地味女優と得体の知れない俺

風祭 憲悟

第1話 ~起~ 謎の泣き声はノートパソコンから

「うう、ううっ……」


 ノートPCから聞こえてくる謎の泣き声。


(えっ、なんだ、ウィルス?!)


 よく聞くと女の声のようだ、

 背筋を寒くしながら調べると何の事はない、

 先日、舞台で使った『メカ大仏』の通信装置だ。


(まだ音声出力、生きているかな)


 舞台裏とやりとりするため、

 大仏とPC双方で通話ができるはず、

 俺はやさしく、マイクに声を吹きこむ。


『ソンナニナイテ ドウシタンダイ』


「ひいいいっっ?!」


 うん、若い女性の悲鳴だ。

 こちらからの声はボイスチェンジャーで機械音声のようになっている。


『コワガラナイデ、メカダイブツダヨ』


「これって、AI?!」


 残念ながら生身の人間、しかもおっさんなんだな。


『ワタシハ メカダイブツ ニジュウナナセイキノ ダイブツサ!』


 劇の設定そのまま使って良かったっけ、

 脚本書いた俺が良いっていうんだから良いだろう、

 監督にはまた、しゃぶしゃぶ食べ放題でもご馳走すれば良い。


「あの、私、雛塚雪美と申します」


『ゲイメイヵ?』


「いえ、本名です……ううっ」


 鼻をすすっている音が聞こえる、

 感度良好だな、それにしてもなんでまた。


『コンナ オオドウグソウコデ ナニヲナイテイル』


「私、役者として何もかも、上手くいかなくって」


『ソコニスンデ ナガイノカ』


 ……間が空く、

 よく聞くとどうやら鼻をかんでいるらしい。


「……んっ、はい、もう半年になります」


 やはりか、メカ大仏が置いてあるのは劇場の大倉庫、

 都内某所にある『ゴールデン フロッグ シアター』だ、

 マルチタレントの夫(故人)と女優の妻、夫婦が自宅横に建てた百人規模の小劇場。


(そして今、俺が居るのがその裏のビジホなんだよな)


 丁度、壁を二枚挟んだ先か、よく電波通るな。


『ソコノオクサン イイヒトダゾ』


「はい、劇場に若手女優を住まわせてくれるくらいですから」


『ナラ ナゼナク』


 ……無言ののち、また涙声に。


「うぅぅ、二十一歳で、何もかもが、不安で」


 俺なんかは三十九歳で全てにおいて不安しかないぞオイ。


『ソレデ ワタシニ ナキツイテイタノカ』


「はい、コンセントを入れると綺麗に光ったので、よく相談を」


『ソウカ……』


 俺はペットボトルの水を飲んで、時計を見る。


『スコシナラ キイテヤロウ ドウシタ』


「じ、実は、オーディションに三十連敗で」


 いや三十もオーディションを受けられるのが凄いよ。


『クワシク キコウカ』


「はい、先日も……」


 こうして俺は声だけしか知らない若手女優の相談に乗るのだった。


『……ナルホド、ソレハ、ナマエガワルイ』


「えっ、本名なんですが」


『ナマエニ ”雪” ガ ハイッテイル』


 さっき検索して、かろうじて名前が出てきて漢字がわかった、

 うん、夏の海岸でナンパされる女の子の名前に『雪』が入っているのはね、

 正体が実は雪女でしたっていうならまだわかるけど(どんな伏線だ)、パンフレットを見て、


 CAST

 水着ギャルC:雛塚雪美


 というのは夏が舞台なのには相応しくない。

 あくまで俺の意見ね、正確には俺と俺の師匠の。


「そんな、有名な俳優さんに季節の名前とか山ほど」


『ウレテカラハ イインダヨ アトカンジガ スマホダトカタマリニミエル』


 うん、画数が多くて下手すると、

 スマホぱっと見で■■■■ってなっちゃう漢字が続くのは良くない。

 無名な内は。


「では、私はどうすれば」


『ゼンブ ヒラガナ デ ドウカナ』


「ひなつかゆきみ、ですか」


 これなら『雪』も『幸』とか『行き』とかのイメージも出るだろう、

 売れて漢字にするなら『由希美』とかかな、売れれば苗字も雛塚でいいし。

 

(俺の名前? 脚本家:摩天楼寺 徳大 だよ!)


 まあそこそこ生活は出来ている、独身だからね。


「あと、他にもここで住み込みで劇場の掃除とかもしていて、それで一年先輩が気が強い方で……」


 こうして俺は自分の脚本もそっちのけで、

 この若い女優の相談に乗り続けたのであった、

 そう、『メカ大仏』として。


『トイウコトダ ワカッタナ』


「……ありがとうございます、誰も相談できる人が居なくて、心が、楽になりました」


『ウム ヨキコトヨ』


「それで……次はいつ、また相談に乗っていただけますか」 『エ』


 といった流れで、

 脚本の缶詰に来たこのビジホに、

 毎週通う事になった俺なのであった。


(う~ん、ま、いっか)


 話が終わって改めてネットで検索すると……


(名前だけ出て、顔が、姿が出てこねえ!!)


 まあ、この業界に居れば、いずれは、ね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る