第2話 外れジョブ〈幸運〉
わしの名前はエレヴィア・グライアル・ヴァルナード。
初代魔王ルヴィア・ダース・ヴァルナード様の末裔であるヴァルナード家の三女で、ぴちぴちの120歳じゃ。
今日、わしは120歳になった。
この世界の魔族は120歳になると女神ナナミ様からジョブというものを授かるのじゃ。
ジョブを授かれるのは一生に一度だけ。
このジョブがどんなものかで、わしの人生が決まるのじゃ。
しかし心配はしておらぬ。
なぜならわしは魔王国史上最高の魔力を持つ天才、エレヴィアだからじゃ!
わしの魔力はレベル1の時点で、史上最強とされる初代魔王ルヴィア様をも遥かに上回る圧倒的な数値なのじゃよ。
今から魔王城の謁見の間にて、父魔王ゼクス・イレン・ヴァルナード陛下や母上、そして二人の姉の前でジョブを授かるのじゃ。
「これより、エレヴィア・グライアル・ヴァルナードのジョブの儀を始める」
「エレヴィアちゃん、緊張する必要はないわ。リラックスよ」
「魔王国史上最高の天才は、一体どんなジョブを授かるのでしょうか」
「ふん、精々良いジョブを授かるのだぞ。我がライバルよ」
儀式が始まった。
魔王陛下が祝詞を唱え、わしは目を閉じ、女神ナナミ様に祈りを捧げる。
(どうか誰にも負けない最強のジョブをわしにくれ……!)
――神界――
神界の一室にて、女神ナナミが執務机の前に座り、仕事をしています。
女神ナナミは神ヴァクシーの双子の妹で、栗毛の幼い少女の姿をしています。
彼女はご機嫌な様子で鼻歌を歌いながら、
「ふふ、また食後のプリンを賭けたじゃんけんで買っちゃった。私ってばラッキー☆」
そう言う彼女の視線の先には、空になったプリンの容器が置かれています。
その
兄のヴァクシーとは違い、運がいいようです。
「っと、お仕事しないとね。えっとジョブの授与だよね……」
女神ナナミは神としての仕事に取り掛かります。
『どうか誰にも負けない最強のジョブをわしにくれ……!』
「なるほどねぇ、だれにも負けない最強のジョブ……私の誰にも負けないものといったら運の良さだよね。わたしってすっごい幸運なんだから」
どうやら彼女も仕事に集中しきれていない様子。
デジャヴを感じる流れですね。そしてその結果はもちろん――
「〈幸運〉なんて最強なんじゃないかなー……ってあれ?」
女神ナナミが〈幸運〉と言った瞬間、彼女の身体から光があふれ出し、彼女の世界へと流れていきました。
「あ、失敗しちゃった……でもまぁいっか。運が良ければ無敵だもんね!」
ヴァクシーと違い、ミスをしたのに全く反省しない女神ナナミ。そして地上では――
――地上――
祈りを捧げていると、謁見の間の天井から光が差し込んできた。
そしてわしの身体にその光が流れ込んだ。
「……これでジョブの儀は完了だ。エレヴィアよ、ステータスを確認してみろ」
「わかったのじゃ。【ステータスオープン】」
ついにわしも、ジョブを授かることができたようじゃ。
魔王陛下の言葉に従い、わくわくしながら自分のステータス画面を開いた。
名前:エレヴィア・グライアル・ヴァルナード
種族:竜人族
年齢:120
レベル:1
ジョブ:〈幸運〉
体力:102
魔力:97920
物理攻撃:11
物理防御:15
魔法攻撃:233
魔法防御:42
素早さ:59
運:7777
スキル:なし
「……は? 〈幸運〉……?」
……なんじゃこれは? 〈幸運〉? これってジョブじゃなくてスキルではないのか?
というか、わしのジョブは〈魔法使い〉などではないのか!?
「ええと……、〈幸運〉の効果、『運のステータスを7777にする』? えっ、それだけ!?」
何の役に立つんじゃこのジョブは!? 運のステータスって一番どうでもいい項目じゃぞ! ほとんど意味ないステータスじゃから!
「……は? 〈幸運〉?」
「エレヴィアちゃん、えっと……、見間違いだったりしない?」
「〈幸運〉ってスキルの名称ではないのですか?」
「お、おい? 我がライバル?」
両親と姉たちが困惑しておる。
一番困惑しておるのはわしなのじゃが……!
「……エレヴィアよ、〈幸運〉の効果とは、本当に『運のステータスを7777にする』だけなのか?」
「……ジョブの説明にはそう書かれておったのじゃ」
「そうか……」
魔王陛下は額を押さえながらため息をついた。
「エレヴィアよ、後で余の執務室に来い」
「は、はぁ。わかったのじゃ」
こうして、わしのジョブの儀は幕を閉じた――。
どうしてこうなったのじゃ!?
魔王陛下の執務室にて、
「エレヴィア、お前はこの家から出ていってもらう」
「なっ、父上!? どういうことじゃ!?」
部屋について開口一番にこれである。
出ていけじゃと!? ふざけるな!
わしは魔王国史上最高の魔力を持っているのじゃぞ!
なぜ出ていかねばならんのじゃ!
「どうしたもこうしたもあるかっ! 確かにお前は魔王国史上最高の魔力を持っているよ。まだレベル1なのに初代魔王様すら
「ならなぜ出ていかねばならんのじゃ!」
「いくら魔力が高くてもちゃんと使えなきゃ意味ないだろう! お前は今まで何十冊もの魔導書を読んできたのに、一つも魔法の発動に成功していないだろう!」
「どの魔導書も半分くらいしか読んでおらぬわ!」
「なおさら悪いわ!」
「仕方なかろう! 無理やり理解しようとしたら頭が爆発したんじゃぞ!そもそも魔導書というのはわしに向いておらんのじゃ!」
「だから余はお前が魔法に関するジョブを授かることを期待して、今日まで待ってきたのだよ。だがお前が授かったのは〈幸運〉とかいうよくわからんジョブだった。もう戦闘力を期待できない者を魔王の一族の家に置いておくわけにはいかんのだ」
「なっ……」
――わしは魔力と魔法攻撃のステータス以外に優れた点がない。
なのにわしは魔導書にある魔法の内容を理解することができなかった。
理解しようと頑張ったら頭が爆発したくらいじゃから、わしは魔法への適正が相当低いんじゃろう。
つい先ほど運のステータスが大きく上がったが、あれはほとんど意味がないステータスじゃ。
「というわけで出ていけっ! 【
「おわあぁぁぁ!?」
こうしてわしは魔王城から吹き飛ばされてしまった。
おのれクソ親父め!
「ここは一体どこじゃ……」
見渡す限り木、木、木。
魔王城からかなり遠くの森まで飛ばされてしまったようじゃ。
「これからどうすりゃいいのじゃ……って、もしやここは"境界の森林"か?」
……だとしたらまずいのじゃ。この森は確か凶暴なモンスターも生息しておったはず。
「もし今襲われたら……」
想像してみる。
戦う力のないわし+強くて凶暴なモンスター=DEAD END☆
じょ、冗談ではないのじゃ!!
「嫌じゃあぁぁ! どうしてわしがこんな目にいぃぃ!」
わしは絶叫して走り出した!
すると――
「うん?」
そこには、人間の子供がいた。
そしてこの子供との出会いがこれからのわしの人生を大きく変えることになるとは、この時のわしは思いもしないのじゃった――。
―――――――――――――――――
あとがき
エレヴィアの家族の名前ですが、
父親がゼクス・イレン・ヴァルナード(現魔王)、
母親がネレミア・ミンク・ヴァルナード(魔王妃)
長女がミナリアス・マスカ・ヴァルナード、
次女がサンディア・キダツ・ヴァルナードです。
魔王国には貴族がいないので、ミドルネームを持つのは魔王一族だけです。
もう一人神が出てきましたが、
神ヴァクシーはこの世界の人間や亜人などを創造した神で、女神ナナミは魔族を創造した神です。
魔族の寿命は大体人間の10倍くらいなので、120歳でジョブを授かります。
さて、次回はついに追放された勇者と魔王の
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