第21話 その後

 その後、受験を経て高校――律明高校へと入学。なるべく人と関わらず、勉学に励みつつ静かに学校生活を送るつもりでいました。尤も、それならば部活に所属しない選択が適切ではあるのですが……ですが、両親の影響にて幼少より茶道には関心があったので。……まあ、両親も喜んでくれましたし良しとしましょう。



 ですが、さながら陰のごとくひっそりと過ごす僕の目論見は、入学後ほどなく潰えました。と言うのも……教室の中のみならず、校舎の何処を歩いていても視線を感じるのです。それも、少なくない数の視線を。


 それでも、きっと気のせい……臆病ゆえ、何とも自意識過剰なことに向けられてもない視線にみっともなく怯えているだけ――そう思い、その後も静かに日々を過ごしてきました。……ですが、





『――ねえ、外崎とざきくん。良かったらさ、私と付き合わない?』

『…………へっ?』


 ある放課後のこと。

 昇降口にて靴を履き替えていると、ふと近

くから声が届き茫然とする僕。視線を移すと、そこには朗らかな笑顔を浮かべる綺麗な女子生徒。……えっと、クラスメイト……ではないですよね。僕の記憶違いでなければ、恐らく初対め――



『……あれ、ひょっとして私のこと知らない? ……まあでも、入学したばっかりだし仕方ないか。私は二年一組の藤沢ふじさわ望夏みなつ。宜しくね、外崎くん?』

『……あ、はい……宜しくお願いします、藤沢先輩』


 

 すると、僕の反応から察したのでしょう、莞爾とした笑顔で自己紹介をしてくれる女子生徒。そして、そんな彼女にたどたどしく答える僕。……えっと、先輩? ですが、それならどうして僕を――


 ……いえ、それよりもまずは返事をすべきでしょう。そういうわけで、出来る限りの誠意で以てお断りの旨と謝意を伝えました。尤も、この頃にはお付き合いという選択肢そのものが僕の中になかったためか、例のような光景が脳裏を過ることはありませんでした。申し訳なさを感じつつも、そこに関してはホッと安堵を覚える浅ましい自分を認識しないわけにはいかなくて。



 その後も、僕に想いを伝えてくださる生徒は沢山いました。自分で言うのもどうかとは思いますが、沢山いました。そして、校内にて広まっている僕の評判と照らしても、流石に自覚しないわけにはいきませんでした。僕が、概してどのような認識を受けているのかを。


 すると、ある頃から僕に関するある噂が広がり始めたようで。尤も、それは僕の日頃の態度を鑑みれば妥当と言えるでしょうし……それに、正直のところ僕にとっては都合の良い風説ものでもあって。



 ともあれ、入学から二年以上が経過した梅雨時のことでした――彼女が、僕の前に現れたのは。



『――初めまして、外崎先輩。私は一年二組、八雲やくも李星りせと申します。もし宜しければ、私とお付き合いしませんか?』




 もちろん……と言うのもどうかと思いますが、もちろんお断りするつもりでいました。そして、実際にお断りすべく口にした僕の言葉を遮る八雲さん。そして――



『――それでは、ちょっとした契約をしませんか?』



 いくつかのやり取りの後、何処か不敵な笑みで告げた彼女の言葉。……まあ、この辺りの事情は以前ご説明したはずですし、改めてくどくどと話されるのも煩わしいでしょうからなるべく簡潔に述べますが――彼女と過ごす日々は、僕にとって驚くほどに楽しい日々ものでした。



 ですが、それにも関わらず……僕は、彼女を傷つけてしまった。僕自身、明確に分かるだけでも二度――きっと、実際にはもっと多いのでしょう。



 なので、これ以上は望めない。彼女との関係を――彼女との楽しく充実した日々を、これ以上望むわけにはいかない。もう今更ではありますが……それでも、これ以上彼女を傷つけるわけにはいきませんから。



 ですが、彼女は拒んだ。まだ、契約は残っているからと。そして、そう言われてしまえば反論の余地はありません。残り、およそ一ヶ月……どうにか、これ以上彼女を傷つけずに契約を終える――そう、改め決意した最中さなかでした。



『――久しぶり、玲里れいり。元気にしてた?』



 ――卒然、あの人が再び僕の前に現れたのは。


 






 


 


 



 



 

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