みことくんはわからない

ロトロノハ

天然は止まらない

第1話 入学式

 みことくんはわからない

  

 花が咲き誇り、桜が散り際の春。私、 見境

見乃留(みさかい みのる)、高校一年生はただ一人をじっと観察している。

 

 私の視線の先には同年代の眉目秀麗な男子がいる。彼は 天野 命(あまの みこと)、あだ名はみこっちゃん。

 と、呼ばれているが、裏では別の読み方をされている。

 

  通称:『尊』(みこと)くん

 

 そう、揶揄ってつけた名は神を指す文字。とても大仰な裏でのあだ名。これを聞いた人は全員、「キラキラネームすぎるだろ」と突っ込みたくなること間違いなし。

 

 しかし、この名をつけたのにはそれほど大きな理由がある。そして、その理由は私が彼を人間観察の対象としてみられるに至った経緯でもある。

 

   ♢  ♢  ♢

 

 それは高校の入学式のこと、まだ桜の花が少しばかり咲いていた時のこと。

 

 私は志望した高校に入学としたいうことでとても緊張していた。つらつらと光る校長の頭に意識が向き、新高校一年生に向ける鼓舞する言葉のどれもが頭を通っては抜けていく。

 

 そんな小事件が脳内で繰り広げられていた私の頭はいきなり固まってしまう。

 

 カツカツ

 

 その音はやけに入学式が開かれている体育館に響いて、生徒の注目は一気にそちらへと向いた。

 

 視線を寄越した生徒の反応は様々で、男子は見るなり少し妬ましそうな顔をしていたり、女子は見るなり頬が紅潮し、涎が垂れていたり、また、尊敬の眼差しをしているものまでいた。

 

 私はそんなみんなの反応が気になって、視線をツルツルピカピカな頭から凛々しく響く音へと向けた。

 

 そこにいるのはまさに眉目秀麗な男子が。黒曜石の如く真っ黒な髪に黒の目、肌は陶磁器のように白く、真珠のような淡さを放っている。しかし、それでいても歩く様には堂々とした威厳があって、少し近寄りがたく感じさせる。

 しかも彼は今壇上に上がっていることを見るに彼は入試成績で首席であるということ。

 まさに才色兼備。

 

 そんな彼は壇上に上がり、校長と向かい合うと一礼し、懐から昔の文のような物を取り出すと、広げて読み上げる。

 

 一般的な入学式の様だが、彼が読み上げることによって、周りの反応は一般的な入学式から遠のいてしまう。

 そう、彼が発する声は天使の如く、穏やかにしかし、よく響いて聞こえてくる。まるで今現在、神から天啓を受けた様な気分にさせられてしまうほどに……。

 そんな声を聞いた女子はもちろん、ひいていた頬の紅潮を取り戻し、「ほぅ」と、吐息を漏らして、彼の姿に見惚れている。

 間近で聞いていた校長なんて……の有様だ。

 

 結局、彼が新入生代表宣誓を読み上げている間、誰もが彼に釘付けだった。その後のクラス移動では、彼が壇上から降りた後にも関わらず、壇上に視線を向けて固まっているものが多くいることによって、17分の遅れが出てしまった。

 

 そんな前代未聞の行動を起こした当の本人は気づかず、立ち往生者が出ていることに戸惑っていた。

 

   ♢  ♢  ♢

 

 そんなことがあって、私は人を魅了することができる彼を目で追って、観察する様になってしまった。

 

 もしかしたら、私もとうに魅了されているのかもしれない。

 

 結局、今まで彼を観察した結果。

 得られたことは

「老若男女問わず、魅了してしまう」

 と、いうことだった。

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