第8話 奇跡のメカニズム

 神殿での戦いを経て、世界の運命の歯車は一度回転を取り戻したものの、完全に修復されていないことが判明した。歯車は僅かなズレを抱えたままで、再び世界が混乱に陥る可能性があった。

 「運を修復するには、私たちだけの力では足りない。全ての人々の力を結集させる必要がある」

 ラティスの声が二人に語りかける。運を貯めてきたレオは、自身の運を解放するだけでなく、他者と共有する新たな段階に進むことを決意する。




 レオは村や街を巡り、人々に呼びかけを始めた。

 「今こそ、皆で力を合わせる時だ。運は、一人で使うものではなく、皆で共有することで本当の力を発揮する」

 最初は信じない者や恐れる者も多かったが、レオの真摯な姿勢と説得により、一人また一人と協力を申し出るようになった。彼らはそれぞれ、日常で蓄えた小さな運を「心の祈り」という形で提供する方法を学び始める。




 人々の祈りや想いが運命の歯車に伝わり始めた時、その回転が少しずつ整っていくのが分かった。

 ある老夫婦は、「病気の孫を助けてほしい」という切実な願いを運に込めた。

 ある若者は、「争いを止め、平和を取り戻したい」と祈りを捧げた。

 これらの想いが歯車を通じて次々と結びつき、世界の運が一つの巨大な波となり始めた。


 その光景を目にしたセリーナは、涙ぐみながら呟く。

 「運は本当に、繋がることで奇跡を起こす力になるんだ……」




 レオとセリーナの呼びかけに応じて集まった仲間たちも、運の修復を支える重要な存在となった。

 運の知識に長けた老学者のリズムは、歯車の調整に必要な技術を提供した。

 大工のガレンは、歯車の土台を支えるための物理的な補強を行った。

 歌姫のミアは、人々の祈りを歌に乗せて広め、運のエネルギーを一層強化した。


 それぞれが自分の持つ力を発揮し、歯車を修復する大規模なプロジェクトが進行していく。




 いよいよ運命の歯車の最終調整が行われる段階に到達した。しかし、最後の欠片を埋めるには膨大な量の運が必要だった。ラティスはレオに語りかける。

 「ここからは、全てを賭ける覚悟がいる。お前の運の全てを解放するかどうかは、お前次第だ」


 レオは静かに微笑み、迷いなく答えた。

 「俺の運なんて、大したものじゃない。でも、この運が世界を救う力になるなら、惜しむ理由なんてないさ」


レ オが全ての運を解放した瞬間、眩い光が歯車を包み込み、巨大な回転音が響き渡った。その音は世界中に広がり、狂いかけていた運命の流れが一気に正常化していった。




 歯車が完全に修復されると同時に、世界中で小さな奇跡が起こり始めた。

 病気の孫が健康を取り戻し、老夫婦が涙を流して喜ぶ。

 争いが止み、人々が笑顔で手を取り合う。

 荒廃していた土地が緑を取り戻し、自然の恵みが蘇る。


 セリーナはレオの方を見て、安堵の表情を浮かべた。

 「これが奇跡の力なんだね。あなたの信念が、みんなを動かしたんだ」


 レオは少し照れくさそうに笑いながら答える。

 「いや、俺だけじゃないさ。皆が力を合わせた結果だよ」




 運命の歯車が正常化し、世界は平和を取り戻した。しかし、レオとセリーナはここで終わるつもりはなかった。

 「この力を、もっと多くの人に伝えていこう。そして、次の世代が運を正しく使えるように道を作るんだ」


 二人は再び歩き始める。新たな運の貯金術を広めるため、そして次なる夢を実現するために――。

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