第7話「日常」
あれから2週間が経った。何もなかったわけではない。友人と飲みに行ったり、上司に嫌味を言われたり、これまでなら大したイベントでもなかったことがピックアップされるくらいだ。
かといって何かが足りないだとか、胸に孔が開いたような感覚もない。しかし、確実に人生だとか、自分のことだとか、これまで考えもしなかったことに思いを馳せる時間は増えていた。
はるか昔に暇つぶしに哲学を学んだローマ人みたいに、思いにふけった。後悔してみたり、泣こうとしてみたり、楽観しようとしてみた。それでも結論は出ない。
もしかすると悩み続けることが正しさなのかもしれない。
人種やら性別のような差別問題も考え続けることが答えだと思う。どーせ後悔しない選択肢なんて無いんだろうし、誰かが割を食わなくちゃならない。
それなら、納得できる後悔がしたいし、割を食う人もそのやるせなさもなるべく少なく小さいほうがいい。
けど、その後悔は一生抱えていかなくてはいけないし、同じ航海をもう一度許せはしないのだろう。
この2週間でたくさん後悔して、どうすればよかったのかを考えた。けど、何を選んでも後悔はしていた。たらればは想像以外の何物でもない。それでうまくいってもどこかで後悔する。俺は大学時代、遊んでおけという大人の声を無視して全力で未来への努力をしていた。確かに、他の奴らと比べれば遊んでいなかったし、今の職にも環境にも満足していた。それでも、あの時もっと遊んでおけばとも思う。
でも、あの時遊んでいたなら、今頃、もっと頑張っていたらとか言っていたと思う。
口にした白米を頭に浮かぶ考えの数だけ噛みしめる。
もともと、食事中にTVなんかを見る習慣がないから、今は考え事をするくらいしかやることがない。かといって、そこまで味わい深い飯を作れるわけでもないのだ。
自分でも取り返したのか、新しく形成されつつあるのかわからない日常に困惑しながら、日々を過ごしていく。これからの未来予想図も希望も砂になって消えて、俺は始発の電車に揺られるみたいに生きていくのだろうと思って悲しくなる。
時折すれ違う、笑いながら手をつないで歩くカップルから目をそらし、自分もあんなに輝いていたのかと後悔する。今の自分には光がないのだろうか、それにしては、自分を嫌いになるようなことはなくて、死にたいなんても思わない。
少しずつこうやって考える時間も減っていくのだろう。
いつかは、新しい恋なんてするのだろうか。
自分は別れを告げた人の幸せを願えているのだろうか。
わからないことだらけの頭の中を整理する間もなく、茶碗は空になって、現実に引き戻されていた。
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