第22話 新装備&新衣装

 試験の説明は午前の早い時間にさっさと終わったので、みーちゃんとクラブ部屋のある棟へと向かう。

 昨日、ちーちゃん先輩から装備が完成したと連絡があったのだ。


「ちーちゃん先輩の装備楽しみー」

「そうだねぇ。革集め結構大変だったしねぇ」

「ちゃんとすい先輩にお礼したー?」

「まだ出来てないんだよねぇ……なにがいいかな?」

「ぇー……ご飯?」

「やっぱり?」


 まぁすい先輩といえばコスプレかご飯だしなぁ。

 コスプレ衣装は探索装備も兼ねるっぽいから俺は手を出せないし。

 でも衣装用の素材集めを手伝うのはアリかもだな。

 そんなことを話していたらすぐクラブ部屋へと着いた。

 

「「お疲れ様ですー」」

「はいよー。お疲れー、お二人さんー」


 片手にマグカップを持ったちーちゃん先輩がカウンターで待っていた。

 わざわざ作業せずにいてくれたようだ。


「待たせちゃいましたか?」

「えぇねん。こっちから完成したさかい取りに来い言うたんやから。そんじゃ装備出すで?」

「「はい!」」


 俺もみーちゃんもわくわくだ。

 二人してカウンターにかぶりついて陣取る。


「ふふんっ。まずは美月ちゃんのからやな」


 口角をちょこっと上げて自信ありげな顔なのちーちゃん先輩が脇に置いてある箱からその手甲を取り出した。

 黒く磨き上げられた革製で、肘から先につけるような形。

 先端側は指の第二関節ぐらいまであるようだ。

 革の所々は金属で補強もされており、特に手の甲の部分は分厚い補強がされている。


「「かっこいー!」」

「せやろー。着けてみてー」

「はい!」


 元気よく返事をしたみーちゃんが早速手に取って両腕へと付けて行く。

 着脱もそれほど大変ではなさそう。


「うん! いい感じです!!」

「せやろせやろー」


 さっそく装備した手甲で軽くシャドーボクシングみたいに拳を振るみーちゃん。

 ブオンブオンと凄い音がする。


鎧犀アーマーライノスの革を使ぅたから強度と耐久性は折り紙つきやでー。中級ダンジョンぐらいまでは十分使える性能のはずや」

「おぉー」

「素材の特性で”迎弾パリィ”系のスキルに補正入って、状態異常耐性もちょっとは上がるはずや」

「すっごーい! ちーちゃん先輩、ありがとうございますー!」


 カウンターを回り込んだみーちゃんがちーちゃん先輩を抱きしめて、そのまま持ち上げて振り回してる。

 楽しそう。

 きゃーきゃー言ってる。


「はぁ、はぁ……つ、次は伊織のんやな」


 みーちゃんからやっと解放されたちーちゃん先輩が息を切らせながらカウンターに戻って来た。

 みーちゃんはまたシャドーをしてるようだ。


「伊織のんは胸当てと脛当てやなー……ほいっ、これや」


 取り出されたそれらは先ほどの手甲と似た色合いだった。

 つややかで黒く、胸と背中を守る形の胸当て。

 いくつかのパーツが段々な形になっていて可動性も良さそうな脛当て。

 どちらもやはり所々には金属の補強も入っており、機能性とデザイン性が両立されている。


「……かっこいいですね」

「せやろ? もっと褒めてもえぇねんで?」

「俺もすごいーって言いながら抱きしめて振り回した方がいいですか?」

「伊織は邪念たっぷりだから嫌や」


 ちーちゃん先輩が自分の身体を抱きしめながら笑っている。

 有無を言わさずやるべきだったか。

 照れるちーちゃん先輩が見れたかもしれないのに、惜しいことをした。


「さぁて、本日のメインイベントや!」

「ぇ、俺たちの装備以外に何かあるんですか?」

「なになにー?」

「ふっふーん……まぁ見ててぇな。さぁ、すーちゃん! かもんっ!」


 すい先輩?

 部屋のこちら側と奥を仕切っていたカーテンが揺れる。

 魔法少女が、そこにいた。

 マジかよ。


「ふふーん。どやぁぁぁ」

「「ぉぉぉー!」」


 白と薄紫のカラーリングで、上下ともにリボンやフリルが多めのふわふわしたデザイン。

 プリーツスカートは当然ミニで、ニーソックスとの間の絶対領域がまぶしい。

 衣装と合わせた色のリボンで髪を束ねたすい先輩は小さな短杖を手に持ってちょっとだけ恥ずかしそうにこちらを見ている。


「かっわいぃぃー」

「……ちょーかわいいです」

「…………ん……ありがと」

「あと、ちょーエロいです」

「…………ん……」


 すい先輩がちょっともじもじする様がとってもエロかわいい。

 いや、身長170センチぐらいあって出るとこしっかり出てる体型なすい先輩がこういう恰好したらそりゃギャップでエロくもなるでしょ。

 っていうか狙ってるでしょ。

 狙ったであろう本人は薄い胸をめっちゃ張って自慢げにしている。


「それも探索用の衣装なんですか?」

「せやでー。すーちゃんのお姉ちゃんの衣装のデザインを元にした探索用の衣装や。魔導師のスキルが使えるんやったか?」

「…………ん……ただ、エフェクトが特殊になる……」


 きっと魔法少女っぽいエフェクトになるのだろう。

 凝りすぎである。


「もう慣らしとかはしたんですか?」

「まだやでー。この衣装もやっと昨日完成してん」

「ぁー……先輩たち、この後って時間あります?」

「なんや伊織。ナンパか?」

「ナンパじゃないですけど俺とみーちゃんも明日の試験に向けて装備慣らしたいんでご一緒にいかがかなぁ、と」


 顔を見合わせるすい先輩とちーちゃん先輩。

 実はみーちゃんとはここへ来ながら話していた内容だ。

 先輩たちも誘うのは予定外だけどまぁ丁度いいだろう。


「まぁ軽くならえぇで。明日試験なんやから無理したらあかんで」

「…………ん……私も、明日はちょっと用事ある……」

「了解です。それじゃ軽め軽めで」





 軽めとは言え、軽すぎたら慣らしにもならないので結局中級ダンジョンに行くことになった。

 ちーちゃん先輩は疲れてるからパスとのことなので結局3人だ。

 すい先輩がメイド服でのタンク係をできないので、必然的に俺かみーちゃんが抱える形になる。

 ダンジョンに入ってしばらく進んだところで爪穴熊クロゥバジャーが前方から駆けて来るのが見えた。


「いっくん、僕が抱えるよー!」

「みーちゃん、大丈夫?」

「”迎弾パリィ”に補正も入るって言ってたし、やってみるー!」

「了解。すい先輩は後ろから魔法お願いします」

「…………ん……危なそうだったら、サポートするから」

「はいっ!」


 やりとりを終え、みーちゃんが前に出る。

 駆け寄って来ていた爪穴熊が叫びながら高く飛び上がり、爪を振るってくる。


「クルルルゥゥゥゥ」

「”迎弾パリィ”!」


 順次振られる爪穴熊の両腕をみーちゃんも左右の腕で次々と弾いていく。

 最後の一撃を弾いたところで互いにバックステップで少し距離を取った。


「輝け! 星屑のきらめき! ”シューティングスターレイン”!」


 後方からすい先輩の平坦な声で呪文が聞こえた。

 マジかよ、呪文付きじゃないとスキル発動しねぇのか。

 エロかわいいけど不便だな……

 そんなことを思っていたところ、大量の光り輝く小さな星が爪穴熊へと飛んで行った。

 

「ク、クルゥゥゥ」


 連続でぶつかってはじける星に埋もれて爪穴熊が見えなくなる。

 流石に一撃ってことはないと思うけど……


「クルルゥゥゥゥ!!」

「みーちゃん!」


 降り注ぐ星雨シューティングスターレインの終わり際、勢いよく爪穴熊がみーちゃんへと飛び掛かる。

 立ち位置の都合で見えづらかったのかみーちゃんの対応が一瞬遅れる。

 俺は咄嗟とっさにみーちゃんの方へ駆けだす。


「月の女神よ、守りたまえ! ”ムーンライトミラーシールド”!」


 その時、すい先輩の呪文とともにみーちゃんの目の前に円形の金色の光が浮かび上がる。

 表面はつるりとした鏡のようだ。

 魔法とか跳ね返すような効果もありそう。

 爪穴熊は光にぶつかり、弾き返されて着地する。


「そりゃぁぁぁぁ!」


 ちょうど目の前付近に着地した爪穴熊目がけて、俺は叫びながら魔剣を振り抜く。

 いつも通り薄い手応えで一気に刃が抜ける。

 爪穴熊は真っ二つになり、そのまま光の粒子へと変わった。


「ふぅー……」

「いっくんありがとぉぉぉ」


 飛びかかって来たみーちゃんに抱き着かれる。

 鎧越しだから柔らかくない。残念。


「みーちゃん、怪我はない?」

「僕は大丈夫! すい先輩、ありがとうございますー」

「…………ん……サポートは先輩の仕事」


 ちょっとだけどや顔なすい先輩。

 魔法少女コスチュームだから正直様にはなってないけどかわいい。


 そんなこんなで数体ほどモンスターを倒して帰還となった。

 俺の鎧も動きやすさとかは特に問題なさそうだ。

 すい先輩の衣装や魔法も見れたので満足である。


 さぁ、明日はいよいよ初級ダンジョンのボス戦だ。

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