第10話 同級生たちの実戦実習
~~side
「武藤さん!」
「大丈夫っ!」
「クックルゥゥゥゥゥゥゥゥッ」
羽を広げて飛び上がった
でも、大丈夫。
僕にはちゃんと見えてる!
サイドステップで横に回り込み、腰を落として拳にスキルを乗せる。
「”
1メートル近い巨大な鶏の首の付け根辺りを正拳突きで狙う。
グローブ越しに生々しく重い感触。
威力重視でそのまま振り抜く。
「”
殴り飛ばした闘大鶏に
闘大鶏はそのまま動かなくなり、光の粒子に変わった。
「周囲確認~!」
リーダーの
広めのルームだし、他のパーティーもいるがあくまで訓練だ。
モンスターを倒した後の油断が一番危険らしい。
「クリア」「クリア」「クリア」「クリア」
しおりちゃん以外の4人が前後左右を確認して返答。
うん、できてる。できてる。
「いい感じね~」
「だねだね!」
「ちょ、ちょっと怖かったです……」
「あの程度、余裕に決まってますわ」
大盾と短剣を持った
まだちょっとビクビクしてる
そしていつも自信満々な
あとは
先生たちにもバランスの良いパーティーだと褒められた。
僕たちは実戦実習で学校のすぐそばの初級ダンジョンに来ている。
実習なので今日は1組と2組合同だ。
「それにしても、洞窟なのにちょっと明るいの不思議だねー」
「洞窟型ダンジョンなんだから、当たり前ですわ」
「う、薄暗いのが、怖いです……」
「ダンジョンはどこもこのぐらいの暗さなんですから、慣れるしかありませんわ」
周囲を警戒しながら話し出した結ちゃんと
二人に比べてあずさちゃんは堂々としてて余裕がある。
高めの位置で二つ結びにしたキレイな銀髪をかきあげる姿も様になっている。
「美月ちゃん~、大丈夫~?」
「ぁ、うん。大丈夫だよ。攻撃も当たらなかったし」
しおりちゃんが近づいて来た。
接敵した僕に傷がないかを念のため確認するようだ。
むき出しの腕や足を念入りにチェックしている。
拳闘士は近接攻撃ばかりなのでひらひらした服は邪魔なのだ。
今日も下はスパッツとショートパンツ、上はノースリーブのトレーナーだけだ。
「今度は
「服の話ですか~? 学校指定のジャージじゃ駄目なので~?」
「ぇ、かわいくなくない? あれ」
「性能重視するなら仕方ないかと~」
しおりちゃんは性能重視派らしい。
僕はあのジャージ嫌なんだけどなぁ……
芋っぽい……
そういえばいっくんは普通に着てたなぁ、ジャージ。
いっくんのことを思い出して胸が痛くなる。
パーティー入れてあげたかったなぁ……
レベル上がらないなんて、絶対大変なのに。
「神代ぉー。パーティーは問題なさそうかぁー?」
「はい~。大丈夫です~」
引率の猿田先生が歩いて来ながら声をかけてきた。
思わずしおりちゃんの後ろに隠れてしまう。
猿田先生、女子を見る目が嫌らしいからちょっと苦手……
今も話しながらしおりちゃんの大きな胸をちらちらと見ている。
「問題ないなら次のパーティーと場所を変われぇー」
いま僕たちはちょっと広い
引率の先輩が通路部からモンスターを1~2匹引っ張って来て、それを待ち構えているパーティーが倒すのだ。
初めての実戦実習なのでパーティー戦闘に集中、らしい。
部屋の広さと引率の都合でこの部屋には3つのパーティーがいる。
「それじゃ次はぁ、渡辺ぇ。お前たちだぞぉー」
「うぃーっす」
1組の渡辺がリーダーの6人パーティー。
僕が同じ班だったら、絶対そんなことさせなかったのに。
今度こそ、僕がいっくんを守ったのに。
「美月ちゃん~。行こう~」
「ぁ、うん」
しおりちゃんに促されて壁際へ移動する。
ほんのり湿った壁に背を付け、渡辺のパーティーの様子を確認する。
あいつ、凄そうな剣をこれ見よがしに……
どう見ても素人に毛が生えた程度の実力なのに。
足取りとか重心移動とかでバレバレだ。
独りよがりで、基礎を
ジョブは優秀らしいけど、そんなのは付け焼刃だ。
本当に大事なのはそんなものじゃない。
いっくんは昔、僕にそれを教えてくれた。
「よし! 来るぞ、お前ら気合入れろぉ!」
「「「「「おぉぉ!」」」」」
先輩が闘大鶏を1匹連れて戻って来た。
そして渡辺のパーティーの目の前で煙のように先輩が消えた。
最初はびっくりしたけどスキルらしい。
「おらぁぁぁぁ! ”
ほら、やっぱり周りが見えてない。
一人で真っ先に突っ込んで、弱点も狙わずにただ攻撃している。
後ろの人たちが魔法を撃てなくて困ってる。
大きなダメージこそ与えられているようだが、一発では倒しきれなかった。
あの武器でちゃんとスキルを弱点に当てれば一撃で倒せそうなのに。
しかも怒った闘大鶏にすぐ反撃されてる。
「なっ! くそっ! おい! ちゃんとタゲとれよ!」
一人で先行して、火力の高い攻撃を当てたのに。
リーダーなのに全然指揮なんてできてない。
「武藤さん、どうしたの?」
「ぇ……あぁ、いまのパーティーが戦ってるところを見てただけ」
「ぁー。なんかちょっと、こう、かみ合ってないよね。連携がいまいち? っていうのかな?」
「そうだね。リーダーがちゃんと指示を出してないんじゃないかな」
隣にいた結ちゃんとそんな話をしながら眺めていた。
相手は1匹なのに、うまく囲まないから逃げられ、追い回されている。
前衛っぽい装備が3人もいて、なんでそうなるのか。
結局、闘大鶏を一匹倒すのに5分近くかかっていた。
最後はスキル連打の力押しだった。
それならそれで最初からそうすればいいのに……
「渡辺ぇー。悪くはないがもうちょっとスムーズに倒してくれなー」
「くそっ! 次回までにはレベル上げて、もっとうまくやりますよ!」
レベル?
何を言っているんだろう。
もっと考えるべきことはあるはずなのに。
「えーっとぉ、次で最後のパーティーだな。えぇと……誰だ……浅野か?」
「はーい。よし、お前ら、行くぞっ」
「うぃー」「「うん」」「あいよっ」「うっす!」
次は同じ2組の浅野くんたちのパーティーの番らしい。
反対側の壁際から6人が入り口付近に移動している。
布陣した後、リーダーが指示を出している。
そうそう。
ちゃんと指示出しと確認が大事だよ。
複数パーティーで実習する意味を分かっていないんだろうか。
「すまん、
部屋に戻って来た先輩が叫ぶ。
キツツキ?
先輩は闘大鶏を1匹だけ連れて戻って来たように見える。
でも
「浅野ぉー! 防御ぉー!」
猿田先生が大声で指示を出す。
慌てて浅野くんが防御系のスキルを発動させて盾を構えた直後。
大きな激突音とともに浅野くんが数十センチ押し込まれた。
速い……! 目で影しか終えなかった!
「くっ……盾に刺さってる! すぐ倒してくれ!」
浅野くんはスキルの反動ですぐ動けないようだ。
周囲が駆けより、盾の表側を斬りつけている。
耐久力はさほどないのかすぐに光の粒子が見えた。
「よし!
「「「「「おぅ!」」」」」
同じ前衛職のリーダーなのに、さっきと全然違う。
パーティー戦闘の難しさを実感させられる。
2~3分で闘大鶏も魔石に変わった。
「よぉーし。
「「「はーい」」」
「それじゃぁ、パーティー戦闘を初めてやってみて、色々とうまくいかんこともあったはずだぁー。今日はあと二巡ほどやっていくから、各パーティーで反省点を相談しながら臨むようにぃー」
猿田先生が部屋全体に聞こえるように大声で言う。
反省点……
まぁ僕たちのパーティーだと僕が先行して戦って、残りのみんなが後方にいる感じが基本だ。
さっきもそれで上手くいったから、フォロー関係ぐらいかな?
「渡辺ぇー」
猿田先生が
流石に指示の出し方とかを指導するのだろう。
「お前は優秀な剣士ジョブで、しかもいい武器まで持ってるんだぁ。もっとガンガン行かんと駄目だぞぉ。がはははは」
はぁ?
正直、イマイチな先生だと思ってたけど、これほどとは……
「分かってますよ。レベルさえ上がれば余裕ですよ!」
お前も、分かってない。
何も分かってない。
ジョブや装備、レベルにばかり頼って、何も見ていない。
こんなやつがいっくんを無能呼ばわりしてたなんて。
「む、武藤さん…… か、顔が怖いよ……」
「ぇ、あ……ごめんね。ん~……よくない、よくない。いっくん大好き、いっくん大好き、いっくん大好き。よし! もう大丈夫!」
「ぇ、ぁ……うん。よく分かんないけど」
「向こうで
「ぅ、うん……」
困惑顔の結ちゃんの背中を押し、しおりちゃんたちの方へ向かう。
うん、
あの程度なら競争相手にも敵にもならない。
それより、いっくんをパーティーに入れたいなぁ……
宮本さんさえ説得できればいけそうなのになぁ。
同じパーティーならずっと一緒にいられるし……
がんばろっ。
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