第36話 それぞれの道
祝賀ムードに沸く街を尻目に、俺は自室で帳簿と向き合っていた。今回の一件で想定外の出費はあったものの、むしろ商人ネットワークの拡大という意味では大きな収穫だった。
「レオン、話が...」
ノックの音とともに、ガイウスの声が響く。執務室のドアが開けると、そこにはガイウスを筆頭に、セリア、ダグ、ミレイアの面々が立っていた。元パーティーのメンバーが勢揃いというわけだ。
「どうしたんだ?」
俺は冷静に観察する。皆一様に気まずそうな表情を浮かべている。
「レオン、お前の力を見誤っていた」
ガイウスが一歩前に出る。以前のような尊大さは影を潜め、真摯な表情だ。
「あの時は...申し訳なかった」
「私たちも謝りたくて」
ミレイアが続く。彼女の目は、いつもの天真爛漫な輝きを失っていた。
「レオンがいなくなってから、色々と分かったの。装備の維持費のことも、資金計画のことも」
「確かにな」
ダグが渋い声を出す。
「お前がいた頃は、装備の修理にも困らなかった」
セリアは黙ったまま、申し訳なさそうに俺を見つめている。
(ここに来るまでに、随分と話し合ったんだろうな)
「俺にも非はあった」
思わず口から言葉がこぼれる。
「もっと上手く説明できれば、お前たちの考えにも歩み寄れたかもしれない。数字や効率ばかりを押し付けて、冒険の醍醐味を理解しようとしなかった」
ガイウスが首を横に振る。
「いや、俺たちこそ、お前の考えを理解しようとしなかった。今回の危機で、お前の戦略眼がなければ、あれほどスムーズには行かなかった」
一瞬の沈黙。
「...パーティーに戻ってこないか?」
部屋の空気が、一気に緊張に包まれる。
俺は静かに立ち上がり、窓際に歩み寄った。外では、街の人々が勝利を祝う宴の準備に忙しない。商人たちは、次の商機を見据えて早くも動き始めている。
「断らせてもらう」
振り返ると、意外にも皆が穏やかな表情を浮かべていた。
「ねえ、レオン」
セリアが初めて口を開く。
「あんたの目は、昔と違って生き生きとしてる」
「お前、夢を見つけたんだな」
ガイウスが静かに言う。
「ああ」
俺は頷く。
「商人として生きていく。それが俺の道だ」
「やっぱりな」
ダグが大きく笑う。
「お前らしい選択だよ」
「私たちは私たちの道を行くわ」
ミレイアが明るく言う。
「レオンは商人として、私たちは冒険者として、それぞれの夢を追いかければいいのよ」
「そうだな」
ガイウスが力強く頷く。
「俺たちも、一流の冒険者を目指して頑張るさ。今度は、お前に恥じない実力をつけてみせる」
* * *
彼らが去った後、執務室に戻ってきたソフィアが尋ねる。
「本当によろしかったのですか?」
「ああ」
俺は帳簿に新しい数字を書き込みながら答える。
「これが俺の選んだ道だからな」
窓の外では、祝賀の準備が着々と進められている。人々の笑顔が、夕陽に照らされて輝いていた。
「さて」
俺は新しい帳簿を開く。
「次の投資先を考えるとするか」
これが俺の選んだ道。そして、俺にしかできない生き方。
互いの道を認め合えたことで、かえって胸が軽くなった気がする。
パーティーでの日々は、確かに大切な時間だった。
そして今、俺には俺の未来がある。
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