤んでいる。
ひょっとしてリンリの弱点はスタミナ不足だろうか?
「ほら、隙があるぞ!」
本気で突いたわけではなかった。
もちろん魔動波を使ってもいない。
リンリなら十分避けられると思っての正拳突きだったのだ。
ところがリンリはまったく動こうとせず、俺の拳は彼女のみぞおちにまともに入ってしまった。
まるでリンリは自分からもらいにいったみたいに攻撃を受けた気がするのだが……?
「おい、大丈夫か!?」
地面にうずくまりピクピクと震えているリンリに駆け寄った。
「さわらないで……くだ……さい……」
「だが……」
傷が深いようなら手当てが必要だろう。
「ちょっと見せてみろ」
俺は震えるリンリの肩に手をかけた。
「ダメ! いま……イって……イッてるからぁっ!」
「はあ……?」
ビクビクと痙攣しながら硬直するリンリを俺は黙って見つめることしかできなかった。
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大晦日のなので後程、続きを公開します!
00:08分に予約投稿済み。
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