04_04_異国の王女様に、食べられちゃいますっ!? 上

***


【Side:スーリヤ】



「は、はい。私のファーストキス、でした……」


(……これ、どゆこと?)


 ちょっと話がみ合わないな?

 エレンちゃん、混乱中?

 いや、待った。

 これって、たぶん……


「ね? キミのお嬢様とは、よくキスしてるの?」

「は、はい。と言っても、週に10回もありませんけれど」


 いやいや、多すぎ。

 新婚夫婦じゃん。


「それって、ファーストキスには入らないんだ? キスはキスでしょ?」

「で、でも……主従の間のキスは、世間一般のキスではありませんから」


 ふうん。なるほど、ね。

 エレンちゃん、いい感じに調教されてるんだ。


(なかなかの仕込みぶりだね。この子の主人、公爵令嬢ミゼリア=アーチバーグ。確か、〝公爵家の道化娘ピエレッタ〟って呼ばれてるんだっけ?)


 こんなに可愛い同い年の子を専属従者に選び、更には生徒として入学させ、そのくせメイド服を着用させ、風紀委員にとがめられても口八丁手八丁で言いくるめ……


(うん、いい趣味。それに切れ者だね。最初は頭パッパラ……もとい、世間知らずのお嬢様かと思ってたけど)


 存外に、気が合う子かも。

 そんな、らしくないことを考えながら、あたしもエレンちゃんを言い包めることにした。


「そっか。なら、大丈夫。あたしの国だと、王女から授かるキスは最上のほまれなんだ。だからこれも、世間一般のキスには該当しないから」

「ふえ?」


 もちろん大嘘。

 だけど、


「そ、そうだったんですか。良かったです。それならひと安心です」


 エレンちゃん、ほっと胸を撫でおろして、ぱあっと笑顔になっちゃった。


(だいじょぶかな、この子?)


 自分でだましておいてだけど、ちょっと心配。


(ま、いいや。ぜんは据え膳だし、おいしくいただこ)


 キスされてこの反応の女の子なら、押したら余裕でいけるいける。


「あの、スーリヤ王女――」

「王女ってのはやめてほしいな。クラスメイトなのに、壁があるみたい」


 食べると決めたら、もう戻らない。

 さっきとは違う言い回しで、強引に距離感を潰してく。


「で、では、スーリヤさんで」

「うん。ひとまずそれでいいよ。エレンちゃん」


 主導権は握りつつ、少しずつ打ち解けさせて親密な空気を醸成する。

 例えるなら、心の下着を一枚一枚、ゆっくりねっとり脱がしてく感じ。

 こういう過程も楽しいんだよね。

 可愛い女の子を食べちゃう時って。


「スーリヤさん、お困りごとはありませんか? 違う国に来たばかりですし、私でよろしければ、ぜひ力にならせてください」


 うんうん。いい子いい子。


「そうだね。じゃあ、可愛いエレンちゃんに、ひとつお願い」

「はい。なんなりと」


 うんうん。ほんとに可愛い。


「もう一回、キスしていい?」

「はい……はいっ!?」


 後退あとじさっちゃうエレンちゃん。

 ま、こうなるよね。


「冗談。そんなに頻繁ひんぱんにキスしてたら、誉れの意味が薄まっちゃう」

「そ、そうですよね。びっくりしちゃいました」


 さっきの嘘を織り交ぜたら、エレンちゃん、ほっと胸をなでおろしてる。

 やっぱり、簡単に信じちゃうね。

 そんな素直なエレンちゃんを、少し翻弄ほんろうしてみよっか。


「でも、エレンちゃんみたいな可愛い子には、何度でもしたくなっちゃうのはほんと」

「ふええっ!? ス、スーリヤさんっ!? 冗談はもういいですからっ」

「どうかな? 王様とか王子様っていうのは、可愛い女の子が大好きな生き物だよ」


 王女って言葉を入れないのは、ちょっとわかりずらいけど一種の逃げ道。

 あたしじゃなくて、エレンちゃんのね。


「も、もう。スーリヤさんは王女様じゃないですか」


 こんな感じ。

 これも冗談だなって思えば、逃げ道が空いているって感じれば、警戒心の妨げになる。

 さて、ここでちょっと、重めの話を入れてみよっか。


「でも実際、そういう王族ばっかりだしね。あたしの国って」

「え? そ、そうなのですか?」

「うんうん。結婚相手に若くて可愛い子ばかり選んでるし、奥さんも愛人も山程いる。王族のお嫁さんって、結構可哀想な扱いなんだよね」

「そ、それは……」


(嘘だけど。むしろベルタうちって、女性の方が権力強い国なんだよね。王族は特に)


「まだ年齢一桁のうちからとつがされて……なんてことも普通にあるし。ひどい場合は、夫以外の男と寝ることを強要されたり」

「そんなっ! あんまりです! ……あっ」


(ほんとは逆。色欲におぼれてるのは女の王族。みんな、若い男で逆ハーレムを築いてる)


「も、申し訳有りません。余所よそのお国のご事情に、私のような――」

「ううん、嬉しいよ。あたしも他人事じゃなかったから。周囲からは、常にプレッシャーと視線を感じてた」


(うるさかったんだよね、早く結婚相手を見つけろって。あたし、女の子とがいいんだけどな。結婚もハーレムも)


「だから、あたしは運が良かったほうかな。そういうことになる前に、綺麗な思い出を作る機会を得られたんだから」


 悲しげにうつむいてみる。

 するとエレンちゃんは、そんなあたしの手をぎゅっと握って、


「一緒に学園生活を楽しんで、一緒にたくさん思い出を作りましょう! スーリヤさん!」


 偽の境遇に心を痛めて、あたしが王女だってことも忘れて、クラスメイトとしてこれ以上ない思い遣りを見せてくれた。


(超いい子。やっぱり味見するしかないな。うん)


 決まってたけど、再度決定。

 エレンちゃんの純潔、いただきます。


「ね? 今からさ、寮のあたしの部屋に来ない?」


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